俺の波乱万丈な日常はこうして幕を開けた。
初投稿作です。お目汚しになってしまうかもしれませんが、どうぞご拝読ください。
とある私立高校の昼休み。1人の女子生徒がパタパタと足音を立てながら廊下を走っていた。
艶やかな黒髪に切れ長の瞳。肌は透けるように白く、体つきは華奢ながら女性らしい丸みのある曲線を描いている。美の女神の寵愛を一身に受けた涼やかで清楚な容姿には、いまはどこか艶やかな色気がある。
目当ての数学教師がいる準備室の前まで来ると、一度扉の前で足を止め、深呼吸をして息を整えてから、2度コンコンとノックした。
「いるぞー」
返ってきた返事にうれしそうにほほをゆるめ、女子生徒は扉を開けて中に入った。
「しつれいしま~す……」
「天海か。どうした」
部屋の主は回転式のいすを回し、少女と向き合った。
「いえ、えーっと……」
少女はちょっと恥ずかしそうに視線をさまよわせていたが、やがて意を決したように教師を見つめ、
「私、いつもと違うと思いません?」
と、かわいらしく小首を傾げて見せた。
「ん~……」
質問された教師はじーっと生徒を見つめ、「ああ」とうなずいた。
「化粧してるのか」
「せ~か~い。友達がね、してくれたんです」
当ててもらえた少女はうれしそうに言う。教師はその顔を黙って見つめる。
「ふ~ん……」
「な、なんですか?」
見つめられた少女は居心地が悪そうに視線をそらす。
「いや、お前も化粧とかするのかと思ってな」
「なっ! し、しますよ! お化粧ぐらい。い、一応、女の子ですし。おしゃれとか好きですし……。も、もしかして、似合ってません! みんなはかわいいって言ってくれたんですけど」
ちょっと確認してきます! と準備室を出て行こうとした少女の手をつかみ、
「バーカ。そんなこといってないだろう。……かわいいよ。生徒だってこと、忘れてしまいそうになるくらい」
「あっ……」
教師は少女の手を引き、少女はあっけなく教師の胸へと飛び込む。顔を真っ赤にして照れる少女を抱きしめ、教師はそっと、甘く、少女の耳にささやいた。
その様子をカメラ越しに見られているとも知らずに。
放課後。ここは運動部の室内練習場がある第2体育館。その3階にある狭くて小さな部屋。おそらく倉庫か部室目的で作られたのだろうが、どの部活も使っておらず、おそらく学校側もその存在を忘れているであろう、そんな部屋。
そこに1人の男子生徒がいた。一見普通の、平凡な外見の彼は、すごいスピードでパソコンのキーを打っていた。
肩の上には一羽の雀。雀は肩からパソコンの画面を覗き込んでいる。
「あの女は着実に攻略対象の高感度を上げてるっぽいな。昼休みには数学教師、その後すぐ不良少年とのイベントもきっちり回収してたぞ」
パソコンの画面には2つのモニターが映し出され、違う映像が流れている。男子生徒はその動画に関する情報を打ち込んでいく。
「ぬぐぐぐぐっ……」
そううめいたのは男子生徒の肩にとまった雀だった。
「私の体で好き勝手してくれて~……。私はまだ化粧なんてする気なかったわよ! そんなの年食えばいやでもしなくちゃいけくなるのに。ぴちぴちのすっぴんはさらけ出してなんぼでしょ!」
憤る雀を男子生徒は優しい手つきでなでながらなだめる。
男子生徒の名前は桂木 達也。雀の名前は天海 美紅、通称【天】。
【天】は世にも珍しいしゃべる雀、というのは半分間違いで、たしかに【天】は人語を理解しているししゃべりもするが、その言葉を聴くことができるのはいまのところ、この世で達也1人だけなのだ。
【天】がしゃべるのには理由がある。
【天】は本当は人間の女の子だ。花の女子高生として高校生活をはじめようとしていた普通、というには少々外見が整いすぎていた15歳の少女だった。
しかし入学式の前日。夢の中で、突然現れた同い年くらいの女の子から、
「あんたにその体とポジションはもったいないわ! 美しい体には美しい魂が宿るべきなの! そう、私のように優しくて高貴な魂がね! お姫様にふさわしいのはこの私! 王子様に愛されるのは私! ここまでこの体を守り抜いてくれたことには感謝してあげる。でももうあんたはいらない。必要ない。いても意味がない。おとなしく体を私に返して消えなさい!」
と、意味が理解できない言語をぶつけられ、そのまま体をのっとられてしまった。
肉体から追い出され、あやうく魂が消滅するところだったが、少女はちょうど窓の外にいた雀にとっさに宿り、一命とくいとめたというわけだ。
そして紆余曲折あって達也と出会い、どういうわけか言葉を理解できる! となり、事情を説明して肉体を取り戻すために協力してもらっている。というわけだ。
肉体を奪ったなぞの少女はというと、天海が入学する予定だった学校に、天海 美紅として入学。そしてなぜか学校でも有名な美形たちと接触し、彼らを落とそうと活動し始めたのだ。
運よく同校だった達也は、天才ハッカーとしての技術と、学校の警備システムを一任している警備会社社長の孫息子という立場と、盗聴器やら隠しカメラやらの道具と、とにかく持っているすべての力を総動員して少女の監視を始めた。
監視を始めてすでに3ヶ月。女は順調に【攻略対象】と呼ばれている美形たちを落としている。
「そろそろ、こっちも攻撃に出るか」
情報はそろった、敵の目的もだいたいの正体もわかった。
「天、お前の体は俺が取り戻してやる」
達也は妖艶に微笑む。美紅はその表情に見とれながらも、あわててコクリとうなずく。
「うん。私もがんばる!」
すべては美紅の肉体を取り戻し、彼女を平穏な日常に送り返してやるために。
こうして【天才ハッカー】桂木 達也と【本当のヒロイン】天海 美紅対狂った憑依者との戦いが幕を開ける。
ぶっちゃけ攻略対象はどうでもいい。
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