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秘密の シリーズ

秘密の※男性視点

作者: 陽

拙い文章ですが、男性視点で進みます。

前作お読み頂ければ、話の内容は分かるかと。

今日も今日とて同じことの繰り返し。

出仕してその日の仕事をこなして夜中になってようやく家に向かう。机の上に手紙を添えて置いてある翌日の食事をありがたく持ち、妻の顔を見て額に口付けてまた家を出る。

そんな日々を繰り返すこと、一年。


未だに妻と暮らすことは叶わない。


***


「…おい、これをやるのか? 俺が」

「任せたよ。君なら安心できるからね」

「…お前のせいで一年間任務に飛ばされて寝てる姿の妻にしか会えない俺に対する仕打ちがそれか」


嫌味にも笑顔を崩さない友人兼上司の態度に苛立ちが募るが、ここで食ってかかるのも体力と気力の無駄だ。


「…分かった。この任務は引き受けた。その代わり条件がある。この任務を最後に通常部署に異動させろ」

「…んー…ま、いいよ。君には長い間頑張ってもらったからね」


意外とあっさり約束を取り付けると、自分の部下にそれぞれ指示を下して、何とか起きている妻に会うべく、いつも以上に早く帰れるよう仕事を終わらせた。

…のだが、やはり今日も帰り着いたのは夜中で、すでに妻は眠っていた。

結婚した当初に買った広いベッドに丸く縮こまって寝る妻の姿に、僅かに笑みを浮かべた。そして前髪をかき分けて額に口付けると、小さく呟いた。


「…行ってきます」


***


現在所属している部署の名前は、特殊部隊。そのままの意味で特殊な仕事ばかりを扱う部署だ。具体的に何をするかというと、敵国への潜入、情報収集から、国内勢力の保持など、まぁ色々と仕事は多い。


その中でも騎士の家に生まれた自分は、若い頃から期待され、この部署に勤めること八年。結婚したのは一年前だが、特殊と名が付くだけあって、独身であろうと既婚であろうと容赦なく任務に駆り出される。ちなみに既婚者は少しずつ減っていく。

なぜなら一切の情報を漏らしてはならないため、一人暮らしを強要されるからだ。

結婚をしても愛する人と暮らすことはできない、その過酷さから既婚者がいなくなっていくのだ。


随分と前から自分も異動願を出しているのだが、それが聞き入れられなかったのも慢性的な人出不足によるものだ。人出不足の中で、長年勤めてきた戦力が抜けるのは致命傷だということは百も承知だったが、それよりも妻と暮らすことを願った。


「隊長、準備ができたそうですが」

「…分かった。今日で終わらせるぞ」


友人兼上司からの任務を、通常なら一ヶ月はかかりそうなものを、半月と少しで終わらせたのは良いものの、今日はこの後も報告書やら何やらで帰れそうにない。

きっと今日も彼女は自分のために愛のこもった弁当を作ってくれているだろうに。もったいない。

重い溜息をつきながら報告書に向かう、三徹目の夜中だった。

翌朝というか、日が昇ってようやく終わった報告書を提出して、馬を駆って妻の元へと帰ろうとした所を、奴の側近に捕まった。


「…おい、何のつもりだ。奴の命令だろう」

「主人より言付かってますので。三徹してまでも帰ろうとする馬鹿に、仮眠をとらせろ、と」

「大したことはない」

「もし何かあったら困るから、だそうですよ。私も従わないわけにはいかなくて、申し訳ありません」


一つの舌打ちを残して強制連行された仮眠室で横になると体の疲れには抗えなかったようで、いつのまにか眠りに落ちていた。

ドアが開く音で目を開けると、奴が笑顔を向けてきたので睨み返してやった。


「寝れた? だいぶマシでしょ。ひどい顔を奥さんに見せるよりは良いんじゃないかなぁって思っての気遣いだったんだけど?」

「…余計なお世話だ」

「そんなこと言っていいわけ? 異動願握りつぶしてもいいんだけどなぁ」

「…お心遣いどうもありがとうございました」


精一杯の皮肉を込めて言ったつもりだが、全くもって気にしていないようでその笑顔は崩れない。奴の裏の顔を知っているやつは、この国に何人いるんだろうか。きっと数えるほどしかいないはずだ。

