十四話:外伝壱・鬼ヶ島でⅤ 鬼人とニクスターン
今回で鬼皇帝との戦いは終わりです。
そして―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
鬼が裂け、勝敗は決した。
少し時間を遡ろう。
鬼が二振りの剣を呼び出し、構える。ラルベルクは既に構えている。
そして、鬼が、否、鬼人が、
「ウォォォヲヲォォォオオオオ!!」
と言い、構えたまま突進をしてくる
事はできなかった。
「っ!!!何だっ!?これはっ!?」
駆け出そうとした鬼皇帝の周囲に、赤の不思議な形をした文様が顕れた。
そして、どれほどの力を込めて動こうとしても、指一つも動かない。
「解説する暇はない。魔導だ、とだけ言っておく。これで、終わりだ」
そして、一瞬で鬼人に駆け寄り、文様と同じ赤い光を纏わせた大剣を振り下ろす。
「≪赤き剛き一撃は何事にも克つ(ニクスターン・アブソリュート)≫」
そして、鬼皇帝は体の中心を真っ直ぐに切られ、半分に裂けた。
「っぐ。…………………………ハァハァ」
疲れたのか、振り下ろした体制のまま息をあげるラルベルク。
「さすがに、この魔導を制限ありで使うのはきついな」
と呟く。
この世界には、魔法がある。
それは大まかに分けて三つの種類がある。
一つの大系のみを使うモノ――――――――即ち、魔法。
複数の大系を組み合わせて使うモノ――――――――即ち、魔術。
そして、限られた者のみにしか使えないモノ――――――――即ち、魔導。
現、コルクルシア・ニーダルが言っていたが、この世界において基本、魔力さえ足りていれば、誰でもほぼ何でもできる。
戦いの場でも、普段の生活の場でも、更には、出産時等といった時でさえ魔法を使い、補助等をする事が可能だ。そして、それらの多くは、魔法、つまり単一大系の詠唱式でできる。
しかし、魔導は違う。
そのモノによって違うが、基本は個人のみに宿る。
それは、生まれた時からあったり、ある魔物を複数倒す事で手に入れたり、その人物の行動により手に入れる事もある。また、危機的状態になったときに発動可能になったり、いつでも発動可能だったり等モノによってかなり変わる。
また、強力な魔導には“名”というモノがあり、その魔導を手にいれた者はその名を名乗る事ができる。
詳しい事は省くが、ラルベルクも幾つかの魔導を持っており、先程使ったのはその中でも最高級の威力を誇る魔法だ。
≪|赤き剛き一撃は何事にも克つ《ニクスターン・アブソリュート》≫は魔法と体術が一体になったさほど見ないモノ。
継承者の証たる赤い文様で敵のあらゆる動きを封じ、あらゆるモノに克つ大剣を振り下ろす。
体術と魔法を組み合わせたモノは魔法的素質と肉体の強さが必要な為あまり使われる事はないが、魔導とはいえ、この様に威力が高い場合が多い。
肉体的な動きは、ただ、振り下ろす。単純故に、強いモノだ。
ようやく、大剣から手を離し立ち上がる。
「大丈夫?」
リリシアが心配そうに声をかけてくる。
「あぁ。これぐらいなら、平気だ。っく。それより、速く、ルシアとリヴの所に行かなくては」
≪武器収納≫と、言い大剣を私有空間へと収納する。
「多分、大丈夫よ。ジンがいるもの。それにイフリートだっているのでしょ?」
王の間の入口に向かい歩いていきながら、
「だが、Aランクであるエリスがやられたんだ。かなりきついだろ。それに連れ去られたというリヴやルシアのことが心配だ。この城を出たらさっさと≪転移≫をしてくれ。俺の体の事は気にするな。ある程度封印が解けているから平気だ。クソっ。こんな事なら城全体に≪転移≫ようの結界を張る事にしなければよかった!!」
『まったく、仲間の事は置いていくのか?酷い奴だな。いや、それとも息子達の事が心配で忘れていたのか?』
「「なっ?」」
死んだはずの鬼皇帝の声が聞こえた。
二人が振り返るとそこには、両断された鬼人の死体が在るだけだった。
『あぁ、そうだったな』
その声と同時に死体からにょきり、と半透明の鬼皇帝が現れ、否生えてきた。
『これで、どうだ?
ふむ、どうやら驚いているようだな。しかし、安じていいぞ。この状態では話す事しかできん』
戦闘態勢に入った二人を見て、付け足す鬼皇帝。
その姿にはもはや角がなく、完璧に人と言ってもいいものだった。
『まぁ、証拠としては後ろを向いていた時に攻撃しなかった事があげられるな。
で、だ。これは転生前に神にお願いをして、死んでも少しの間意識を保てるようにしてもらっただけだ。しかし、幽霊状態になるとはな……………。
本題を忘れるところだったな。わざわざこんな事を頼んだのは、お前らに伝えておく事があるからだ。別にお前らでなくてもいいのだがな』
「残念ながら俺達は速く帰らなくてはならないんだ。じゃぁな」
そう言い、去ろうとする。
『おいおい、まだ仲間を置いていこうとするのか?』
「あいつらなら大丈夫だろう。それに今は『息子達の事が心配、か?』………そうだ」
『だが、その息子に繋がるかもしれんぞ?』
「どういうことだ!?」
勢いよく振り返る。
『まぁ、落ち着け。俺に勝った者のためなんだ。なるべく早く簡潔に話してやる。
どこから話そうか。そうだな。俺にはやる事があると言っただろう?それが、答えだ。
俺、いや、俺達転生者は、この世界に生まれ出た神を殺す為に転生した。
正確に言うならば、神を殺した時にその報償として色々なものが貰えるのだ。
何故神を殺すのかは知らん。あまり情報を持っていないからな。
ただ、その神は神を殺しその力を吸収できる力を持ち、その力を持ってこの世界を滅ぼすそうだ。今は封印されているから俺達が殺せるのだが、封印が解けると殺せなくなる。いや、力が足りなくて殺せなくなる。
だからこそ、早いうちに探して殺す。
さもなければ、世界は滅びる。
まぁ、そういう事だ。後は、好きにしろ。信じなくても信じてもどっちでもいいぞ。
そろそろ時間のようだな。いい加減疲れてきた』
と、幽霊状態になった人に罅ができる。
パキパキッ パキッパキッ と。
「お前、それは?」
不可思議な現象を目にしたラルベルクが思わず問う。
『あぁ、この事か。魂の崩壊だ。俺達の魂は異世界では適応しない。そのため最後に死を迎える時には、猛烈な苦しみを受けながら魂が崩壊する、らしい』
フハハハハハハとワラウ。俺の様な奴にはお似合いかもな、と呟き。
『さて、そうだ。最後に置土産がある。そいつを頑張って倒せよ。じゃあな、このぐらいでくたばるなよ。お前らなら倒せるかもな、神を』
ピキピキッピキッ…………………………バァリン!!
そうして、かつて鬼灯光鬼と呼ばれた人間は無くなった。
ラルベルクとリリシア達に、仮面鬼竜というモノとの戦いを残して。
こうして、鬼皇帝との闘いは終わった。
来週も投稿が遅れるかもしれません
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