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Merry's Warfare  作者: 御影京輔
Prologue
1/2

WetWork

新連載開始。

月1~2回更新予定です。

読者ツッコミ型シリアスボケコメディの始まりです。

 古きが去り、新しきが来る。

 時代の流れは残酷で、平等である。

 幾多の存在が淘汰され、幾多の存在が時代に迎合した。

 光が強ければ影は消える。

 されど影は滅びず。

 影はその闇を濃くし、新たな在り方を示すのだ。




 男は人生の絶頂にいた。

 アフリカ某国のダイヤモンド鉱山を現地の武装組織を雇い入れ、独占した。手段は簡単だった。雇い入れた武装組織の下っ端を使い、武装蜂起を起こす。幾つかのテロ組織を巻き込み内戦状態寸前にまで追い込んだ後に、男が招いた英国政府派遣の英国軍が武装蜂起を鎮圧。

 政情が混乱している隙にダイヤモンド鉱山の採掘権を独占しただけだ。雇い入れた武装組織は幾人かの使い捨ての人材を切り捨て男の配下となる。あまりにあっけなく、且つ大胆に男は富と武力を手にした。

 結果、男は世界に流通するダイヤモンドの30%以上を牛耳るに至り、傘下に収めた幾つかの武装組織とテロ組織を経由して闇市場にまで手を伸ばすに至った。それにより得た利益は巨万の富と強大な権力を男にもたらした。

 莫大な富、一国の政治すら左右する力。そして、傘下の武装組織による武力。

 恐るものなど何もなかった。

 クイーンメアリー号。

 2020年に建造された世界最大の豪華客船。クイーンメアリー号を貸し切っての地中海での豪勢なクルージング。

 男の富と権力が合わさって初めて成せた偉業だった。

 無論、ただのクルージングではない。クルージングの裏では違法な取引や売買が公然と行われていた。

 武器、薬、そして表には出せない盗品。

 それらは船内で公然と取引され、競売にかけられていた。

 それらの収益だけでも貸切料金を払ってもお釣りがくるほどの利益を男に与えていた。

 海上を移動する治外法権。

 男の富と権力を以てのみ成せる力技だ。

 世界有数の金持ちにして、権力者。そして幾多の武装組織を纏めるボス。

 男は人生の絶頂にいた。今日、この時まで。

 クイーンメアリー号のスカイデッキ後方のイベントスペースにある壇上。そこに男は居た。

 クルージングの最終日前夜。前夜祭の会場に男は居た。

 会場には数々の著名人やセレブが揃い、また同時に裏では顔の知れた男の顧客や取引相手がひしめいていた。オーケストラが極上の音楽を奏で、世界でも有数の美酒が振舞われる。最高級の素材を用いた豪勢な料理がテーブルを埋め尽くし、数々の高価な調度品が会場を煌びやかに飾る。

 全ては男の富と権力により実現したものだ。

 男は壇上でスピーチを行っていた。ウィットに富んだ話術で会場を盛り上げつつ、男は自らに酔っていた。そしてスピーチの終わりと共に喝采が巻き起こる。

 男は幸福に酔い痴れ、舞い上がっていた。そうして酔いの醒めぬまま壇上を降りようとしたその時、男のタキシードの懐にある携帯電話に着信があった。

 男は携帯電話を取り出し、通話ボタンを押して受話器を耳に押し当てた。

「はい、誰だ?」

≪―――シエラレオネ共和国≫

 合成音声による声が男の耳元に響いた。男とも女とも判別つかない機械音声は淡々とそれこそ機械染みた口調で続けた。

≪武装蜂起よる内戦勃発を演出し、タイミングを見計らっての英国軍の派遣≫

「誰だ、何を―――」

≪まるで初めから打ち合わせでもしていたかのように鮮やかに内戦勃発の危機を終息させつつ、ダイヤモンドを初めとする鉱山の採掘権の独占し裏では協力した武装組織を傘下に収める≫

「―――貴様、何を知っている―――」

≪その後は事業を展開。表も裏も派手にやっている、の≫

「何の事だ、何を言っている!?」

≪でも、手際の良さに反してシナリオは陳腐で幼稚。もう少し頭を使って捻って欲しかった、の≫

「貴様ぁ・・・!?」

≪所詮はその程度。自らの器を知り、他の事にその才覚を活かせば良かった、の≫

「知ったような口を・・・!!」

≪どちらにしろ、あなたはやり過ぎた。夢を見て酔うのは良いけど他人を巻き込むのは良くない、の≫

「何を言っている!?」

≪―――あなたはここで夢から醒める、の≫

「何なんだ貴様は!?私を誰か知っているのか!!

