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ツマラナイセカイ

作者: 前向前進

 一時間ほどで書き上げた作品です。

 世界はいつも回っている。回って回って、朝と夜を繰り返す。止まることを知らず、ただただ回る。時計の針は止められない。

 世界は繰り返される。同じような一日は何度かあった気がする。いや、あった。無駄に過ごした日も充実して過ごした日も、同じような出来事の繰り返し。繰り返し。繰り返し。

 いつになったらこの日々から抜け出せるのだろう。死ぬことが唯一の手段? いや、死ぬのは怖い。怖いものは何度繰り返そうが怖いものは怖い。そして、死ぬことと生きることは一度しかできず、生き死にを繰り返すことはできない。

 セカイハツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイツマラナイ……。

 ああ、セカイがまた始まる。セカイはまだ止まらない。セカイは、セカイ、セカイハ、オワラナイ。




『そんなこと言わずにさ、ついてくればいいのに。楽しいよ、きっと』

 誰かの声が聞こえた。いや、聞こえるはずがない。俺は一人だ。この世界に一人だ。

『むすっとした顔してないで、笑おうよ! に〜って』

 いや、聞こえるはずがない。世界は俺一人を残して勝手に滅んで、神すらも見向きしなくなった世界に、神は俺にこの世界を託して、消えた。俺に地獄の毎日を、繰り返しの日々を与えた。

『あっ! やっと笑ってくれた。もう、……は意固地になりすぎ。そんなんじゃ、面白いことも面白くないよ』

 今度は鮮明に聞こえた。これは彼女の声だ。ずっと変わらず、ずっと同じことを言うのに、彼女の声だけは繰り返そうが飽きはしなかった。

 彼女はとうに死んだ。世界の終わりと同時に。今となっては遠い遠い過去の話だ。何回時計が回ったのかは知らない。数えたことなど一度もない。あの日からずっと繰り返しのセカイに俺は存在し続けているのだから。



 そういえば、世界はなぜ滅んだのだろう。確か、あのとき、神様はこう言っていた。

『もう世界はどうしようもなくなった。このまま繰り返すこともできず、いずれ止まる世界に誰が愛情を注ぐのだろう。私はもう、このセカイはいらない』

 神様のくせに無責任な、と言っても神様は平気で世界を止めた。繰り返すことができない、ずっと何も生まれない世界に変えてしまった。

『これは気まぐれだよ。君が人間をやめることになったのも、この世界がゼロになろうとしているのも。君がこのセカイに愛情を注いでいけば、いずれこのセカイはゼロから動き出す。また同じことを繰り返すことになるだろうが、君にはどうしようもないよ』

 何を言っているのかなんてわからない。何も聞くこともできず、神様はこのセカイから消えた。



 彼女の声が聞こえたような気がして、彼女がまだいると思って今もまた彼女を探し、セカイを動かそうとする。

「愛情を注ぐって、どういうことなんだよ……」

 未だにそれがわからない。水を与えても緑は蘇らず、灰に染まった空を綺麗にしても、また世界は汚れてしまう。

 一体、どうしたらいいのだろう。考える日々が続く。

 考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考えて、考え続けて、またセカイは繰り返される。



「そうか……やっとわかった」

 考え続けた日々を終わらせる日が来た。時計の針が何度回ったかはわからないほどの時間は、俺にはもう意味がない。

「この世界はもう動かないんだ」

 愛情を注ぐことによって動き出すセカイなど元からなくて、神様が言ったのはきっと、俺に希望を持たせようとしてくれただけなんだ。

 それがわかったから、俺にできることはもうない。ただずっとセカイは繰り返される。それに付き合う精神も、付き合う義理ももうない。俺は繰り返されないセカイに行く。一度行ったら二度と戻れないセカイへ旅立つ。

 体に残る力を霧散させる。淡い緑色の煙が天上に登っていく。徐々に体が動かなくなり、地べたに俺は倒れる。



 薄れていく意識に、また彼女の顔が浮かんだ。

「……そういえば、彼女の名前……なんだっけ」

 自分の名前などもう覚えてない。それなのに彼女の名前が思い出せることは無理に決まっていた。無理なことのはずだった。

「……愛菜、だったけ」

 ふっ、と俺は微かに笑う。

 彼女の名前を最初に呼んだとき、彼女は嬉しそうに、そして、恥ずかしそうに笑っていた。

 これから繰り返される日々も悪くない、と思っていた頃の話だ。そんなときに、世界は滅んで、俺は人間をやめて、彼女はいなくなった。

 会いたい。彼女にものすごく会いたい。それの一心で俺は今の今まで生きてこれた。

 彼女の痕跡を探した。彼女との思い出を探し歩いた。でも、何もなかった。何も、残されてなどいなかった。

 時間は全てを風化させた。残ったのは俺の中にある、彼女の記憶だけ。それももうなくなろうとしているが。

 消えていく。何も残さず、何も残せず、俺は、死ぬ……。



『ねぇ、もしも、……と同じような人がいたらさ、私と同じように接してあげて。そうすれば、……と同じように笑顔を見せてくれるかもしれないから』

 最後に聞いた彼女の声が、最後の希望……かもしれない。

 俺は笑った。安らかに。このセカイに彼女がいた、と残すために……。



    ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「さて、どうなっていることやら……」

 彼に渡した力が戻ってきたことにより、私はまたセカイに現れた。

 灰色の世界。やはり、彼にはできなかったか。愛情を注ぐ、ということが人間にしかできず、私たち神様はそんな人間たちにとっては当たり前なことはできない。

 だから、彼に、気まぐれに選んだ人間に力を渡して、私は眠っていた。私が起きたのだから、彼は何かに気づいて死んだ。

 彼が消えた場所に何か残されているのではないか、と私は移動した。

「これは……」

 彼が死んだと思われる場所だけ、世界は晴れ、緑があった。

 私はその草木に水を与え、天の灰をくり抜いた。すると、たちまち緑は世界に広がり、残る灰が全て消えていった。

 セカイが、また回り出した。

 彼は一体、何に気がついたのだろう。愛情を注ぐ、ということが何をすることなのか、彼は気づいたのだろうか。

 今となっては、もう彼はいない。セカイは彼をなくして、ゼロから作り直すことに決めたのだから。

 これを見て、何かしら感じていただければ、作者は幸いです。

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