俺の最後の晩餐
思い出しても腹が立つので、死ぬ前に遺書を書く
そう俺は昨日死んだ男なのだ。
「裏切ったのは"確かに"俺が先だったが、お前の方は俺の何倍も裏切った、俺は反省して謝ったが、お前は反省もしないで俺を裏切り続けた──」
怨みごとは延々と綴られていた、死んでまでちんけな男だと自分でも思う……
死ぬ前に遺書を読み返したら、あまりに馬鹿馬鹿しくなって、死ぬ前に好きなことをやってから死のうと思い、時計を見たら──
お昼前だったので近くのいつもなら絶対に入らない高級寿司店「だるま寿司」で最後晩餐を取ることにした。
「ラッシャイ!」
威勢のいい声で迎えられる、少し立派になったような気持ちになった。いつもならこんなことも気づくことも無いだろうと思いながら、ピカピカに光る無垢材のカウンターに通され座った。
この店の大将だろうか、剥げたこれまたピカピカ頭のオヤジが手拭いをグルグル回して作った鉢巻きを巻いている。
年期の入った職人っていうのは、間近で見るとこうも格好いいものなのか、まじまじ見ていたら……
「お客さん何にしましょう?」と声が飛んできた。
俺は、こういうところは初めてで作法が分からなかったが、「おまかせで」と覇気の無い声で答えた。
「おまかせ、入りました!」職人の唱和が勢いよく返ってきた。そして周りの若い職人も次々唱和する「おまかせ、ありがとうございます」と声を上げる。
俺はびっくりして、びくんっと猫背が跳ね上がった。
手際よく寿司が握られていく、銀シャリを桶からすくい、カウンター前にある長いガラスの霜のはった冷蔵庫から彩りある新鮮なネタが掌の中で包まれ、鮮やかな緑の山葵を指の腹に取り、ネタにつけ三回ほどぎゅう、ぎゅうとゴツいが柔らかそうな指で握られると、綺麗にできあがっている。それらが次々高そうな幅広の皿に並んでいく。見事だった──
俺は味わいながら握りを口に運んだ、山葵の辛さが涙腺を刺激して涙が出てきた……
「山葵、ききすぎてましたかね?」
大将の太い声が、涙目の俺に話しかけてきた。
「はい、ちょっと来ましたね」
「苦手でしたか?」
「いえ…そういう訳じゃないんですが…」
俺は、死ぬ馬鹿馬鹿しさと、山葵の辛さと、大将の生き生きと握る姿が俺の涙腺を刺激していのだろうが、もちろんそんなことは大将には言わなかった。
そして
あっという間に平らげてしまった。
「ご馳走さまです。旨かったです」
そう大将にお礼を言った。
頼んでもいないのに、スッと熱い上がりが目の前に出てきた。
俺はゆっくりと腹に収まった寿司が待つ胃袋に苦く渋い上がりをすすった。
それは口腔内で爽やかな香りに変わり、二回ほどそれを転がしてから、喉の奥へ流し込む。どうしてだろう、苦くて渋いのに甘さが後からやってくるのだ。
暖簾を潜って店を出た。生臭い匂いから、湿気た雨の匂いに変わる。
見上げると曇天だった空から小雨が落ちていた。
俺は目の前に高くそびえるビルに向かって歩きだした。
最後の晩餐が寿司でよかったと、そう思いながら……。
おわり
思い付いたので書きました。
ちょっと悲しい話しになったけど、明るいのや暗いのや色々書く方がいいかなと思っています。
結構頻繁に投稿しています。よかったら感想など貰えたら嬉しいです。
読んでくれてありがとうございます(^^)