≪知ってる、の。自らの程度を知らない小悪党、でしょ?≫

「貴様ぁ・・・!?貴様は誰だ!?何処のどいつだ!?必ず貴様を見つけ出し―――」

≪―――私はメリー≫

 突如として合成音声ではない声が男の耳に響き、男は汚らしく罵っていた怒声を途切れさせた。男の耳に響いたのは澄んだ可愛らしい、甘く幼い少女の声。およそ今の状況には似つかわしくない、甘く囁くような声音。

≪今、あなたの後ろにいる、の≫

 それが男の聞いた最後の声だった。

 少女の声に反応し、振り返った男の額に【それ】は一瞬にして飛来した。飛来した【それ】は額の皮膚を突き破り、頭蓋を突き破る。突き破られた頭蓋は砕け散り、砕け散った破片は左右の脳に突き刺さり、致命的なダメージを脳に与える。

 さらに頭蓋を突き破った【それ】は左右の脳を抉りながら突き進む。掻き回し、抉り回すかのように男の脳を引き裂いきながら突き進み、遂には内側から男の後頭部の頭蓋をも砕いて貫通する。

 一瞬にして脳をズタズタにされた男は、痛みを感じる事なく絶命した。




≪標的の死亡を確認。任務達成です。速やかに帰還してください≫

了解(コピー)

 秘匿通信を送ってきた工作員に短く了解の意を伝えて彼女は通信を切った。彼女が覗くスコープの先では、恐慌に陥り右往左往する人々の姿が見えた。その恐慌と混乱ぶりを確認した上で、彼女はスコープから目を離し、顔を上げる。

 艶やかな長い髪。濡れたように淡く輝く瞳。幼さを残す美貌。

 この場に不釣り合いな程に美しい少女。だが、その手には無骨なライフルが握られていた。

 クイーンメアリー号より1マイル先にある何もない暗黒の海原。その海の上をホバリングしている一機の戦闘機。その後部座席に少女はいた。

 ステルス性に優れた菱形翼の主翼。主翼のすぐ後方に配置された主翼と似た平面形の全遊動式水平尾翼。F-22よりも小型な機体サイズ。

 F-35B ライトニング II。米軍が採用した統合打撃戦闘機。その中でも短距離離陸・垂直着陸(STOVL)機であるB型と呼ばれる機体の姿がそこにあった。

 そしてその主翼には【TURBO BBA】の文字と尾翼にはナイフを咥えた髑髏のマークと【U.L.C.】の文字。

≪仕留めたのかい?≫

 前席に座るパイロットから通信が入る。少女は通信機の操作ボタンを押してその問に応えた。

「仕留めた、の」

≪そうかい。それじゃ帰るとするかね≫

「安全運転でお願いする、の」

 前席のパイロットにそう返すと同時に、少女は構えていたライフル―――L115A3―――のボルトを引き、薬莢を排出した。弾かれるようにして排出された空薬莢をキャッチするとL115A3ごと狭いコックピットの底へと格納する。

 そうしてから機体から乗り出していた身体をコックピット内に収め、海風とホバリングの風圧で乱れ舞う髪を束ねるとHMDのバイザーを下ろした。それと同時にタイミングを見計らったかのようにキャノピーが閉じられ、ロックされる。

 F-35Bはリフトファンを閉じ、機体下部へと向けていたノズルを徐々に水平へ戻しながら緩やかに加速していく。それと同時に機体先端から徐々に周囲の光景に溶け込むかのようにその姿が消えていく。まるで最初から存在していなかったかのように。

 機体全体が完全に周囲に溶け込むと同時に機体は急加速。そのまま姿すら見せずに宵闇の彼方へ消えていった。


プロローグなのでちょっと短めです。

誤字脱字、感想批評お待ちしています。

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