それほどまでに自分の感情をコントロールすることに長けている嫌味なやつだ。


「すっきりした?」

「まぁ、だいぶ疲れはとれた。てことで俺は帰る。ちゃんと異動させとけよ」

「はいはい。約束だからね」


きっちりと言質を取ってから、家で待ってくれているであろう妻の元へと愛馬を走らせていつもより急ぎで帰った。

二人だけの大きくない家は電気が点いておらず、不思議に思いながらも愛馬をつないでドアに手をかけると鍵すらかかっていない。

さすがに変だと感じて踏み込んだ家の中は、荒らされた形跡はないものの、完全に彼女の気配はなく何かを使っていた形跡もない。


「何が…あったんだ…」


彼女の影が近くに見当たらないことも確認した後、彼女の実家へと向かった。

着くとすぐに唯一の使用人だったという老執事が部屋に通し、対応してくれた。


「ラウエル子爵は御在宅か」

「旦那さまは視察で出かけておられます。お嬢さまに何かございましたか」

「先ほど三日ぶりに家に帰り着いたのだが、彼女の姿が家になく家の周りを探しても見当たらず…もしやこちらに来ているのではと思って」

「…お嬢さまは一ヶ月前にいらっしゃって以降、こちらには来ておられません…」

「…そう、ですか。ありがとうございました。彼女は必ず見つけ出すので、子爵夫妻にはこの件は伏せておいて頂けるか」

「…分かりました。何かあれば教えて頂けますか。老獪でもお役に立てることはあるはずです」

「分かりました、すみません…失礼します」


手がかりはなかったものの、実家ではないことが分かったのであとは彼女の友人か、市場の方か。手当たり次第に一人で探すのは骨が折れるので、一度王都に戻って部下を連れてくることを即決すると、愛馬を全速力で駆け抜けさせた。


「…あれ、戻ってきたの?」

「彼女が消えた」

「……はぁっ⁉︎」

「そのままだ。悪いが直属の部下を連れて行く。手続きは任せたから、悪い」


それだけを早口に言い残すと、待機所でくつろいでいた休憩組と訓練場にいた特殊部隊員を集めて手短に説明した。


「任務終わりに集めてすまない。俺の妻が消えた。家の周りと実家ではないことは分かっている。彼女を見つけ出してくれ。何でもいい、とにかく調べてしらみつぶしに当たる」

「分かりました。二つに分けたほうがいいでしょうね。こちらの指揮は俺が執ります。それでいいですか」

「任せた。行くぞ」


名乗り出てくれた副隊長に片方を任せると、もう一度隊員を引き連れて家に戻って、担当を振り分けた後、家に手がかりがないか、しっかりと調べることにした。

よく見るうちに、訝しく思う部分は幾つかあった。


それを調べている内に、報告をしに何人か部下も戻って来たのでそれと照合した結果浮かび上がった名は、一人。


“ アドルフ・バーネット ”


元々が貴族ではない自分では、貴族の関係など知るはずもなく、ましてや結婚してから一度も共にいない夫婦の間にそんな話題をする時間があるはずもなく。

しょうがなく部下たちに待機を命ずると、彼女の実家で確認を取ることにした。


「アドルフ・バーネットさま、ですか…三年前にお嬢さまにしばらくつきまとっていた時期がありましたが…それ以来は一切。その時にここから最も遠く離れた場所に飛ばされたと聞いていましたが…」

「ありがとうございました」


話を聞き終わるとすぐに、特殊部隊員の中でも実務に長けたメンバーを数人選びだして隠れ場所だと見当をつけた場所に向かった。もちろん全身黒づくめ装備で誰が誰だか分からない状態だ。

