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Merry's Warfare  作者: 御影京輔
Prologue
2/2

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次話投稿。今回はツッコミ所少なめです。

『―――ひとまず、お疲れ様。これであの国はあの男の傀儡に成り果てる事はなくなったでしょう』

 巨大なスクリーンに映し出される数々の写真、データ。そして赤い線で×マークが付けられた男の写真。

 そのスクリーンの脇には奇妙な物があった。直径30センチ、高さにして60センチ程度の円柱型の物体。上部と下部は金属製の機械で蓋をされ、円柱の内部はガラス張りの空洞になっている。

 否、空洞ではない。その空洞の中には緑色の光で象られた少女がいた。恐らくは立体映像なのだろう軍服姿の齢14歳程の可愛らしい少女だ。

『これでこの任務は終了。それで、戻って早々悪いのだけれど次の任務の説明に移ってもいいかしら、メリー?』

 立体映像の少女はまるで生きているかのように表情をコロコロと変えながら問いかけた。問いかけられた先、椅子に腰かけた人物が顔を上げた。

 15、6歳程の美しい少女だ。艶やかな長い菫色の髪、スクリーンの淡い光で照らしだされた病的に白い肌、怜悧でありながらもどこか愛らしい顔立ち。だが、その紫色の瞳は感情を感じさせない無機質な光を湛えていた。

その瞳の在り方が少女をヒトではない、別なナニかに変えていた。まるで人間大の人形がいるかのような錯覚。それほどまでに生気を感じさせない少女だ。

「問題ない、の」

 メリーと呼ばれた少女が澄んだ可愛らしい幼い声で応える。

『そう。それじゃ、次の任務の説明に移りましょう。と言っても、大した任務じゃないの。内容は友軍の撤退支援よ』

「珍しい、の。U.L.C.(ウチ)は基本的に任務に支援業務はしてない、の」

『撤退支援といっても雇い主の方じゃなくて、U.L.C.(ウチ)戦闘員(オペレーター)の撤退支援よ』

「支援が必要な状況に陥っている、の?ウチのオペレーターにしては珍しい、の」

新人(ルーキー)だからそこは大目に、ね。最も、その新人に非があるわけじゃないのよ。ちょっと面倒な状況になっちゃってね』

「面倒?」

 メリーが可愛らしく小首を傾げるとスクリーンの映像が切り替わる。一面に無数の光点が蠢く何処かの地図が映し出される。

「これは?」

『アフガン。二つのテロ組織同士の抗争。それだけなら問題ないのだけれど、問題は片方がVIPを絶賛誘拐中だったのよ』

「もしかして、人質救出作戦中に抗争が始まった、の?」

『正解。さしものアタシもこの辺のローカルな武装集団の関係までは把握してなくて、ね。救出作戦がパァよ、パァ』

「救出はどうした、の?」

『そっちは何とか完了。したのは良いのだけど、ウチの新人が殿として残ってそのままなのよ。一応、バイタルはあるから生きてるみたいだけど、次の任務(しごと)に差し支えるからそろそろ回収しようってことになってね』

「放置プレイ?」

『そ。まぁ目障りな武装組織も潰れるし、もう少し遊ばせても良いのだけれど・・・・・・。ま、何事も限度があるしね。そろそろ次の任務に入って貰わないとね』

「・・・・・・私でなくても良かった、の」

『そんなに不満そうにしないでよ、メリー。何せ、その新人は貴女の【猟犬】なんだもの。今の内から顔合わせしておいて損はないでしょう?』

「・・・・・・理由は分かった、の。さっさと済ませたい、の」

 不機嫌そうな顔で急かすメリーに立体映像の少女は苦笑しながら応えた。

『もうパキスタン領海よ。後、30分もすれば貴女を不機嫌にさせたお馬鹿な【猟犬】を回収に行けるわ』






 茹だる様な暑さと乾いた風。砂と土に覆われた大地。砂塵舞う廃墟を数人の男達が油断なく進んでいく。手には世界で最も使用されている突撃小銃、AK―47。

 何かを探すかのように、しかしどこか怯えているかのように目を血走らせながら廃墟を隅々まで確認していく。

 周囲に人気はなく、湿気のない乾いた風だけが吹いている。それでも男達は緊張の糸を緩めない。それも当然。彼らの仲間は既に正体不明の何かに惨殺されているのだ。

 敵対組織との抗争の最中の事だった。

 激しい銃撃戦の最中に敵味方問わずに人が次々と断末魔を上げて死んでいった。ある者は首を刎ねられ、ある者は心臓を一突き、ある者は腸を抉られ痛みから錯乱しながら銃を乱射した末に仲間から射殺された。

 抗争は一転して敵味方入り乱れる地獄絵図と化した。彼らはそんな地獄からなんとか脱した生き残りだった。

 その光景を思い出したのか、男達の一人が目に焼きついた地獄絵図を振り払うように頭を振った。

 その時、彼は自分の身体に違和感を覚えた。

 最初に感じたのは熱。胸を中心に焼けるような熱さが広がっていく。

 次に自分の胸を見下ろした彼が目にしたのは自分の胸から突き出た赤熱した刀身だった。付着した自身の血液すら沸騰させるような温度を秘めた刃が自分の胸から生えていた。

「ああああああぁぁぁぁぁぁ――――!?」

 叫ぶような悲鳴と共に血を吐き出す。その声に弾かれたように彼の仲間達が振り向く。AKを即座に構えるも、串刺しにされた仲間を見て一瞬だけ銃爪に掛けた指を躊躇させる。

 その一瞬で、彼の背後にいた襲撃者には十分だった。

 彼を盾にした状態で肩越しに拳銃を素早く構え、銃爪を引き絞る。銃口から爆音と共に弾丸が吐き出され、彼の仲間の頭蓋を二つ打ち抜く。脳症を飛び散らし、絶命した仲間を彼は霞む視界で眺めるしかなかった。

