ビワハクへ行こう!(3)
2階の展示室では、琵琶湖の歴史が紹介されていた。琵琶湖がどんな風にしてできたのかとか、かつてこのあたりに生息していたと思われる動物の化石や植物なんかが展示してあった。南羽さんはマンモスの復元化石の前ではしゃぐだろうなと思っていたら、案の定写真を何枚も撮らされた。
隣の展示室は少し雰囲気が違っていて、滋賀県の文化を主に展示しているらしかった。滋賀県で行われている農業や漁業の紹介と、道具なんかの説明が丁寧にされている。こういう、先人の知恵みたいなのは、結構興味深くて好きだ。
伝統の祭りの紹介もあって、どうやって継承させていくかが課題らしかった。うちの地元も、どんどん人がいなくなっていると、じーちゃんたちが話していたが、どこも同じことで悩んでるんだな。
「まきたくーーーん!」
南羽さんが俺を呼ぶ声がする。彼女は展示室を出たところにいた。床に大きく、滋賀県上空からの衛星写真がプリントされている。これ、自分の出身地とかだったら、『ここ俺の母校!』とか言って盛り上がれるんだろうな。
南羽さんは琵琶湖の真ん中に立ち、「おっきい!」と両手を広げていた。なぜか誇らしげな顔でこちらを見る。なるほど、俺の頭ひとつ分小さい彼女と比べると、確かに大きく見える。
「南羽さん、琵琶湖が占める面積って、滋賀県全体の6分の1ぐらいらしいですよ」
彼女の隣まで歩いて行って、ついさっき展示で知ったばかりの知識を披露する。南羽さんは広げた両手を上げたまま固まった後、信じられないといった表情で「ダウト」と小さくつぶやいた。
2階にある最後の展示室は、陸の生き物が集められていた。里山の生き物——カエルとかトカゲとかヘビとか——のコーナーを、南羽さんはあまりじっくりと見ずに通過していく。笑顔がひくついているように見えたから、あんまり好きじゃないのかも。案外普通の反応でホッとした。俺も、馴染みはあるけど得意ではないから。
かわりに、動物コーナーでの彼女は楽しそうだった。壁一面にしつらえられた展示ケースには、鳥だのタヌキだの鹿だの、大小様々な動物の剥製が飾られていた。南羽さんはひとつひとつの展示プレートと、そこに書かれた説明をまじまじと観察している。時々感心したようにうなずいたり、にっこり笑顔になったりする。
南羽さんなら、森の動物たちとでも友達になれそうだ。木陰で読書する彼女のそばにはいつの間にか動物たちが集まってきて、一緒に歌うこともあるし、熊のお腹を枕にしてお昼寝することもある。
ツキノワグマの剥製を興味深げに眺めている彼女の横顔を見ていたら、そんな想像をしてしまった。
ツキノワグマ。地元ではいわゆる厄介者だった。山からおりてきて畑を荒らすもんだから、追い返されたり駆除されたり。夜道でクマにぶつかって、買ったばかりの車がパー、なんて話も聞いたことがある。小学生の頃は『集団で下校しましょう』とよく言われたが、警戒すべきはクマであって、不審者ではなかった。
「クマだよ、真北くん」
南羽さんが嬉しそうに、わかりきったことを言う。
ガラスケース越しに見るクマは、手足も鼻も細長くて、なんだか愛嬌のある顔をしていた。それでも固そうな毛並みや長く伸びた爪なんかは強かで野生動物然としていて、里山ヒエラルキーの頂点にいるのもうなずける。
ふと、南羽さんが今朝送ってきたスタンプが頭に浮かんだ。
「パンダはいなさそうですね」
俺のそんなコメントに、南羽さんは面食らったような顔をした後で、俺の意図が分かったのか、「そりゃそうだ」とはにかんだ。




