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ごほうび中華と青い夏(5)


 中華街を楽しみ尽くした俺たちは、JR元町駅前で、信号が青になるのを待っていた。日差しを避けるために、そばにあるビルのかげに立つ。

 繋いでいた手を離し、南羽さんが大きく伸びをする。


「真北くん、行きたいところがあるんだけど」

「いいですけど、どこですか?」

「んふふ、着いてからのお楽しみ!」


 南羽さんがまた、いたずらっぽい笑みを浮かべる。ただし、これはいいアイデアを思いついたときの表情(かお)だ。

 信号が青になり、南羽さんに引っ張られるようにして歩き出す。夏の日差しは空高く、日陰から出た俺たちをまぶしく照らしていた。



「展望デッキ……は、こっちだ! 真北くん、行こ!」


 そばの案内板を見ていた南羽さんが、軽やかに身をひるがえして前方を指さす。

 次のフライトの受付がはじまったのか、出発ロビーはにぎわっていた。大きなスーツケースを脇に携えている人が、搭乗手続のための列を作っている。そのそばを俺と南羽さんは通り抜け、正面のエスカレーターに乗った。


「結構広くて……それに、きれいですね」


 俺の感想に、「ね!」と満面の笑みで南羽さんが振り向く。そのまま俺の後ろの方に視線を移したかと思うと、「あ、ショップもあるんだ! あとで寄ろう!」と声を弾ませた。



 南羽さんに連れられてやって来たのは、神戸空港だった。

 ポートライナーの改札を抜けて連絡通路を渡った先、大きく掲げられた『KOBE』の文字が、俺たちを迎え入れる。自動ドアの向こうには、俺の見たことのない景色が広がっていた。天井も床も柱も、すべて白を基調としたシンプルなデザイン。高い天井とガラス窓の多いつくりのおかげか、屋内にもかかわらず明るくて清潔感がある。

 生まれてからいまだ飛行機を利用したことのない俺は、空港とは空路旅行をする人のためだけにある施設だと思っていた。ここへ来るポートライナーの中でそんな話をしたら、最近は空港そのものを楽しむ人が増えているのだと、南羽さんが教えてくれた。もっと大きな空港になると、いっそうエンターテインメント色が強いところもあるらしい。


 各所に備え付けられた案内板に沿って、展望デッキへと向かう。その道すがらにも、フードコートやカフェ、ガラス張りで見晴らしの良さそうな休憩所、空港をモチーフにした作品展示など、なるほど俺たちのような一般客でも楽しめる工夫が随所に施されていた。

 屋外へと通じる扉を押し開ける。ぶわっと、外の熱気が全身を包んだ。ひなたに出ると暑さはさらに強くなり、そこに風も加わる。

 木製の階段をあがると、目の前が開けて広場になっていた。フェンスが横一直線にのびていて、きっとその向こうに飛行機の発着場が見えるのだろう。


 ふいに、フェンス沿いに並んでいる人から、ワッと歓声が上がる。


 俺と南羽さんも近づいて後ろからのぞいてみると、ちょうど、飛行機が着陸してくるところだった。

 真っ青な空の中にぽつりと浮かぶ黄色い機体はどんどん大きくなって――あっという間に地面に降り立った。徐々にスピードを落としながら、灰色のコンクリート地面にひかれたオレンジのラインにピタリと沿ってカーブを描き、俺たちの目の前までやってきて止まった。

 しばらく見ていると、搭乗口から流れ出すようにして、乗客が連絡通路を移動していくのが見えた。そのあとは空港の職員が飛行機のハッチを開け、荷物を次々と運び出していく。


「あの車、空港ではめちゃくちゃ役に立つね」


 南羽さんが、ベルトコンベアにタイヤが合体したような車両を指して言う。たしかに先ほどまでは何に使われるのか謎だったが、今は貨物をおろすため大活躍中だ。

 乗客と荷物をおろし終えた飛行機は給油を終え、工具のようなものを持った作業員によって手際よく点検が進められていた。


 そうこうしているうちに、隣に停まっていた別の飛行機がエンジン音を轟かせ、ゆっくり移動を始める。白い機体に青いライン。さすがの俺でも名前ぐらいは知っている会社だ。コックピットの機長が手を振り、それに答えるように作業員たちも手を振り返す。

 滑走路に入った飛行機が、一瞬だけピタリと動きを止め、前を見据える。そのまま少しずつ速度を上げて走り出したかと思うと、まるで重力がなくなったかのような自然さで、ふわりと離陸した。

 飛び立った飛行機が空の彼方に消えるのを、俺と南羽さんはひたすら見つめていた。


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