 さらに背後にいた襲撃者は彼の胸から刃を引き抜くと同時に、彼の身体を前方に蹴り出す。残った仲間達は崩れるように倒れる彼に目もくれずにAKの銃爪を引いている。

 地に倒れ伏し、霞む視界で仲間達を見る彼の目に映ったのは無残な光景だった。どうやったのかは不明だが仲間達の銃火を避けた襲撃者は次々と仲間達を屠っていった。ある者は胸を撃ち抜かれ、ある者は投げつけられたナイフで眼球から頭蓋を貫通させられ、ある者は腰から両断されて。

 そして、最後の一人が頭の半分を斬り落とされて絶命した時、彼はもはやまともに見えぬ眼で襲撃者の姿を捉えた。

 漆黒の装甲と同じく黒い剥き出しの筋肉のような奇妙な戦闘服を纏った不気味な人影だった。特に頭部は漆黒の髑髏を模したフルフェイスのヘルメットに覆われていた。右目は刳り抜かれたかのように虚ろで、左目は不気味な赤い光を灯していた。

 そして、その左肩には襲撃者の所属を示すエンブレムがあった。

 コンバットナイフを咥えた嗤う髑髏の紋章。

 (U.L.C.の化物(モンスター)―――)

 彼が襲撃者の正体を悟ったその瞬間。襲撃者の拳銃から放たれた銃弾が彼の意識を絶ち切った。






「こちらブラックドッグ。ランデブーポイントを確保。指示を請う」

『了解だ、ブラックドッグ。迎えは五分で着く』

了解(コピー)

 短く了解の意を伝えると通信を切った。周囲には自らが手を下した屍が転がっている。

先の救出作戦とその後の殿を務めてからの20時間。彼は戦い続けていた。戦う事は本望だが、一人で100人以上の人間を相手取るのはさすがに骨が折れた。

(まさか入社してすぐにこんな仕事に放り出されるとは、な)

 内心で苦笑しつつも彼は周囲の警戒を微塵も緩めていなかった。

 彼の視界には様々な情報が映っている。マーカー、地形データ、緯度経度、果ては自分のバイタルデータ。それらが彼の視界の三次元座標軸に合わせて展開され、単なる二次元画像データを現実に重ね合わせて彼の眼に映し出している。

 視界の端には彼を回収に来る部隊の到着予定の時間をカウントするタイマーが映し出されている。その時間を確認しながら、彼は手近な廃墟に身を潜める。

 戦場における5分は何があってもおかしくない。装着した統合型ヘルメット・システムのディスプレイに映る情報を確認しながら、警戒を継続する。

 さらに事前に配置したUAV(無人偵察機)からも逐次周辺情報が送られてきている。それらを確認していると、UAVから警告が入る。

 ディスプレイの映像をUAVに切り替え、サイドポーチから取り出したコントローラでUAVを操作する。

 警告のある方向にカメラをズームする。するとそこには四台のトラックが車列を組んでこちらに向かってくる姿だった。

 トラックの荷台にはAKを携えた兵士が詰められていた。一台辺り十人前後、それが四台。計、四十人前後の兵士達がこちらに向かっている。

 彼は溜め息をつきたくなるのを抑え、映像を自分の視界に戻した。視界の端に映るタイマーには残り三分強と表示されている。どうにかして迎えの部隊がやって来るまでにあの増援を何とかしなくてはならない。

(またゲリラ戦か。面倒だが、仕方ないか)

 腰の軍用マチェットとベストのコンバットナイフを同時に引き抜きながら、立ちあがろうとしたその時だった。

『そこで大人しく見てる、の。』

 突如として耳に入った可憐な声と共に、爆発が起こった。

「な!?」

 さらに続いて一つ、二つ、三つ。

 計、四度の爆発は立て続けに起こった。彼はUAVのカメラ映像に切り替える。すると映し出されたのはエンジンを撃ち抜かれ、無残にも大破し炎上した四台のトラックの姿だった。

 荷台に乗っていた兵士達は炎に焼かれもがき苦しんでいる。

『もう着くからそこにいる、の』

 その声は素っ気なくそう告げると一方的に通信を切った。

「一体、何だってんだ」

 目の前の光景を見るに声の主が何かしたのだろうが、一体何をしたのか見当もつかない。いや、信じ難いといった方が正しい。

 こちらに近づいてくるヘリを捉え、さらに大型のライフルを構えた小柄な人影が見える。

(まさかヘリの上から狙撃したってのか?二キロ近く離れてるってのに、正確にエンジンだけを)

 そうだとすれば神業と呼ぶに相応しい狙撃だ。距離もさることながらヘリの揺れのなかであれだけ正確に狙撃するのは至難の技だ。ましてやヘリはその飛行方法故に上昇気流が発生してしまい、狙撃するには不適当なのだ。ヘリの真下付近へならともかく、二キロ以上離れたトラックを狙撃するなどできるはずないのだ。

(それをこうも易々とやられるとは、ね)

 作戦前に聞かされた話では自分の上司は凄腕の狙撃手という話だった事を思い出し、彼は苦笑した。

(どうやらとんでもなく凄腕らしい)

 こちらに向かってくるヘリを見ながらそんな感想を抱き、彼はヘリがやって来るのを言いつけ通り待っていた。


次はもっとツッコミ満載な話になる予定

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