表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギルド受付嬢の冒険  作者: 東風になりきれない春
第三章
19/36

モナドの竜 Ⅱ

ちょいグロ注意

その日もヴァンは方々を訪ねて、フードの男の情報を追い求めていた。

だが収穫もないまま夕日が落ちようとしていたとき、何人かの騎士が走って通りの向こうへ消えていくのを見つける。

夕餉の買い物に出ていた人々が何事かと騒いでいた。

ヴァンは騎士たちが走り去った路地に向かって地を蹴る。

「厳重警戒中の皇都で誰がバカやったんだか」


ぼやきながら駆けだした。

国境が封鎖されているモナド皇国は、現在フードの男の確保と治安維持のために騎士団による見回りが強化されている。

また犯罪をおかした人間には現行法よりも厳しい罰が与えられることになったので、スリや万引きなどの軽犯罪のみならず、殺人や強盗などの凶悪犯罪もほぼ完全に鳴りを潜めていた。

そんな中で騒ぎを起こすような人間はまともではない。


実際、ヴァンは騎士たちに続いて現場にたどり着いたとき、あまりの凄惨な光景に狂人の仕業かと思った。

濃い血臭が鼻につく。

切断された腕。

細切れにされた腸。

切り裂かれて脳髄をぶちまけた頭蓋。

ひとりひとりが区別できないほど、ただの人体の一部分しか見て取れない。

あとは肉塊と化していた。


若い騎士がひとり膝をついて崩れ落ちた。

「うっ・・・うぇ・・・っ。げほっ」


胃の内臓物を吐き出しながら嗚咽している。

慣れてないとこうなるよね、とヴァンは冷静に心の中でつぶやいた。


近くにいたほかの騎士がヴァンに気づいてすばやく寄ってきた。

「お前は何者だ?ここは危険だから下がれ!」


騎士はヴァンがそれ以上現場に踏み込まないように、大きな鎧姿で立ちふさがった。

しかしヴァンは威圧感を感じていない口調で飄々と口を開く。

「俺はヴァン。Aランク冒険者やってるよ。照会は冒険者ギルドでよろしく」

「Aランク!?」


ヴァンの自己紹介に目前の騎士以外にも何人かが驚愕の叫びをあげる。

「うん、そう。で、俺が誰からどんな依頼を受けてるか知ってるよね?国の指揮下にいるやつが知らないとは言わせない」

「・・・ふん。陛下のご意向だ。フードの男だったか?やつがこれに関わってるか調べに来たのか」

「わかったなら、どいてくれないかな。心配しなくてもここを荒らしたりしないよ。近くにまだあいつがいるかもしれないから、通してほしいだけ」


先ほどまで嘔吐していた若い騎士が「ひっ」と息を飲んだ。

この凶行を起こした犯人が近くにいるかもしれないと怯えたのかもしれない。

そばにいた同僚の騎士から喝を入れられていた。

「たわけ!軟弱者が!立って被害を確認しろ」

「はっ、はい!」


ヴァンの前に立っている騎士も含めて、現場にいた者たちがあわただしく動き出す。

それを横目に見ながら、目の前がひらけたヴァンは血の海へ歩を進めた。

靴に血が跳ねて臓腑がこびりつくが、構わず奥へと向かう。


流血の痕跡をたどり、奥へ。それがなくなっても血のついた靴跡が残っていたので追跡は簡単だった。

しかし、やがて血の跡は途切れた。

「ん?急に消えてる・・・。転移の魔法かな」


力ある魔法使いなら、修練を積めば転移の魔法を展開させられる。

ただしその飛距離は各々の魔力に依存していた。

短ければ目と鼻の先。

長くても街の一区画分ほどだ。

「まだ血は赤いし、それほど時間はたってない。なら皇都にまだいるね」


ヴァンはフードの男の力量は、一区画分の転移を可能にするだろうと考えている。

もしこの犯行があの男の所業なら、ここに残っていても仕方ない。

逆に血の跡がある場所ではなく、道をはさんだ向こう側の区画をくまなく捜索したほうがいいだろう。

そう判断して、すぐさま行動に移した。




それから1か月。

迅速に行動したはずの騎士団もヴァンも犯人を捕まえられずにいた。

手がかりや目撃情報があるにも関わらず。


あれだけ派手に殺害すれば、目撃者は大勢いた。

その場にいなくても、返り血をあびた人間を見たという証人もいる。

それらから金髪の年のころは20代の青年が犯人だろうと目星をつけているが、皇都中をくまなく探しても発見できなかった。


騎士団は煮え湯を飲まされた犯人をやっきになって捜査しているようだが、ヴァンはそのことでかえって金髪の青年がフードの男ではないかと思っていた。

人を簡単に殺し、その場から転移できるだけの力を持つ魔法使い。

そしてクモの巣のように細かく皇都に張り巡らされた騎士団の包囲網から、精霊のように人外の方法で身を隠すことが可能な存在と考えれば同一人物と推測できた。

「っていうか同じような力を持ってて、似たような犯行をするやつが複数人いるとか考えたくないし」


軽い口調でそう言って、ヴァンはギルド本部の扉を開けた。

中でクリスたち職員がせっせと冒険者の応対をして働いている。

ヴァンに気づいたクリスが軽く手挙げてあいさつした。

こちらも手を挙げ返す。


歩みを止めずにフードの男専用になっている情報掲示板に赴く。

一番新しい情報は3日前で止まっていた。

もとから期待してなかったが、この情報のなさは唸るしかない。

「どうするかな」


