南羽さんのバースデー(4)
ジュースを飲み干したリンちゃんが、コップを洗おうと流しの前に立つ。じっとリビングを見つめるリンちゃんの横顔は、さっきアカネのマフラーを畳んでいた時と同じ表情をしているように見えた。
「・・・・・・あのさ、俺の勘違いかも、だけんど」
ん? とリンちゃんが振り返る。
俺はさっき抱いた違和感の正体を確かめるように、口を開いた。
「リンちゃんとアカネってさ、その・・・・・・付き合ってたりする?」
リンちゃんの目がひときわ大きくなって、明らかに動揺した表情になった。隠れるように壁際へ俺を引っ張って、声を落として聞いてくる。
「それ、誰から聞いたの?」
刑事もののドラマで見るような、すごみのある表情を俺に向ける。新種の猛禽類か?
「いや、なんとなぐだけど、そうかなーって」
並んで歩いている時のアカネの仕草とか、リンちゃんがアカネに向ける視線とか、それにあのマフラーだって、よく見たら色違いのお揃いじゃないか。
リンちゃんはしばらく俺の顔を見たあとで、力の抜けたような顔でため息をついた。少し困ったような、でもほっとしたような顔だった。
「やっぱ、カザミくんって鋭すぎっちゃね。他の子は気付いでないし、親にも言ってないんだけどね」
むしろ親には言わない方がいい気がする。言えば、京都の町並みのように縦横無尽に張り巡らされたネットワークにより、恐ろしいほどの速さで情報が伝達されるに違いない。
俺がそう言うと、リンちゃんは「んだよねぇ」と力なく微笑んだ。
「ちなみに、どっちから?」
「え、一応・・・・・・アカネくん、かな」
「へぇ。アカネもやるべな。告白の言葉は、何て?」
「それは・・・・・・」
そこまで言って何か思い出したのか、リンちゃんは顔を真っ赤にして言葉に詰まってしまった。俺を見上げたリンちゃんの顔が、はっとした表情に変わる。
「カザミくん!?」
俺の口元に浮かんだわずかな笑みに気付いたようで、喜怒哀楽の哀抜きみたいな、ひどく複雑な表情をしたリンちゃんが、俺の腕をつかんで軽く爪を立てる。
「いてて・・・・・・ごめん、分がったから、はなして」
リンちゃんは、怒りつつも口元がニヨニヨとゆるんでいる顔のまま、しばらく離してくれなかった。
からかいの代償としてひとしきり腕をつねられながら、俺はある質問を思いついた。
「リンちゃん、ひとつだけ聞いてみるんだげど」
「アカネくんとのことなら、黙秘すっからね」
切れ味よく言い放ち、じとっとした目でリンちゃんが俺を見る。アカネに向けていた甘い目つきとは大違いだ。
「違うよ。あのさ」
俺は笑い出したいのをこらえ、続けた。
「リンちゃんが、仲のいい友達としたいって思うゲーム、教えてよ」




