お風邪という名の友人に
お風邪という名の友人に
思いもかけず好かれてしまったら
ともかく愉しいことをやってやれ
腹の底から声だして
オーオー歌をうたえば
地鳴りぢゃないかと驚いて
お風邪は逃げてゆくでしょう
跳んで回ってまた跳んで
調子のりのり踊りをおどれば
天地がひっくり返ったと慄いて
お風邪は逃げてゆくでしょう
箸が転げちゃ可笑しいと
阿呆になって笑い転げりゃ
馬鹿馬鹿しいやと呆れ果て
お風邪は逃げてゆくでしょう
ところがお風邪という名の友人の
中でも頑固な奴はいて
それだけやっても
逃げてゆかない時もある
お風邪という名の友人に
頑固に好かれてしまったら
頭は霞みががって儘ならぬ
喉は熱持ち儘ならぬ
四肢はガタピシ儘ならぬ
やらねばならぬことなぞは
山と詰むほどあるというのに
何につけても儘ならぬ
そんなときには腹据えて
居りたきゃ居るがいいと言ってやれ
まったく困ったやつだと
恨み節して肩を並べりゃ
お風邪はへらへら顔して
満足そうに笑うでしょう
笑って熱を上げるでしょう
鼻をぐずぐず詰まらして
息苦しくもさせるでしょう
そうして随分酷く人を困らして
お風邪という名の友人は
思いもかけず去っている
じゃあなと言うより随分前に
思いもかけず去っている
少し寂しい
などとは絶対思わん
お風邪という名の友人は
必ずやってくるから
思いもかけず
必ずやってくるから
お風邪という名の友人に
思いもかけず好かれてしまったら
次はどうしてやろかと
企み練って
てぐすね引くよに待っている
来るなら来いと言ってやれ
お風邪という名の友人に
お風邪という名の友人に