奥まで進むと明らかに怪しい建物が見つかった。ドアの前に二人の警護が立っているだけで中に入るのは容易そうだ。

散らばった部下に合図を出して、一瞬で警護を地に伏せさせると音も立てずに中に入り込んだ。


「人の気配は奥だ。とりあえず警護と入れ替わる」

「お前ら、穏便にな」


その副隊長の言葉がしっかりと頭にあったのか、警護を打ちのめすのもあっさりとしたもので、拍子抜けするほど簡単に入れ替わりは成功した。

しばらく時間が経ってようやく主犯の顔を拝むことができた。一瞬にして怒りが湧いたが、それを収めて付き従った先にいたのが彼女の姿。何日が経っているのだろうか、意志の強い目は変わっていないが衰弱した様子だ。


「長く待たせてごめんね、僕の花嫁。準備ができたんだ。行こうか」


そのセリフにまたもや怒りが湧いたが冷静になれと言い聞かせて、主犯のアドルフ・バーネットが言うように彼女を担ぎ上げた。

もちろん、負担はかからない体勢だ。

結婚のことを隠しているとはいえ、人妻に、それもこんな馬鹿みたいな方法で手を出そうとする限りこの男の頭の弱さが知れる。

建物の外まで出て、馬車の前に来たところで制圧の指示を出し、一切の無駄な動きなく奴らを捉えることができた。


肩に担ぐようにしていた彼女を腕に抱きかかえる形に変えると、目を瞬かせてこちらを見る彼女に分かるよう、口元と髪の毛を隠していた布をずらした。


「…遅くなって、悪かった」


一瞬の驚き、そしてすぐに首に縋り付くように手を回して泣き始めた。


「…旦那、さま……旦那さまぁ…!!」


気を張っていたのが緩んだのだろう。

彼女をこんな不安な目に合わせた自分にも苛立ちが募るが、何よりも奴らを痛い目に合わせておかないと気が済まない。


近くに繋いでおいた愛馬に彼女を乗せてから、副隊長に指示をして残りの作業を任せると、彼女の後ろに跨ってゆっくりと馬を歩かせ始めた。

まだ緊張しているのか、強張っている彼女を引き寄せて胸にもたれさせると、言い聞かせた。


「寝ていろ。絶対に落とさない」


家に着くと、素直にその言葉に従って眠っていた彼女をナイトドレスに着替えさせてからベッドにに寝かせて、自らの熱を冷ますためにシャワーを浴びてから、彼女を抱きしめるようにしてベッドに潜り込んだ。


***


翌朝、いつもの癖で日が昇ってすぐに目が覚めていたのだが、彼女と共に居られる時間を満喫するべく抱きしめたままで目をつむっていると、腕の中の彼女が身じろいだ。

腕から抜け出そうともがいている様子なので、拘束を強くしてみると彼女が振り向いた。


「…だ、旦那さま…起きてますか?」


伺う様子が可愛くて、目を開けるとなぜか彼女が顔を赤くした。


「…おはよう」

「…お、おはようございます…」


しばらく無言で見つめ合っていたのだが、再び彼女が身じろいだ。


「…あの、少し離して頂けると、ありがたいのですが…」

「…嫌だ」

「…心臓に悪いですからっ」


どうしても抜け出そうとする彼女がさすがに可哀想で、少しだけ距離を開けた。


「旦那さま…お仕事は?」


今までにこんなことがなかったからだとは思うが、少し不安そうな顔で聞いてきたので、そんな姿さえ可愛らしくて微かに笑んだ。


「あぁ、異動にしてもらった。今日は休みだ」

「…そうでしたか」


状況が飲み込めないような、不思議そうな顔をしているが、それよりも何かを思いたったのだろう、慌てて起き出して部屋を出ると次に戻ってきたときにはすでに身だしなみを整えていた。

