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ごほうび中華と青い夏(6)


「間近で見る飛行機は迫力があってかっこいいねぇ」


 アイスカフェオレの入ったカップを手の中で揺らしながら、南羽さんが言った。

 あれからしばらくデッキではしゃいだあと、さすがに暑くなってきたので、俺たちは空港内にあるカフェに移動した。窓際の席に座って、相変わらず絶え間なく離着陸する飛行機を眺める。


「空港って初めて来ましたけど、楽しいですね」


 離陸準備が整って動き始めた機体を目で追いながら、素直な感想が自然と口からこぼれていく。


「人が乗り込んで、荷物が運び入れられて。飛行機を整備する人、運転する人の思いとか、そういうのをひっくるめたものが、あの中に全部乗せられてる」


 まっすぐのびる滑走路を、ゆっくりと飛行機が滑り出す。


「それが、徐々に滑走路を加速して、ある時ふっと地面から離れて行って、広い空へ飛び立っていく」


 風をとらえた飛行機は、夏の日差しを受けて機体をきらめかせながら、青い空へと浮き上がった。遅れてやってくるエンジン音が、発着場にたしかな余韻を残す。ここを飛び立って、次はどこへ降り立つのだろう。


「どこかからやってきた飛行機は、中にあったものがほどかれて、少しずつ地上と一体になっていく」


 大きなハブ空港か、それとも田舎の小さな空港か。海を渡って外国の地に降り立つこともあるのかもしれない。初めて見る光景はそんな予想を掻き立てて、不思議なほど俺の心をとらえていた。


「飛行機って、乗るだけじゃなくて、多分それと同じぐらい、見るのもおもしろいんですね」


 俺の言葉に、南羽さんがふふっと小さく笑う。


「真北くんらしい、いいレビューだね」

「俺らしい?」

「うん。真北くんって、あんまり感情表に出ないけど、実はいろんなこと考えてるし、細かいところにもちゃんと気付いてる人だから。真北くんらしい、丁寧な感想だなって」

「・・・・・・そうですか?」

「そうだよ」


 南羽さんがはっきりと、まっすぐな目をして言い切った。俺の顔をじっと見たあとで、目元にやわらかい笑顔を浮かべる。


「真北くん、なんだか楽しそうだね」

「そう、見えますか」


 そう聞く俺に、南羽さんがうなずく。

 ――思い返せば南羽さんの言うとおり、たしかに楽しい1日だった。中華街、空港、飛行機。初めて行く場所、初めて見るもの、初めて感じること・・・・・・。

 知らないことを知るというのが単純におもしろかったと言えばそうだ。だが、決してそれだけではなかったのではないか、とも思う。今日俺が見た景色も、俺が抱いた感想も、ひとりでは味わうことなどできなかったものばかりなのではないだろうか。

 目の前で、南羽さんがにこにこと微笑んでいる。俺を知ろうと真正面から向き合って、俺のことを理解してくれて、飾らずありのままで接してくれる友達。そんな彼女を見て、疑問が確信に変わる。


「多分それは、南羽さんと一緒にいるからだと思います」


 ぼんやりとうすく広がる朝霧に少しずつ朝日が差し込んで、グレースケールだった世界が色味をおびていく――たとえるならそんな時間。俺ひとりでは、『見る』ことはできても『感じる』ことのできなかった風景。

 南羽さんといることが、今日という日常を特別なものへと変えてくれたのだ。

 南羽さんが、驚きと喜びとが複雑に混じり合ったような顔をしている。やがてその表情が、はにかみつつも得意げなものに変わっていく。


「一緒に来られて良かったです。誘ってくれて、ありがとうございました」

「どういたしまして! 他にもいろいろ行きたいところはあるし、また誘うからね!」


 すっかり上機嫌になった南羽さんが、晴れやかな笑顔で言った。それじゃあさっそく、と言って椅子から立ち上がる。


「さっき見つけたショップ行こ! 神戸空港(ここ)限定パッケージのお土産とかあるんだって!」


 南羽さんにうながされて、俺も席を立つ。

 窓の向こう、くっきりとした景色の中で飛行機がまた一機、雲一つない青の中へ飛び立っていった。


to be continued...

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