表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/61

真北くんのバースデー(2)


 まゆまるとの記念撮影のあと、園内のカフェでお昼を食べているときも、観覧温室を見ている間も、南羽さんは思い出し笑いをしては肩を震わせていた。

 俺も入った、まゆまるとのスリーショット。満面の笑みの南羽さんの反対側で、まゆまるの手を握り無表情に近い顔でピースする、俺。最大限の笑顔を作ったつもりなのだが、なぜ。

 それにしても。

 カメラロールをスクロールして笑っている南羽さんを横目で見る。

 最近、何かと遠慮しなくなってきた気がするな。


「無表情気味なのは、いつものことでしょう」


 なかば呆れ気味の俺に、南羽さんがフォローするように言う。


「真北くんはこれがいいんだよ。笑顔の真北くんはちょっと、ね」


 それも少し聞き捨てならないが。ひっかかりを覚える俺にお構いなく、南羽さんが続ける。


「この写真、真北くんらしくて好きだなあ。それに、一緒に写ったのって実はこれが初だよね」


 ともあれ、南羽さんが満足しているようなので別にいいか、と思い直す。

 そう言っている間に、目指していたエリアにやってきた。

 温室から北山門への道沿いにある、屋外庭園。人工池の周りに沿うようにして、もみじの樹が植えられている。赤みがかった鮮やかなオレンジの中に、これから色付いていくような青葉もまじっている。


「樹によって葉っぱの形とか、色味も違うんだねぇ」


 南羽さんがもみじの葉をしげしげと見比べて言った。


「日の当たり方とかで変わってくるみたいですね」


 昔読んだ絵本か何かに、そんなことが書かれていた気がする。同じ種類の樹でも葉それぞれに日当たりや風のとおりが違っていて、色の濃さや深さも、色付く範囲も全て異なる。それを知って、実際に同じ植物はないことを自分の目で確かめた時、幼い俺はとても感動した。

 並木の間を吹き抜けていく風が、ざあっと木々を揺らした。

 紫に近いような赤、明るい橙、つやのある朱色、黄色と緑の中間のような若葉――秋の陽差しに照らされた木々は大らかに揺らめいて、その多彩なグラデーションは七色の金魚が空を泳いでいるようだった。

 その下で、南羽さんが髪をおさえて真上を見上げている。

 俺と目が合うと、彼女はにっこりと微笑んだ。




「おなか空いてきたんだけど、真北くんは?」


 南羽さんがこちらを見上げる。

 秋バラ庭園やコスモス畑を回って秋の花を存分に味わっていたら、思いのほか時間が経っていたようだ。北山門を出る頃には夕日が西の空へ傾きかけていた。


「俺も割と、空いてきました」

「そう? じゃあこの辺で食べて帰る?」


 そう言って南羽さんが通り沿いを見渡した。北山にはカフェを始めとした飲食店が多いらしく、ガラス窓のおしゃれなたたずまいのお店がずらりと立ち並んでいる。南羽さんがスマホを取り出して検索しようとしたところで、俺は彼女に声をかけた。


「あの、よかったら丸太町のラーメン屋、行きませんか」

「丸太町・・・・・・この間行ったとこ?」


 俺はうなずいた。地下鉄丸太町駅を出てすぐにある店で、先月初めてふたりで行った所だ。たしか、さっぱりに全力投球した塩ラーメンを推していたように記憶している。

「いいけど・・・・・・真北くんから誘ってくれるなんて、珍しいね」

 南羽さんが口元をふにゃりとゆるめて笑う。


「誕生月クーポンがあって、全メニュー半額で食べられるんです」

「半額!? それは行かないと!」


 途端に、ラーメン好きの南羽さんの目が、子犬のように輝く。違う味を2杯頼むか、オプションでギョーザか酢豚を付けるか、などとぶつぶつ言っていた南羽さんが、はたと動きを止めた。口をぽかんと開けたまま俺の方に顔を向ける。


「てか、真北くん、今月誕生日なの?」

「はぁ、まぁ」

「えー言ってよ! いつ??」


 南羽さんが必死の形相で迫ってくる。彼女の方が背が低いはずなのに、見下ろされている気分だった。その勢いに圧倒されながら俺は絞り出すように返答する。


「10月・・・・・・27日、です」

 南羽さんが視線をずらし、頭の中で日付を数えているような仕草を見せた。


「来週、てかもう1週間きってるじゃん!」


 なぜか、露骨に『あちゃー』という顔をしたあとで、南羽さんがスマホを取り出した。しばらくスマホを見つめていた彼女が、画面から顔を上げて言った。


「当日は木曜日だから、そのあとの土曜日! お祝いしようよ」


 空いてるよね!? と付加疑問で聞いてくる彼女の圧に、俺は首を縦に振らざるを得ない。実際、予定などないし。

 そんな俺に彼女が身を乗り出すように聞いてくる。


「どこか行きたいとこない?」

「えっと、無くはないですが、来週あんまり天気良くなかった気が・・・・・・」

「じゃあ、何かほしいものない?」

「うぅん、今のところは特に・・・・・・」

「うーん、じゃあねぇ・・・・・・」


 そう言って、南羽さんは口元に手を当てて視線を落とした。しばらく難しい顔で考えを巡らせたあと、ひらめくように顔を上げる。これ以上ないぐらいの名案を思いついたと言わんばかりの顔だ。


「じゃあ、ごはん作ってあげるよ――」


 料理が得意な南羽さんらしい提案だ。瞬間的にそう思い、同時に『どこで?』という疑問が浮かぶ。俺の疑問に答えるかのように、南羽さんが言葉を続けた。


「――真北くん()で!」


 ・・・・・・なんですって?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