報告と報酬と宿と
オリビアさんに案内され、支部長の部屋へ。
中には勿論、ミランのおっさんが座っていた。
「おお、よく来てくれたね。まぁ座ってくれ。オリビア、お茶を出してあげてくれないか。」
「かしこまりました。」
頭を下げるとオリビアさんは一時退室。さてさて、俺が呼ばれたのは・・・。
「やっぱり賢魔の話ですか?」
「あぁ、その通りだ。魔人クラスのワーウルフなんて、もう何十年も報告には上がってなかったからね。実際に遭遇し、討伐までした人間に話を聞くのは当然だろう?」
しかも、前回賢魔に遭遇したときには討伐隊が全滅してるわけだしな。そりゃ情報も欲しいってもんか。
オリビアさんがお茶を淹れてきてくれた後、俺は受付でオリビアさんにしたように、ありのまま起こったことをミランに報告した。
ミランは目を瞑り、口も挟まず最後までジッと俺の話を聞いていた。
「・・・で、俺はとりあえず頭を持って帰ってきたんですよ。」
「なるほど・・・。流石はCランクと言ったところだね。たぶん、その賢魔は推定D+ランクは有っただろう。かつての資料にはG+ランク以上だろうという推察が為されていたが、とんだ見当違いだったのか、それともこの数十年で成長したのか・・・。だがこの依頼、Dランク推奨にしておいて良かった。他の冒険者じゃあ無駄死にになるところだったね。」
たしかに結構強かったもんなぁ。魔法も使ってきたし。あれがこの世界のスタンダードなら、近日中に俺死ぬわ。
「報告は以上ですね。他には特に言えることもないんで。」
「あぁ、ありがとう。助かったよ。すぐに報酬を用意して貰うから、もう少し待っていてくれるかい?」
オリビアさんにギルドカードを渡し査定を待っている間、ミランと世間話をして時間をつぶした。・・・世間話出来るほどちゃんとこの世界を知らんが。
そして、オリビアさんが報酬を持ってきてくれた。
ん?なんか呆れ顔なんだが。
「カズマ様。随分と暴れられたようですね。報酬は金貨2枚、銅貨30枚です。」
「は?」
な、なんかとんでもない額になってる!?何故に!?
「それはスゴいねぇ。ちなみに内訳は?」
「ワーウルフ338体が銅貨3380枚、ハイワーウルフ3体が銅貨150枚、賢魔1体が金貨1枚、それに依頼の報酬が銀貨65枚です。」
どうやら俺の勘違いらしく、依頼達成の「討伐証明」と「討伐数」は別物のようだ。
つまり今回の場合、『賢魔の討伐依頼』を達成したので銀貨65枚、それとは別に『賢魔を討伐したこと』で金貨1枚が支払われるという事だ。これに素材を持ち込んでいれば、もっとスゴいことになったらしい。
「はははっ!当分遊んで暮らせるんじゃないか?」
「はぁ、まぁそうみたいですね・・・。」
脱力して反論する気にもならん。マジで遊んで暮らせるぞ、この額。
「とりあえず、今日はここまでにしよう。もしかしたら、後日改めて話を聞くかもしれないけど、そのときはよろしく頼むよ。あと、それだけお金があるんだ。最高級の宿を紹介しようか?」
「いや、安くて飯がうまい宿がいいですね。貧乏性なもんでね。」
「そうかい。それじゃあ・・・。」
少し話をして、宿を紹介して貰ったところでギルドを出た。
いやぁ、いきなり大金持ちかぁ。幸先はいいけど、生活費以外にあんまり金って使ったことないんだよなぁ。
まぁ追々考えるとしよう。まずはベッドで寝たい。紹介された宿屋を探そう。
5分程歩くと見えてきた。宿屋『肉の楽園亭』。ネーミングセンスはアレだが、飯はかなり美味いらしい、楽しみだ。
中は洒落たカフェテリアのような落ち着いた雰囲気がある受付。すぐ横にある通路の入り口からは食堂が見える。人は疎らだな。まぁ真っ昼間だし仕方ないか。さっさと受付しよう。受付は俺と同い年ぐらいの女の子だ。
「いらっしゃいませ!お食事ですか?ご宿泊ですか?」
「宿泊です。とりあえず1ヶ月ほどお願いしたいんですが。」
料金を聞くと、1泊朝晩食事付きで銅貨40枚、昼食は別料金。温泉付き(!)で温泉も別料金。
ワーウルフ4体で宿代はすぐに稼げることを考えれば破格だな。即決だ。銀貨12枚をその場で払う。
「わっ、大口のお客さんだぁ・・・あっ、失礼しました!それではこちらがお部屋の鍵になります!お部屋は3階の302です!ごゆっくり!」
「ありがとうございます。俺はカズマと言います。これからよろしくお願いします。」
「あ、わ、私は『イーリア・ミート』と言います!こ、こちらこそよろしくお願いします!」
ミートって・・・。とか思いながら部屋へ向かう。
部屋はなかなか広く、本来は二人部屋なんじゃないかと思うほどだ。きっと長期の客用の部屋なんだろう。
荷物を整理して、部屋に展開。部屋の時計を見ると今はだいたい13:00過ぎ。へぇ、この世界にも時計があるのか。そろそろ昼飯食うか。さっそく食堂へ。部屋の鍵があれば食事は出てくるそうだ。
出てきた昼食は予想を上回っていた。さすがは『肉の楽園亭』。凄まじいボリュームだ。
まず、メニューは2種類から選ぶ形式だった。「ガッツリAコース」か「モッサリBコース」。なんかどっちも量がありそうだが、俺の食事量は尋常じゃないので、勿論名前で選んだ「ガッツリAコース」だ。
出てきたのは「1kgの灰蜂牛のステーキ」に「大盛りライス(!)」と「燻海魚のスープ」。さらには「キジマ地方の新鮮野菜サラダ」だった。
総計1.5kgは有るだろう食事。俺は全てを3回おかわり(・・・・・・)して、ようやく一息ついた。
いやー、質も量も満足出来た食事はいつ以来だろうなー。腹八分目がちょうど良いって言うし、そろそろ寝るかー、昼間だけどなー。
料金は銅貨80枚だった。安いなー!素晴らしい宿だ。永住したいぐらいだなー。
さてさて、夜まで寝て晩飯食って、そっから次のことを考えるかー。
んじゃ、おやすみーっと。
地味に異世界初の寝泊まり。初めてが野宿とか異常。
実際は『肉の楽園亭』の一食銅貨20枚は勿論高いです。だって、一般人の一日の生活費が20銅貨だもの。
ミランも和真が食事に拘ってるのを見て、わざわざそういう宿を紹介しています。稼げることを分かっているので、その方が市場に金が回るのでね。
ちなみに領主と支部長はマブダチ。