十三話:外伝壱・鬼ヶ島でⅣ 鬼皇帝と最上位精霊
グリュャァァァ
『スリャァァァァァアア』
――――ドン
また二色が重なり、離れる。
一つは、火炎の紅。
一方は、禍々しい紫。
ラルベルクがイフリートを召喚してからおよそ30分程経った。
紅き火炎の精霊と、ただ戦闘の事だけしか考えなくなった狂った鬼は、未だに拳をぶつけ合いどちらも一歩も引いていない。
『しかし、打ち合えば打ち合う程謎が深まるばかりだ。己の炎で焼けた所が、どんどん回復して元に戻っていきやがる。
おい、ラルベルク!本当に面白い相手を見つけてくれたなぁ!』
と、拳をぶつけ合いながら云う。
しかし、ラルベルクは答えない。
否、答えられない。
イフリートからかなり離れた所にリリシアとおり、二人で何か詠唱している。
『おっと。そうだった。あれやるんだっけな』
そう呟き、
『己が僕たる火炎よ。己が敵の前に立ちはだかる山と成れ。≪火炎山脈≫』
後ろに退きながら、発動させる。
そして、それを追いかけようとした鬼皇帝の前に、優に15mは超えるであろう火炎が顕れる。
しかし、
グルルルグォォォォォォオオガッ
という魔力がこもった叫びで吹き飛ばされる。そうして、そのまま追撃する。
『まさかきちんとした詠唱でも破られるとはな…………。本当にラルベルクは数奇な人生に生まれた者だな』
自分に向かってきた拳を受け流し、腹に己の拳を打ち込む。
『しかし、いくらあの二人の近くにに結界を張り、身を守らせてるとはいえ!』
蹴りを腕で防ぎ右に跳躍し距離をとる。
『そうそう持つものではないな』
そして、また、拳を打ち合っていく。
一方は微々たるものだが、再生能力で回復し、一方は身体が魔力で出来ているため疲れや怪我等は負わない。
どちらか一方の魔力が少なくなり、そのチカラの根源が無くなったときに戦況は動くであろう戦いであった。
しかし、そんな事が続いていたが、やっと、均衡が崩れた。
きっかけは至極単純。
互いの拳をぶつけ合うその少し前、イフリートの体勢が崩れたのだ。
そのため、今までどちらもしっかりとした重い一撃を食らわせていなかったが、ついに、その重い拳がまともにイフリートに直撃した。
『っぐ』
吹っ飛びはしないが少々よろめくイフリート。
グォォォオウン
直撃した事への喜びかそんな叫びを上げる。
『火炎よ。己を守る盾と成り、己が敵の攻撃を防ぎ給え≪火炎大盾≫』
一方イフリートは、何故か炎を盾を造り上げた。
『己が僕たる精霊よ。寄りて合わさり新たなるモノを創り上げろ≪霧≫』
次の瞬間、イフリートは下位精霊に霧を創らせ、視界を効かなくする。
『ラルベルク。一応≪情報化≫して後で送るが一応言っておく。ちゃんとそっちに集中しろよ?
