憧れの先輩
ある日、ある夏の出来事だ。
僕は同じ部活の仲間と共に明日、肝試しをやるためにその下見へととある神社へ出かけた。
その神社は深い林の中にあり、肝試しをやるにはもってこいの場所だった。
他の仲間が肝試しでうきうきしている反面、僕はあることに燃えていた。
同じ部活の先輩、まるでオリオン座のベテルギウスのように赤く煌めくその輝きを持った赤い髪が魅力的な女性。
真っ直ぐで決して諦めないその性格からみんなの憧れである一ノ瀬はるか先輩に僕は恋をしていた。
つまり肝試しで一ノ瀬先輩にいいところ、男前なところを見せるために僕は燃えていたのだ。
放課後
早速みんなで神社の下見に出かけた。
メンバーは同級生2人と一ノ瀬先輩だ。
林は昼間でも少し暗くカラスの鳴き声があたりにこだましていた。
10分ほど歩いたところだろうか。コンクリートでできたような灰色の鳥居を抜けて社に着いた。
「社に着きましたし少し木陰で休みませんか?」
と僕は提案する。
「それもそうだねぇー。みんなー!ひとまずきゅうけーい!」
と一ノ瀬先輩が高らかに指示をした。
社の周りにも植物が生い茂っけおり、この暑い夏ならここは天国とも言えるだろう。蝉の鳴き声を除けばだが。
「はいっ!」
と、後ろから一ノ瀬先輩がいきなり冷たい缶ジュースを頬に当ててきて、思わず「うわっ!」と声をあげてしまった。
「えへへ。驚いた?」
「そりゃもちろん驚きますよ!」
とても自由奔放で無邪気な彼女。そんなところにも僕は惹かれていた。
「時坂はじめ君だっけ?」
「そうです。時坂はじめです。」
「なんかいいよねー。はじめってさ!こう真っ直ぐな気がして!」
「あはは……ありがとうございます。」
そんな名前に似つかない性格をしていますけどねーと内心後ろめたく思った。
「一ノ瀬先輩の方が、よっぽど真っ直ぐで僕なんかちっぽけな存在ですよ。」
自分なんて結局は周りの考えに左右されて、自分をいつも見失うばかり。そんな自分が僕は嫌いだった。
「悩み事でもあったりするのかな?」
心情を見抜かれたのか、それとも女のカンてやつなのかわからないが、少し一ノ瀬先輩は真剣にこちらを見つめている気がした。
「いえいえ。自分の事ですからお気になさらないでください。一ノ瀬先輩。」
「はるかでいいよ。」
「えっ?」
唐突に意外な答えが飛んできて困惑する。
そんな中、自分が手に持っていた缶ジュースを、無理やり取り上げ少し飲まれてしまった。
それを強引に僕に返す。
そして肩をバンバン叩きながら
「そうかいそうかい!頑張れ後輩!困ったらいつでもこい!」
そう言って、はるか先輩はどこかに行ってしまった。
缶ジュースは、少し甘酸っぱい味だった。
ある程度、どんなルートで行くかを確立し、隠れられそうな場所に目星をつけて下準備が終わった頃、いよいよ日も暮れてきて暗くなってきた。
「そろそろ帰ろうか。みんな。」
と彼女は提案する。
その提案に反論する理由もなく、僕達はその場から撤退しようとした。
その時
「待って……。」
と頭に直接響くような声がした。
気づいているのはどうやら僕だけらしく、先輩達はどんどん進んでいってしまう。
「おーい!後輩くーん!何してるんだー!いくぞー!」
「あっ。はーい!」
その声に背いて、僕はそそくさとその場をあとにした。
家に帰ってもそのモヤモヤは収まらず、確かめるために僕はもう一度社に向かった。
林の中はとても暗く内心、早く家に帰りたかった。
なんとか社に着く。夕方のように声はもうしない。
「せっかく来たんだし1つだけ、お願いをしてもいいかな。」
財布にあった5円玉を取り出し賽銭箱に投げ込む。
手を合わせて、こう願う。
『どうか、先輩に振り向いてもらえますように』と。
閉じた目をゆっくり開けると、そこには1人の少し小柄な、白い着物を着た長い金色の髪をした少女の姿があった。
読んでくださった方々ありがとうございます。
2話、3話もすぐ掲載しますのでそちらもよろしくお願い致します