ビワハクへ行こう!(4)
おなか空かない?と南羽さんが言うので、水の生き物コーナーへ行く前にお昼ごはんを食べることにした。階段で1階におりて、館内に併設されたレストランへ向かう。
全面ガラス張りの店内はおいしそうなにおいに満ちていて、途端に自分が空腹であることに気づく。
窓際のテーブル席が空いていたので、そこに腰を下ろす。すぐにお店の人が水とメニューを持ってきてくれた。注文はスマホで、と言い残して去っていく。南羽さんの、「便利な世の中だねぇ」というお年寄りじみたコメントに適当に相槌を打つ。メニューを横向きに開いて置くと、南羽さんが覗き込むように身を乗り出した。
「私、これにするね」
さらりとメニューに目を通し、南羽さんは『近江牛ハンバーグランチ』を指差した。丸いハンバーグの周りに、ポテトや野菜のつけ合わせ、それにライスとスープ付き。しめて1,200円(税込み)なり。
「おいしそうですね」
「でしょ。ご当地ウシは食べないとね、やっぱ」
ご当地ウシ、ってなんだ?意味はわかるけど。
「真北くんは、決まった?」
言いながら、南羽さんはスマホで注文画面を立ち上げる。俺はメニューに視線を戻すと、『イチオシ!』と書かれた写真を指差した。
びわはくカレー。ビワコオオナマズ型に成形された白米にカレーがかかっている、らしい。
「これでお願いします」
「りょーかーい」
南羽さんは軽やかに注文を済ませると、「楽しみ~」と言いながらキッチンの方に目をやった。
思ったとおり、南羽さんは好きなものを最後に取っておく派だった。
つけ合せのブロッコリーにいつまでも手をつけず、もしかして嫌いなのかなと思っていたら、すべてを食べ終えた後で、満を持してという表情でゆっくりと口に運び、満足そうに味わっていた。
食事を終えてしばらく、展示の感想を話していた。お店の人が水を注ぎに来てくれる。渇いたのどに、コップの水を一気に流し込んだ。
「そろそろ行こっか」
そう言って、南羽さんは財布からきっちり1,200円を出して、俺の目の前に置いた。
「あの、俺出しますよ」
「いいよ、いいよ。会ったばかりの人にそんなのさせらんない」
南羽さんが、少し慌てたように顔の前で手を振る。
「あ、でもお会計はお願いね」と、そのまま席を立って歩いていこうとするので、俺はお言葉に甘えて1,200円を受け取った。
会計をすませて店を出ると、南羽さんは水の生き物コーナーへと続く通路の方を見ていた。肩のストレッチをするように、体の前で腕をクロスさせている。
「お待たせしました」
「ありがとー、真北くん」
振り向いた南羽さんの目は、未踏の地へ足を踏み入れる前の探検家のように、希望に満ち溢れていた。
「いざ!」
南羽さんが通路のほうに向き直って歩き出す。追いかけて隣に並ぶと、南羽さんはこちらに顔を向けてにっこり笑った。




