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南羽さんのバースデー(1)


 年末から年明けにかけての短い冬休み期間を終え、再び講義が始まった。ツンと刺すような空気の中自転車を走らせ、大学とアパートを行き来する。底冷えの寒さは体に堪えるが、積雪がないことがせめてもの救いだった。

 1月の大学は、静かなものだ。学園祭のような賑やかな行事もないし、部活やサークルの活動もオフシーズンのところが多い。2月には入試もひかえているから、なんとなく学内全体に緊張感が漂っているような気がする。年が明けてからはあっという間に時間が過ぎて、気がつけば1月の半分以上が過ぎようとしていた。


 平穏な学生生活を送る一方で、1月にはとても大切なイベントがあった。


 南羽さんの誕生日だ。


 

 冬休みに入る前あたりから、南羽さんへの誕生日プレゼントを何にしようかと、ぼんやりと考えていた。いつものようにどこかへ出かけるのでも、おいしいものを食べに行くのでもいい。南羽さんのやりたいことをやろうと思った。

 彼女の誕生日がやってくる前の週、俺は南羽さんの希望を聞こうとメッセージを送った。


≪真北くんの家で過ごしたいな。ごはん食べたり映画見たり、のんびりゴロゴロしたい!≫


 彼女から返ってきた希望は、意外にも素朴なものだった。

 俺の誕生日の時と同じだ。それでいいのかと少し拍子抜けしたが、俺はある物を南羽さんへ贈ろうと思っていて、それを渡すのにはちょうど良かった。


≪今回は、ゲームもやりませんか? たしか、俺のと同じゲーム機持ってましたよね≫


 メッセージを送るとすぐに既読がつき、やけにリアルな白熊が拍手しているスタンプが送られてきた。


≪ありだね! じゃあ、私のも持ってくね!≫


 白熊に続き、写実的な動物のスタンプが立て続けにいくつか送られてくる。

 ハシビロコウの正面顔と『おやすみ』の文字の組み合わせは明らかにアンバランスだと思う。相性占いの赤点を叩き出してるだろ、これ。

 ネコが布団をかぶって寝ているスタンプを返し、スマホを置く。

 南羽さんの誕生日まで1週間。何の変哲もなかった日常に、少し楽しみができた。




「真北くん、これ、皮むいてくれる?」


 南羽さんがそう言って、袋に入ったジャガイモを、どさっと目の前に置いた。

 俺はおとなしく、すでに渡されたにんじんと玉ねぎと一緒に、流しにジャガイモを転がした。


「あ、にんじんは皮むかなくても、洗うだけでいいからね」

「そうなんですか」

「うん、皮にも栄養があるから。食感が気になるならむいてくれてもいいけど、どう?」

「南羽さんが気にしないなら、そのままでいいです」


 洗い上げたにんじんを、南羽さんに手渡した。彼女がトントンとリズミカルににんじんを切る横で、玉ねぎとジャガイモの皮をむいては洗う。


 南羽さんの誕生日は、彼女の希望どおり、俺の部屋で1日過ごすことになった。

 約束の10時ちょうどに隣の部屋の扉が開く音がして、1分も経たないうちに、俺の部屋のインターホンが鳴った。

 扉を開けると荷物を抱えた南羽さんが立っていて、俺と目が合うと、白い息を吐きながらニッと笑った。今日はいつにも増して朝から冷え込んでいて、彼女の後ろでは粉雪がちらついていた。


()()()()はるばる、ようこそ」


 俺は南羽さんの手から荷物を預かり、彼女を部屋へと招き入れた。袋の中には野菜が何種類かと、鶏肉のパック、南羽さんの家から持ってこられたらしい調味料がいくつか、それからシチュールゥの箱。

 手を洗って洗面所から戻ってきた南羽さんが、エプロンを身につけながら声を弾ませた。


「よし、じゃあ早速始めましょー!」


 南羽さんたっての希望で、ホワイトシチューを作ることになっていた。今日は、ふたりで。


「年末年始は、ゆっくりできた?」


 鍋の具材をかき混ぜながら、南羽さんが言う。白くもったりしたシチューの海に、角の取れたにんじんやジャガイモが溶け込んでいる。普段は簡単な炒め物ぐらいにしか使われない俺のキッチンに、今日はいい香りが立ちこめている。


「はい。地元の友達も帰省してきてて、久しぶりに会ったりしましたけど、それ以外はほとんど家で過ごしてました」


 俺は洗い物の手を止めずに答える。野菜の皮むきと、使い終わった調理器具を洗うのが、今日の俺の役割だった。

 ふと、リビングのテーブルに置かれたゲーム機が目に入った。南羽さんが持ってきたもので、両サイドに付いたコントローラーのカラーが、俺のものとは違っている。あんな色もあるんだなと思いつつ、年末に帰省したときのことを俺は思い出していた。


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