事後処理と出発
本日2話目。ご注意を。
短いです。
俺がローズを連れてギルドで行ったことは単純明快。そう、恫喝だ。
腕利きの暗殺者であるローズですら完膚無きまでに敗北した相手、しかもCランクなんて言う化け物染みた男に脅しつけられたら、さすがにもう諦めるってもんだ。
もちろん、ただ脅すだけでは報復の恐れがあるので、『俺の価値』の売り込みも忘れない。Cランクという肩書きはやはり絶大な影響力を持っているという事だ。
3時間に渡る『話し合い』を終え、俺はとても清々しい気持ちでギルドの応接室を退室した。まだ昼過ぎだし、チャチャッと昼飯食って、ローズの所為で後回しにした、暇潰しに受けた依頼を終わらせるとしよう。
あっという間に時は過ぎルーミットへ出発の朝となった。集合場所に集まったのは8人。どうやら定員に達したみたいだ、良かった良かった。しかし・・・。
「俺たちより先にこの依頼受けていたのは、あなたがただったんですね。」
俺の目の前にはチーム『鉄の絆』のメンバー。俺たちより先に決まっていた4人とはこいつらだったようだ。どうも縁があるね。
「あぁ、今回もよろしく頼むよ。」
「こちらこそ!よろしくお願いします。」
がっちり握手する『鉄の絆』リーダーのマークと我が弟子アラン。相変わらず敵意剥き出しのラムスの視線がウザい。犬娘のネイルは、キラキラした目で尻尾をブンブン振りながらこちらを見ている。マーシャは静かに本を読んでいる、あれが噂の魔法書だろうか?
『鉄の絆』のメンバーは良いとして、あとの2人が問題だ。まず1人目・・・。
「テメェ、なにしてやがる・・・ローズ。」
2日前に俺を暗殺しにきたローズがいた。明らかに参加メンバーだ。
「いや、あんたに関する指令が終わったからね。今はフリーの冒険者さ。どの依頼を受けるのも私の勝手だろ?」
「お前・・・まさか姉御キャラで押し通すつもりなのか?」
「ちょっ!こら、やめてよ!まだあなた以外にはバレてないんだから!誰にも言っちゃ駄目よ!」
あ~はいはい。分かったから涙目になんなっての。
さて、最後の1人だけど。
「・・・。」
な、なんか近寄りづらい。話しかけるなオーラが半端じゃねぇ。
見た感じは、まず明らかに男。なんでこんな説明の仕方かと言うと、190cmぐらいある長身をローブで覆っているからだ。でも、こんなゴツい女はいねぇ。
「あ~、カズマと言います。今回はよろしくお願いします。」
「・・・うむ。」
うむ。じゃねーよ!まぁこんな変わり者もいるってことなんかなぁ。あぁ、後でマークから聞いたが名前は『ゲヴァルト』と言うらしい。
程なくして、俺たち8人を乗せた馬車はイルスを出発した。
馬車はギルドからの貸出。御者は8人が交代にやることに。
俺は馬なんぞ乗ったこと無いから、アランやマークに教わりながらの道中となった。
道中は平和なものだった。
たまに出てくる魔獣を仕留めて、あらかじめ受けておいた依頼を達成しておいたり。夜営の時には、『鉄の絆』に先輩としてのアドバイスを貰ったり。ローズとも色々話したし。ゲヴァルトとも少しだけ話すことが出来た、思ったよりもオッサンだった。
事が起きたのは出発してから4日目の朝。もう少しでルーミットに着くだろうと話していたときだった。
御者は『鉄の絆』のネイル。気付いたのは俺とネイルだけだった。
「ん?・・・あの、ネイルさん。」
馬車についている御者席へと繋がる扉を開けて、ネイルに声を掛ける。
「カズマくんも気付いたワン?戦闘の気配ワン。」
その言葉で全員の顔つきが変わる。マークが現状をネイルに尋ねる。
「ネイル。どういう状況だ?」
「この道を曲がった先、森を挟んで向こう側で誰かが戦ってるワン。けど・・・。」
「けど?なにか懸念事項があるのですか?」
ラムスがキツめの口調でネイルに問い掛ける。少しビクビクしつつネイルは答えた。
「片方は人間だワン。でも、もう片方は・・・嗅いだことの無い匂い、未知の魔獣だワン。」
馬車内が凍りつく。しかし、すぐにマークが反論した。
「でも、それは俺達が遭遇したことが無いだけで、名は知れてるんじゃあないのか?」
「ううん。こんなの・・・こんな匂い『生き物』には出せないワン。」
ネイルは先ほどから小刻みに震えている。怖ろしいのだろう。俺とは違って嗅覚で判断しているからこそ、より生々しく相手を捕捉することになるからな。
俺が感じた気配だと、人間よりちょっとデカい2m強の人型生物かなって雰囲気だ。あくまで生物が居るのか居ないのかを判断するものだから、詳しい部分はよく分からん。
「全員戦闘準備・・・。相手の姿が見え次第、戦闘開始だ!」
マークの言葉に皆が頷く。
さてさて、どの程度楽しめるかねぇ。アランの修行にも出来るかな?
道中にこなした依頼。
討伐した魔獣はギルドカードに記載される安心設計。ただし、素材の採取依頼だと、ちゃんと剥ぎ取らないといけません。