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南羽さんのバースデー(3)


 約束の当日。父さんに駅前まで送ってもらい、アカネに言われるがまま列車に乗った。切符の額面的に、いちばん近くの都市部まで出るらしい。1時間近くかかるし、高校時代に利用していた駅よりさらに先だから、こうして出かけるのは初めてだ。

 目的の駅で降りて、前を行くアカネについて歩いていく。行き先を聞いても愉快そうに笑ってごまかされるばかりで、リンちゃんですらも詳しい場所は知らないらしかった。


「この感じ、久しぶりだべね」

「んだね」


 隣を歩くリンちゃんの言葉に、俺も同意する。何をするにも言い出しっぺはたいていアカネで、俺とリンちゃんは後から彼を追いかける。小さい頃からそうだった。

 戸建ての住宅が立つ中を俺たちは進んでいった。何をして遊ぶのかは聞いていないが、ショッピングモールのようなものも、カラオケやボウリングのできそうな施設も見あたらない。アカネのことだから考えはあるのだろうが、少し心配が勝ってきていた。


 道は合っているのかと声をかけようとしたとき、アカネが立ち止まった。目の前にある平屋建ての民家を満足げに眺めてうなずき、敷地に足を踏み入れる。その姿には、またも迷いが無い。

 玄関の引き戸を開けて、アカネが中に入っていく。一瞬躊躇したが、俺とリンちゃんもアカネの後を追う。なんとなく、物音を立てないように慎重な動きになる。

 家の中はリフォームされたのか、内装の壁紙も照明も、外見に反して新しそうな雰囲気だった。


「アカネ、ここって・・・・・・」


 俺が声をかけるのと、アカネが廊下奥のドアを開けるのとはほぼ同時だった。

 開かれた扉の向こう、広いリビングにいたのは、懐かしい面々――中学時代の友人たちだった。同級生だけでなく俺たちより1、2個年上の友達もいて、十数人が部屋の中にいた。大画面の薄型テレビにはゲーム画面が映し出されていて、その前にはコントローラーを握った数人が座っている。今はレースゲームの対戦中のようで、わちゃわちゃとにぎやかな雰囲気に満ちていた。


「おーやっと来たべかー」

「先に始めとるよ・・・・・・あっ、そのバナナあたしが取りたかったのに!」

「ヘッ。よそ見してたらどんどん抜かれるべ?」

「綸、それに風海も! いぎなり((すごく))久しぶりっちゃね~!」


 久しぶりの、でも見慣れた面々が思い思いに盛り上がり、口々に声をかけてくる。


「ここさ、一棟貸しのレンタルスペースなんさ。みんなで集まれるとこ探してる時に見つけて、ちょうどいいべなーって思って」


 振り返ったアカネが俺たちに説明して、ニカッと得意げに笑った。荷物をおろすと、テレビの前に座っている輪の中に入っていく。リンちゃんが、アカネが無造作に置いた上着とマフラーを拾い上げて丁寧に畳み、壁際に寄せた彼のカバンの上にそっと置いた。その一連の動作をなんとなしに眺めていた俺の中に、違和感のような、ちょっとした引っかかりが生まれた気がした。

 リンちゃんは昔から面倒見が良かったが、その横顔は、まるで――。


「カザミとリンも、はよこっち来てやるべ!」


 コントローラーを握ったアカネが俺たちを呼んだ。そちらを見たリンちゃんは一瞬、初夏の綿雲のようにふわりとやわらかい表情を浮かべ、俺に視線を移すと「行こっか」と微笑んだ。




 交代しながらみんなでいろんなゲームをプレイしていたら、あっという間に数時間が過ぎていた。


「カザミくん、大学の友達、できた?」


 冷蔵庫から出したジュースを一口飲んで、リンちゃんが聞いてきた。


「うん、できたよ」


 俺の返答に、リンちゃんが「安心した」と言って笑う。

 俺とリンちゃんは、キッチンへジュースを飲みに来たついでに、並んで立ち話をしていた。リビングでは、ゲームをしているグループや、誰かの持参したボードゲームで盛り上がっているグループ、近況を報告し合っているグループなど、様々だ。


 今ここにいるほとんどが高校卒業とともに地元を離れたが、その中でも俺だけが京都という遠い場所へ行ってしまった。そのことを、リンちゃんもアカネも心配していたのだと教えてくれた。俺は春から今までにあった大学での出来事や、出会ったユニークな友人たちのことを話した。それから、久しぶりに方言で話せてどこかほっとしていることも。


京都の方(あっち)だと、東北の方言はやっぱ珍しんだろねぇ」


 リンちゃんがふふっと笑って、左手のコップに右手を添える。まぶしそうに目を細めてリビングの方を見ながら、しみじみとした口調でつぶやいた。


「みんなとは、いつも一緒にいるんが当たり前だったから、いつ友達になったのかなんて覚えてないけど」

「うん」

「こやって集まってゲームして、一緒にいて楽しいって思えるのって、幸せなことだっちゃね」

「・・・・・・んだからー((そうだよね))


 みんな気付いたら近くにいて、一緒に大きくなった。年を重ねるにつれ少しずつ変わっていった部分はあっても、いつまでもこうして集まりたいと思える、代わりのいない友達だった。


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