現在の状況
2mのウサギが出てきたあたりから、そろそろ受け入れなきゃ駄目かなぁとは思っていたが、ここはどうやら(少なくとも)俺の知っている地球ではないらしい。
もしかすると俺が知らないだけで、地球にはこんな場所やあんな生き物が存在するのかもしれないが、ハッキリ言ってそんなものは無いだろう。
ここはカンタール王国。『グランフェリア大陸』の西方にある大陸有数の大国。ニング草原はそのカンタール王国の中でもかなり南側にある『魔獣』の生息する危険地域らしい。
レオール率いるアーリア聖騎士団三番隊(の中から数人連れてきたようだ)は、最近になって活発に活動を始めた魔獣の討伐のために、ニング草原に来た。
ある程度の魔獣を狩ったところで探知能力に長けたメンバーが黒斬兎を捕捉。その直後に俺の反応も捕捉したため、救出するために駆けつけてくれたようだ。
「しかし少年、っと失礼。カズマは魔法師なのか?」
「魔法師?」
また新たな単語だ。なかなか夢膨らむ単語ではあるが。
「ふむ、杖無しの高ランク魔法師かと思ったが違ったか。なら、どうやって黒斬兎を?」
「いや、こう、手刀でスパッと。」
目の前で手刀を振る仕草をしてみせる。レオールのおっさん達はポカンとしている。どうも信じていないようだ。
「ま、まぁいいか。あまり手の内は晒したくないだろうしな。ところで、カズマはこの後はどうする予定なんだ?」
予定か。そんなもんはないが、あえて挙げるなら「街に行く」ぐらいか。なので、そのまま答える。
「近くの街に行こうかと。」
「おお!ちょうどいい!それなら俺たちと一緒に行こう!そうすれば黒斬兎の討伐報酬も渡せるしな!」
報酬!それは実にありがたい話だった。あんなザコを仕留めただけで金がもらえるなら、是非ともご一緒したい。
話を聞く限り、一般的には全くザコではないらしいけど・・・。
街に向かう道中、レオール達と色々話をした。
俺に関する質問も多くあったが、ほとんどはぼやかして答えた。
その結果、レオール達の中では俺という人間は「まだ若いのに東方の国で名を馳せた、格闘家。」という評価で落ち着いたようだ。
ちなみに、最初の話にあった俺が魔法師だというのを否定すると共に魔法師とは何なのかを聞いてみたが、ファンタジーに出て来る魔法使いそのもののようだ。魔法を使うことを職業にしている者を魔法師と呼ぶらしい。
正確にはもっと細かい話もあるようだが、事前知識がないので深くは聞かなかった。
そんなこんなで着きました。街の名は『イルス』。そこそこ商業が盛んで、『冒険者』の数が多い街とのこと。
「さぁ街に入ろう。俺たちに着いてくれば門は素通り出来るさ。」
レオールがそう言う通り、街の外周を高さ5mほどの壁が囲っていて、さらにそこには縦3mほど、横2mほどの頑丈そうな門も見える。
レオール曰く、「魔獣の生息する危険地域に隣接する街はどこもこんなもんだ。」らしい。
本来、門を抜けるにはなにかしらの身分証明が必要だが、信頼の置ける人物の保証があればその限りではないようだ。
街を守る騎士団の保証があれば十分だろう。
「レオール隊長、お疲れ様です!大猟ですか?」
「おう、冒険者の連中には悪いが今日もガッポリ稼がせてもらったぜ!」
他の街では、魔獣の討伐は基本的に冒険者が行う。
しかし、魔獣との戦いにおける最前線であるイルスでは冒険者は魔獣討伐はほとんど行わない。なぜなら、騎士団なんていう戦闘のプロ集団がいるからだ。
冒険者はあくまでも「何でも屋」であるらしい。たしかに報酬はいいが、自分達より魔獣狩りに向いている人間がいるのに命を賭ける者は、やはりいない。そんな事が出来るのは高ランクの冒険者だけのようだ。
「それは良かった!・・・ところで、そちらは?」
門番が俺を見ながら言う。まぁそうなるわな。
レオールがサクッと事情を説明してくれた。
「なるほど。それは大変でしたね。こちらが仮許可証になります、どうぞ中にお入りください。ただ、仮許可証では滞在期間が3日と決まっています。3日以内に身分証をこちらまで提示してください。オススメはすぐに登録できる冒険者ギルドですね。」
「あ、どうも、ありがとうございます。」
礼を言って札を受け取る。この札にも魔法が使われているそうだ。
「ようし、それじゃあカズマを冒険者ギルドまで案内したら詰め所に戻るとしよう。お前ら!先に戻って報告済ませとけ!」
レオールが部下に指示すると、部下達は迅速に行動を始めた。
「え、こういう時って隊長が戻った方がいいんじゃ・・・?」
「なぁに、俺がカズマの黒斬兎討伐を証明してやらんとギルドの連中は疑り深いからなぁ。冒険者登録もしていない若造が黒斬兎なんて狩れるはずがない、なんて言い出すかもしれん。」
色々面倒なようだ。ここは頼っておこう。
門から歩くこと10分弱。冒険者ギルドに到着した。
外観は小綺麗に整っている。イメージだと昼間から酒を飲んだ冒険者達が屯している感じだったが、そんな事はないのか。
レオールがドアを開けた。そこは・・・。
「ひゃっひゃっひゃっ!あの店の女ぁイイ尻してんぜぇ!」
「おーい、プレシアちゃーん!酌してくれやぁ!」
「あんだ?やんのかゴミが!?」「ぼ、ぼくたちは悪くないだろう!?いちゃもんをつけてきたのはそちらであって・・・。」「あぁ!?ぶっ殺されてえのか!!」
・・・はぁ。やっぱこういうもんなのね。
「騒がしいだろ?悪い奴らじゃないんだが、ちょいと酒癖に問題アリでなぁ。ま、気にせず登録するといい。俺はちとあっちの窓口に用事があるからな。」
え。この状況で置いてくのかよ。
くそっ、行くしかないのか。
レオールが示してくれた窓口に向かう。(ちなみに窓口の看板らしきモノの文字は読めなかった。)
「すいません。冒険者に登録したいんですけど・・・。」
「はい、冒険者登録の方ですね?それでは準備をいたしますので少しお待ちいただけますか?」
「あ、はい。」
窓口にいた赤髪のお姉さん(美人)はそう言うと、奥の部屋に入っていった。・・・気まずいなぁ。とか思っていると。
「おぉいおい!武器も防具もなぁんにも装備してねぇお坊ちゃんが、冒険者に登録だとぉ?」
うげ、メンドい予感・・・。
まだ説明は終わってないけど、残りはその都度ってことで。
次回は戦闘回。