まず、ヤーライの森にケッツァコアトルが現れた。それで、リヴリールだったか?とにかくお前の娘が攫われたらしい』
「「!?」」
詠唱が、一瞬途切れる。
『それで、今から己はそいつの退治とどこかにいるエリスを見つけに行く。
あと、お前の息子がそれを聞いて探しに行ったらしい』
「なっ!?」
1秒近く詠唱が中断されるが、直ぐに詠唱が再開される。
『そういうわけで行ってさっさと終わらせてくる。
一応時間稼ぎができるようにしておいたが………、どのくらい持つか判らん。
なるべく速く戻るから、無事でいろよ。お前が消えるのは、正直痛手だ』
そして、イフリートを構成している炎が少なくなり、ついに零となった。
居なくなった事を察したのか、
ギャルゥゥォォォオオオン
という勝利の雄叫びらしきモノを鬼皇帝が上げる。
しかし、その視界には白い水蒸気しか見えない。
その事に苛ついたのか
グルルルグォォォォォォオオガッ
という≪火山山脈≫を破った叫びを放ち、吹き飛ばそうとする。
そして、霧は晴れ、また顕れる。
グルルルガグルォォォォォォオオオオオオッッッ
先程より大きな声と魔力を注ぎ、また、晴らそうとする。
だが、結果は前と同じ。
晴れ、曇る。
グルルルガグルォォォォォォオオオオオオッッッ
また、吼え、晴れ、曇る。
グルルルガグルォォォォォォオオオオオオッッッ
グルルルガグルォォォォォォオオオオオオッッッ
グルルルガグルォォォォォォオオオオオオッッッ
グルルルガグルォォォォォォオオオオオオッッッ
グルルルガグルォォォォォォオオオオオオッッッ
≪帰化≫により理性を失ったためか何回も何回も繰り返す。
数十回も同じ事をし、ようやく晴れないことが判ったのか吼えるのを止める。
そして、己の記憶にある“敵”がいたらしき方向に向かって突っ込む。
自分の身体をぶつけ、それで攻撃しようとしているのだろう。
そして、その方向に真っ直ぐ向い、壁にぶつかる。
めり込んだ身体を引き抜き顔を傾ける。
どうやら、顔を傾け疑問を呈する程の知性は残っているようだ。
「っふ」
と、鬼が急に小さく息を吐き出した。
「設定時刻になったが、まだ終わってないとは………。これ程強い相手とは戦った事はないな」
≪帰化≫を使ったときに設定した≪帰化≫の終了時刻に達したようだ。
「さて、どうしようか。俺の≪死闘≫でも、≪咆哮≫でも無効化もできないとは………。
方向感覚を狂わせるようなモノもあるようだから、迂闊に動けん。
しかし、速く見つけなければ。何かを詠唱しているようだしな。さて……」
そう言い、考え込む。
そうして、数分。
「仕方ない。危険だが残りの魔力を使い、ここを全体攻撃をし終わらせるか」
「「その必要は無いぞ」」
とラルベルクとリリシアの重なった声が聞こえた。
その声が聞こえた方を見ると、だんだんと霧が晴れていき、周りにうっすらと炎の残滓を纏わり付かせながら鬼の方を見るラルベルクがいた。
その少し後ろには、体内の魔力が少なくなっているのか、ふらつきながらもしっかりと鬼皇帝の方を見るリリシアがいた。
「さて、鬼よ。散々待たせてすまなかったな」
「お前、何をした?」
ラルベルクを注視し、何かに気づいた鬼はすかさず問う。
何故なら、看過し得るものではなかったからだ。
「特に何もしてないぞ。ただ、普段は封じている力を少し出しただけだ」
「ほぉう。つまり、お前は最初からこの俺に対して全力で戦おうとしなかったわけか」
「いや、そういうわけではない。というわけには、いかないか。まぁ、そう思ってもらっても構わん。だが、詳細は言えん。
こっちはこっちで重大な問題が起きたから、さっさとこんな事終わらせて帰らないといかないんだ」
ラルベルクはそう言い、左足を前にし、両手で大剣を構える。
「?
…………………………あぁ。成程。
お前等の息子の事か。
そちらはどうやら本気の様だな。仕方がない。
これは、1週間程身体にクるから使いたくなかったが、そうは言ってられないようだな。
≪帰化・改≫」
闇が、鬼を包む。
そして、後には人が在る。
黒髪黒目を持つ身長およそ1m80cm。顔つきはコルクルシアの前世で言う日本人の顔をしており、その額からは大きな角が生えている。
肉付きは鬼だった頃と比べると大分細くなっているが、弱くなった印象がない。
むしろ、その筋肉は凝縮され更に力強くなった印象を受ける。
年齢は20代後半近くで、肌は同じく日本人らしく黄色だ。
その姿は、この世界で言う“鬼人”だ。
「さて、久しぶりにこの姿になったが、人に成るのはイイ事だな。
鬼だと、どうしても指の大きさ等が違ってしまって、つい物を壊してしまう時があるからな。
やはり、イイ事だ。
俺は戦闘狂なんだろうな。ついつい強敵と戦えると、こうして口が滑ってしまう。
さぁ、俺とお前の最後の戦を始めよう」
鬼は嗤い、二つの剣を召喚する。
そして、――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
意見とか感想とかアドバイスをもらえるとありがたいです。
次で、外伝が最後になると思います。