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真北くんのバースデー(1)


 地下鉄丸太町(まるたまち)駅から、烏丸(からすま)線の国際会館(こくさいかいかん)行きに乗って、途中の北山(きたやま)駅で降りる。

 地下通路を抜けた先の階段をのぼって地上へと出ると、すぐそこに植物園への入口があった。


「今日は絶好の植物園びよりだね!」


 南羽さんが、晴れ渡った秋空に手のひらをかざして言った。



「結構広いねぇ。あ、あれがこの噴水かな」


 受付でもらった園内マップと目の前に広がる景色とを見比べて、南羽さんが声を弾ませる。

 北山門を入ったところは少し広いスペースになっていて、その先に噴水が見えた。吹き上がる水が周りにたまっていて、小さな子どもが水遊びをしているのが見える。


「芝生広場は、この先を道に沿って行ったところですね」

「そうだね。それじゃ、満を持して、《《まゆり》》ますか!」


 南羽さんがグッとサムズアップして、期待に満ちた笑顔を向けてきた。

 

 京都府立植物園へ行こう、そう誘ってくれたのは南羽さんだった。もともとは、秋だから紅葉でも見に行きたいねという話だったのが、このシーズンの紅葉スポットはどえらい混雑だとか、もみじだけでなく秋の花も見たいだとか、北山に植物園があるらしいとか、今度その植物園で『まゆまる』の出張イベントがあるのだとか、そういう話をしていたら、あれよあれよという間に行き先と日程が決まったのだった。

 『まゆまる』というのは俗に言うゆるキャラというやつで、京都府の宣伝広報部長のような役割を担っているらしく、府内各地で開催されるイベントに足を運んでは、京都府のPR活動を行っているそうだ。愛らしいフォルムながら機動性が高いというギャップに結構ファンが多いらしく、南羽さんも例にもれず一目見たときから夢中になっているという。その『まゆまる』がこの植物園に来る、ということで、俺たちは今日ここへ来ることになったのである。


 タイルで舗装された道に沿って行ったところに、一面芝生に覆われた広場が現れた。簡易的に設けられたステージの上に、白くてまるっとした形が動いているのが見える。


「まゆまるだ! しかもレア衣装!」


 南羽さんが小さく手を叩く。

 繭をモチーフとした楕円形に、大きくて丸い目がついている。今日は植物園でのPRにちなんでか、華やかな色合いの花柄シャツを身につけているが、普段は羽織のようなものを身にまとっているらしい。

 まゆまるは、両サイドにいる登壇者が繰り広げるトークに合わせ、ウンウンとうなずく仕草や驚いたようなリアクションを見せる。声も表情もないのに、まるで本当に生きているかのように感情が伝わってくる。

 トークショーが終わり、まゆまるとの記念撮影会が始まった。順番待ちの列に南羽さんと俺も並ぶが、子どもだけでなく大人も結構いて、南羽さんの言うとおり幅広い層に人気があるらしかった。俺たちの番が来て、南羽さんが律儀に挨拶しながらまゆまるに近づいていく。

 俺は彼女から託されたスマホを構え、ポーズを決める南羽さんたちに向かってシャッターを切った。


「オッケーです」


 何枚か写真を撮り終えて南羽さんに声をかけようとした俺に向かって、まゆまるがブンブンと手を振ってきた。心なしか、手招きをしているような動きだ。

 そばにいたスタッフがそれに気づき、「彼氏さんもどうぞ~」とにこやかに俺に笑いかける。え、と一瞬戸惑ったが、向けられた善意に「結構です」とも言いづらいし、知らない相手に向かってわざわざ「彼氏じゃないです」と訂正するのも気が引けた。まゆまる――と、ついでに南羽さん――は相変わらずの豊かな表現力でこちらに期待の目を向けている。

 俺はスタッフに促され、手に持っていたスマホを預けると、まゆまるのそばに立った。まゆまるが、丸々とした手を差し出してくる。手を繋ごうと言っているようだ。


「いきますよー、3、2・・・・・・」


 スタッフがカウントダウンを始める。俺はまゆまるの手をとると、スタッフが向けるスマホに向かって、一応ピースサインだけ出しておいた。


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