そして保存庫を開けた彼女の動きが止まった。


「……な、ない…」


すぐに俺の側まで来ると、買ってくるなんてことを言い出した。


「…いや、いい。食べに行こう」

「そんなもったいないことできません!」

「俺が出すから良いだろう」


そう言えば彼女は領主の娘だが、貧乏だったことを思い出した。結婚する前からもったいないを連発していた。

手早く私服に着替えると彼女を連れて知り合いの店に向かった。

その道すがら。


「旦那さまっ、結婚してるのが、皆に…!」

「…もう隠す必要はないが?」

「…え?」

「異動にしてもらったから、隠さなくてもいい。から気にしなくていい」

「……はい」


そして知り合いの店に着くと、声をかけた。


「あら、いらっしゃい。久しぶりね? どうしてあなたがお嬢さまを連れてるの?」

「彼女は俺の妻だ」

「…へぇ…。隠していたのもわかる気がするわ。また聞かせてよ」


人の弱みを握るのが好きな奴だと忘れていたが、それを広めたりするような奴ではないことも確かだ。


「…気が向けばな。早く案内してくれ」


窓の隣の席で彼女と向かい合って座ると、彼女は真剣な顔でメニューと向き合っている。きっと彼女のことだから安く済ませようと考えているに違いないだろうけれど。


「迷うならまた来たらいいんだ。早くまともな食事を食べないと倒れるぞ」


そして、しばらくして運ばれてきた料理を名家のお嬢様らしく綺麗に、だが熱いのかしっかりと冷ましてから口に運ぶ。

その後に浮かぶ、笑み。

その様子があまりに可愛いので、思わず笑ってしまった。


「…何か、おかしかったですか…?」

「いや、美味しそうに食べるなと思っただけだ。それに君は食べ方が綺麗だ」

「そんなこと、ないと思います、けど…」


少しムッとしたように頬を膨らませた姿が、余計に煽るのだと知っているのなら彼女はある意味の天才かもしれない。


まともな食事をしばらくとっていなかった彼女にとっては、空腹の方が見つめられるより堪えたのか、すぐにまた食事を再開した。


***


その帰り道、彼女がいつも利用しているという市場に寄って食材の買い出しをすると、どの店でも彼女は笑顔で声をかけられていて、それだけで普段彼女が領民からどれだけ慕われているのかが分かった。

家に辿り着くとソファで二人並んで一息つき、落ち着いた頃にゆっくりと伺うように彼女に昨日までのことを聞いた。


「…嫌なことを思い出させたくはないんだ。だが、昨日の話を聞いても?」

「…旦那さまになら、大丈夫ですよ」


その話を聞けば一層自らの手で、主犯のアドルフ・バーネットに何か報いてやりたいという気持ちが湧いたものの、そんなことをしても彼女が喜ぶわけではないので自重することにした。


「…辛い目に合わせた。肝心な時に側に居てやれない自分が情けない」

「そんなことありません! だって、旦那さまは助けてくれたから、ちゃんと」


懺悔と言わんばかりの言葉に、彼女は真剣な目で見つめ返してくれる。

あぁ、だから彼女がいいんだ。

俺だけを見つめてくれる、その優しい目が好きで。

離れている一年間、一瞬たりとも忘れなかった愛おしい人。


彼女の腰に手を回すと、ぐっと抱き寄せた。

そしてその耳元で。


「本当に愛しているんだ」


不意打ちだったからなのか、真っ赤になった顔を隠すようにして俺の首に手を回した彼女は、小さな声で言った。


「…私も、愛しています…」


この人と共に居られるなら、それだけでいい。

だから、ずっと離さない。

二人でこれからの時を、過ごしたい。

読んでくださりありがとうございます。ほんの少しの人でも目を通していただけたら幸せです。

この二人は名前が出てきていませんので、また短編で何か書きたいです。その時はよろしくお願いします(*´◒`*)

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