表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/25

観察者



 実は戦闘回。


 少しずつ人の居ないところへ。さりげなく、しかし、露骨に誘うように。

 俺を観察する視線はやはり付いてきている。つかず離れず、一定の距離を保って。


 街の外れ。南西に位置する、かつて魔獣の侵攻により破壊され、そのまま打ち捨てられた廃墟。

 俺がここまで来たことで、ようやく観察者が近付いてくるのが分かる。

 わざわざ周りに遮蔽物のない、完全に倒壊した家屋の中心で立ち止まる。



「出てきな。とっくに気付いてるぜ。」



 背後でカチャリと物音が聞こえたので振り返る。

 そこにいたのは。



「・・・誰だ、アンタ?」



 さっぱり見覚えのない女だった。








 うぎゃー!恥ずかしい!てっきり『鉄の絆』のラムスとか辺りかと思って、ちょっとカッコつけたのが余計にハズかしーっ!

 ってか落ち着いて考えれば、最初に視線感じたのは『鉄の絆』に出会う前だったー!ぎゃー!

 うう、もう駄目だ、死にたい・・・。



「あ、あのねぇ。なんか落ち込んでるとこ悪いけど、私を無視されるとすっごく困るんだけど・・・。」



 地に手と膝をつけて崩れ落ちた体勢から女を観察する。

 黒い覆面に、黒い全身タイツみたいな恥ずかしい格好。まぁ、「(しのび)」みたいな感じかなぁ。

 立ち居振る舞いが素人じゃあないな。「武」に関する人間でもない。この感じは。



暗殺者(アサシン)が、俺に何の用だ・・・?」


「!へえ、分かるのかい?やっぱり只者じゃあないね。」



 女が急に物騒な気配を放ち始めたので、とりあえず立ち上がる。

 しかし、何度見直しても見覚えがない顔だな。なんで俺喧嘩売られてんだ?



「もう面倒くさくなってきた。・・・おいアンタ!俺になんか用事があるんだろ?手短に頼めねぇか?」


「き、急に投げやりだねぇ。まぁいいさ。私は『とある事情』であんたを監視してたんだけどね。明らかに私に気付いて、ここまで誘導してきたから、仕方なく出て来たのさ。」


 絶対ロクでもない事情に決まってんだよなぁ、こういうパターンは。なにを仄めかす雰囲気出してんだよ。興味ねぇっての。



「あっそ。こちらの要求は1つだけ。もう俺に付きまとうのはやめてくれ。気が散って仕方ない。」


「あっそ・・・!?あんた、私がどういう事情で監視してたか解ってんの!?」


「いや、別に興味ないし。ただ、どんな理由にしろ俺を害するような存在なら・・・実力で排除するだけだ。」



 俺からチラと漏れた殺気に反応して、女は臨戦態勢をとる。

 ふむ、悪くないけどやっぱりそこは暗殺者か。真っ正面からやり合えば、全く負ける気がしない。熊野郎(ゴードン)の方がまだ強い。


 しかし、俺の考えは甘過ぎたようだ。俺はまだ、あまりにもこの世界を知らな過ぎたんだ。




「やはり危険な奴だったか!この街に危険が及ぶ前に、あんたを始末する!」



 女が言った直後。目の前から女の姿が消えた(・・・)。



「・・・はぁ!?」



 余りのことに、一瞬頭が真っ白になってしまった。

 瞬時に頭を切り替えて、気配を探る。気配は・・・。



「後ろだぁ!?」



 横っ飛びでその場から離れると、さっきまで立っていた場所でギャリィンという金属音。武器が地面に当たるような音だ。

 くそっ、居るのは分かるのに見えない(・・・・)!まさか、魔法か!?



「躱した!?・・・やるじゃないか!やっぱりあんたは危険だ!」


 声で判断するなら、メチャメチャヒートアップしてんな。ブチギレってやつか。

 とにかく気配は読めるんだ。なら、反撃も出来る!




 右の廃墟の壁を走ってる気配を感じて、その壁まで走る。そして壁に拳を叩きつける。只でさえボロボロの壁だ。簡単に衝撃で崩れるってわけだ。

 足場が崩れたことで、気配が地面に向かって落ちているのが分かる。気配に向けて上段蹴り。



「ぐっ・・・!?」



 呻く女の声。手応えは浅かったが、確かに当たった。地を転がり、俺から距離を取ったようだ。・・・ん?

 反射的に、右手で顔の前を払う。何かを右手が弾いたと思ったら、金属音とともに地に投げナイフが現れた。身体から離れても消しておけるのかよ!?ズルくねぇか!?

