兎の招待状(前編)
4月ーそれは、多くの人たちが新たな出会い、新生活をむかえ心躍らせるそんな月である。
なぜなら、俺も2週間前は、春からの高校2年生の生活の開始をとてもたのしみにしていた。しかし、そんな俺は現在進行形で始業式が行われている今、こうして学校の屋上で仰向けになっているのである。
「っ・・くそっ!!なんで出ないんだよ!!」
苛立ちに任せて俺は、手に持っていた携帯を力強く閉じた。
「もう、2週間だぞ・・・。」
そういいながら、体を起こす。
杉原太一は、携帯をポケットに仕舞うと、立ち上がって体をおもいっきり伸ばした。
そして、小さな寂しさの残る声で呟いた、
「本当、どこ行っちまったんだよ・・・・雪菜。」
その時、屋上の扉が力強く開け放たれ、というよりぶっ飛ばされて、同時に馬鹿みたいに大きな声が聞こえた。
「た~い~ちー!!こんなところで何してんのよ!!!!」
声の主を見た太一は、溜息まじりに答えた。
「はぁ、お前こそ何やってんだ美咲!普通、扉を足で蹴り破くやつなんていねぇだろ!どうするんだよこれ!?」
大声をあげて近づいてきた美咲は、悪びれる様子もなく続けた
「そんなのはいいの!それより、あんたどうして始業式出なかったのよ!!」
「お前には、関係ないだろ!!」
すると美咲は、目を細めて言った
「あんたもしかして、まだユキのこと気にしてんの?」
太一は、少し動揺した。
「ユキがいなくなったのは、あんたのせいじゃないって。警察に任せておけばいいのよ。」
「お前、よく平気でいられるな。幼馴染が、行方不明になっているっていうのに。」
「はぁ!?そんなわけないでしょ!!私だってユキのことが心配でたまらないわよ!!」
「なら、今の俺の気持ちだってわかるだろ!」
「私が言いたいのは、あんたがここでウジウジしていても、ユキは戻ってこないってこと。」
太一は、少し顔を伏せ
「わかってるよ、そんなことくらい。なら、どうすればいいんだよ?どうしたら・・ユキは戻って来るんだよ?」
「・・・・ごめん。」
「いや、俺も悪かったあんなこと言って。」
「いやぁ~、落ち込んでるところ悪いんだけど、話終わった?」
屋上の入口から、一人の長身の長い髪の生徒が出てきた。
「なんだ、陸いたのか。悪いが、遊びにならいかねぇぞ。今はそんな気分じゃないんでな。帰るは。」
すると、陸は微笑みながら言った、
「違うよ、イッチャン。さっきここに来る途中、担任の大分先生がイッチャンのこと探しててさ・・」
(はぁ、始業式さぼったから説教か。ダル。)
と思い、太一が頭をかくと、
「何でも、警察が雪菜ちゃんの物と思われる携帯を見つけたから、本人のかどうか見てもらいたくて学校に電話してきたみたいだよ。」
太一と美咲は同時に驚いたような顔になる。
「陸、それ本当か?」
「あたりまえじゃん、俺がイッチャンに嘘をつくとでも。」
「だよな。よしっ、行くか!!」
これが原因で俺達があんなことに巻き込まれるとは、このときは思いもしなかった。