事前に、ここまで長期間拘束されるようなやっかいな依頼だと予想できていれば、今ごろ国外にとっとと避難していたかもしれない。

今回の依頼金は国家負担なので破格値だが、それでも各国を回って何件か依頼をこなした方が稼げただろう。

モナドに特別思い入れがあるわけじゃない。


ああ、でも・・・。

そうしたらクリスと会えなかったのかな、と思うと少し残念な気がした。




クリスはヴァンに手であいさつをしたあと、また作業に没頭した。

先ほどまで並んでいた冒険者たちの依頼の契約用紙を整理する。

そろそろ月が真上に来る時刻だ。

もう今夜の訪問者はヴァンで最後だろう。


ひと段落ついて、ふと顔を上げるとヴァンがこちらに歩いてくるところだった。

「こんばんは、ヴァン」

「やあ、クリス。で、あの掲示板の情報って3日前までしかないの?」


開口一番痛いところを訊いてくるヴァンに、クリスは苦笑いした。

「そうよ。3日前のその情報だってあいまいだわ。見たかもしれない、すれ違ったような気がする・・・そんなのばかり」


クリスはヴァンから裏路地での出来事を聞いている。

猟奇的な殺人事件。

それがクレナダ村で遭遇したフードの男が犯人かもしれないと聞いたときは、またあのときのように大勢の死者が出たのかと気が滅入った。

クレナダの村人をすべて殺して死霊にするだけでなく、皇都でまで殺人を犯す意図がつかめない不気味さもある。

そのとき背後から上司がクリスに声をかけた。

「クリスちゃん、これ会計にまわしといて」


クリスは書類の束を受け取って立ち上がった。

「はい、行ってきます。ヴァン、それじゃまた」

「うん。またね、クリス」


そうしてお互い歩き出した直後。

クリスは一瞬、目まいを起こしたと思った。

書類を抱え直し、頭を振ろうとしたとき遠くから地響きが聞こえてくる。

大地が揺れた。

「うわっ、なんだ地震か?」

「棚が倒れる!」

「おい、大丈夫か?」


職員たちがざわめきながら、床に手をついている。

とても立っていられない。

クリスも座り込みながら、きょろきょろとあたりを見渡した。

ヴァンだけは受付台に手をついてかろうじて立っているようだ。


ウ゛ォオオオオオオオオオオオオオン!!!!


音の衝撃波だった。

建物全体がびりびりと震え、耐えかねて壁がぱらぱらと欠片をこぼす。

地揺れはまだ断続的に続いていた。

「な、なに今の・・・」


クリスがすくみ上っていると、視界の端でヴァンは剣を杖代わりにして外に出ようとしている。

「様子を見てくるよ。動かないで待ってて」


「危ない」と言って止めようとしたクリスの声は、再び襲ってきた音波によってヴァンには届かなかった。

そのまま彼は扉をくぐって通りに出ていってしまう。

クリスは右太ももの青い紋をなぞって、己の契約精霊を呼んだ。

「どうしたの~、クリスちゃ~ん・・・って、あら~?みんな床に倒れちゃってるわ~」

「地震みたいなのが襲ってきているの。ウンディーネ、ヴァンと合流して様子を見てきてくれない?私じゃ立って歩くこともできないもの」


三度、音の衝撃がやってきた。

クリスは耳をふさいでうずくまる。

耳の奥まで響いて頭が痛くなってきた。

「でも~、ちょっと待って~。これは~・・・なにかの声ね~」

「こ、声?これが?」


ウンディーネの言葉にクリスは驚いた。

こんな音としか認識できないものが声だなんて信じられない。

「そうみたい~。このまま続いたら~、この建物も危ないわ~。クリスちゃんも~、外に出たほうがいいと思うの~」


その台詞と内容に、ギルド職員のざわめきがぴたりと止まった。

無言で床に這いながらも、重要な書類と物品を持てるだけかき集めていく。

「よし。出るぞ、クリスちゃん」

「あなたも貴重品くらいは持っていきなさい」

「え・・・、え・・・?」


戸惑った声をクリスが出すと、壮年の上司がギルドの印と通帳簿を探しながら言った。

「こういう危険と隣り合わせの生活してるやつらと商売してるとな。逃げるときは逃げるのが賢いって、ここに刻まれるんだよ」


自身の頭を指さしながらそう言う上司に、まわりの職員たちも深くうなずいている。

クリスはまだギルドでアルバイトを始めて1年と少しだ。

こんな対応が脳裏に刻まれるほど経験を積んでいない。

だから先達の言葉には従うべきだろうと、クリスもうなずいた。


這いずりながら入口へ向かう集団は滑稽だったが、皆真面目な顔だった。

クリスも身代わりの彫像と財布だけ持って、落ちてくる壁へ天井の欠片に注意しながら移動する。

そばでウンディーネが空中をただよいながら、ときどき気遣わしげにクリスを振り返った。


それに大丈夫だと答えながら、何度目も声らしき音の衝撃を耐えて。

ようやくクリスは外に転がり出た。


月明かりに照らされる大通り。

扉を開けた瞬間から、人々の悲鳴が鮮明に聞こえてくる。


クリスは不意に月がかげったのに気づいて顔を上げた。


目に映るのは、月光を遮るほどの巨躯の持ち主。

「竜・・・」


呆然とクリスはつぶやいた。

おとぎ話や伝説に出てくる翼持つ空の王が、そこにいた


このくらいのグロならセーフ・・・ですよねσ(・ε・`●)


アウトだとキーワードに注意事項とか入れなきゃヽ(´Д`;≡;´Д`)丿

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