 とにかく、このままじゃ良い的だ。いくらなんでも、気配だけで全部対処するのは無理だ。動き回らないと。

 絶え間なく縦横無尽に動いている気配に釣られるように、俺も地を駆ける。まずは、相手との距離を潰す!

 ジグザグに走りながら、気配の元へ。背後で断続的にナイフが地面に当たる音がしている。

 気配に拳を打つ、当たらなかった。一度距離をとり、回り込んで近付き、右回し蹴り。ヒット!かなりズッシリ入ったな。気配が蹈鞴(たたら)を踏む。逃がさず左右の拳を叩き込む。これもヒット。

 もうこれで決める!一気に近付き、沈み込むようなタックルで相手に抱き付く。いやらしい意味はない。感触で今は左腰に抱きついていることが分かったので、すぐに相手の背後に抱き付く場所を変えてクラッチ。いやらしい意味はない。

 女がワタワタと激しい抵抗を見せたが、もう遅い。女を持ち上げながら後ろに体を反らして倒れていく。そのまま、女の頭を地に叩きつける。古より伝わりし芸術技、ジャーマンスープレックス。

 はっきり言って、地面で・・・しかも女相手に使って良い技ではないが、相手も殺すつもりで挑んできたし仕方ないよな!






 泡吹いて失神している姿を現した女を見て、俺は少しの罪悪感に苛まれた。




 10分程で目を覚ました女は、自分が縛られていることに気付き、瓦礫に腰掛ける俺に向けてなにやら喚きだした。



「離せ!あんた!私にこんな事してタダで済むと思ってんの!?私を誰だと思ってんだい!?今すぐ縄を解けば言い訳ぐらいは聴いてやるよ!」



 うぜー・・・。こいつ本気で自分の立場解ってないのな。このままじゃ話も出来んし、とりあえず黙ってもらうか。

 瓦礫に腰掛けたままで、すぐ側の壁を殴りつける。壁はガラガラと崩れ、その音で女はビクリとして黙る。少しは状況が解ったかな?



「お前が素直に全てを話してくれれば、無傷で解放することを約束しよう。ただ、これ以上俺がメンドクサいと感じるようなことになったら、何も保証は出来ないな。解ったか?」



 すごい勢いで首を縦に振っている女を見て、ようやく本題に入れそうだと安堵する。さてさて、お話聞かせてもらいましょうか。





「私は『ローズ』。こんなでも、一応は冒険者さ。あんたにも見せた『インビジブル』の能力を買われてギルド専属の特別ギルド員って身分になってるのさ。今回のことも、ギルドのお偉いさんからの指令でね。『黒斬兎を素手で仕留めた新人の素性を調査せよ』ってね。その指令は、あんたがギルドでゴードンと揉めてる最中に偶々居合わせた、ミラン支部長よりも上の人間から出されたみたいだね。ちょっとあんた暴れすぎたよ。黒斬兎にゴードン、賢魔に挙げ句の果てにはワーウルフ大量虐殺ときたもんだ。私が言うのもアレだけど、私に指令を出してる奴は屑でね。あんたみたいな奴はすぐに消したくなるような屑なのさ。まぁ私は指令には逆らえないから渋々でも従うまで。だから、今日この場がチャンスだったのさ。」



 なるほど、メンドクサいな。とりあえずこの女を始末してから考えるとするか。



「ちょっ!ちょっと待ってよ!私ちゃんと隠さず話したじゃないか!無傷で解放してくれるんだろ!?」



 いやぁ、俺がメンドクサいと感じたらその限りじゃあないとも言ったがね。



「そ、そんな・・・。う、う、う、うああああああん!私死にたくないよぉ!まだ恋人だって出来たことないのに!チューだってしたことないのにぃ!ちょっと調子に乗ってベテランの姉御キャラとか作るんじゃなかったよぉぉ!わああああああん!」



・・・あーあーあー。分かったよ、分かりましたよ。確かにこいつを消したところで何の解決にもならんしなぁ。そんならいっそ、その黒幕のとこに案内してもらって脅し、じゃなくて説得した方が後々良さそうだ。この女・・・ローズにもしっかり働いてもらうとしよう。









 この3時間後、晴れ晴れとした顔で俺はギルドのとある部屋を退室した。



 ちなみにローズちゃんはI+ランク。理由はインビジブルしか能が無いから。でも成長期だから、ちゃんと修行すれば伸びるはず。


 ジャーマンスープレックスは日常生活では使ってはいけません。下手すりゃ冗談抜きで死んじゃいますので。

 そんな技を路上で女の子に掛ける和真さん。そこに痺れもしなけりゃ憧れもしませんね(^_^ )



 事後の詳細は次回!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