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ごほうび中華と青い夏(4)

 小籠包を食べ終えて、続きを見て廻ることになったが、昼をまわったところだからか、人出が先程よりも増してきた。まっすぐ歩けない上に、店の行列に押されるようにしてできた人だかりに、何度も行く手を阻まれる。

 背の高い俺が前に立って、人ごみをかき分けるように進む。


「大丈夫ですか、南羽さん」


 振り向いて、南羽さんに声をかける。けれど、後ろにいるはずの彼女の姿が、なかった。


「え、南羽さん……?」


 あたりを見回して、彼女の姿を探す。視界の端、行き交う人々の合間に——ぴょこぴょこと手を振ってはねる南羽さんの姿が目に入った。逆方向に進む人の流れに巻き込まれるようにして、俺との距離がどんどん遠くなっていく。

 やばい。このままだと本当に見失ってしまう。

 俺は必死で人の間をかき分けて追いつくと——手を伸ばし、南羽さんの腕を掴んだ。

 腕、ほそ。一瞬そんな感想が浮かんだあと、彼女をかばうように手を引いて、俺たちは人だかりから抜け出した。


「あ、ありがと……真北くん。ごめんね、呼んだんだけど、届かなくて、声……」


 さすがの南羽さんも、ハァハァと息を荒げている。額に汗を浮かべ、それでもどこか楽しそうなのは、さすが南羽さんと言ったところか。


「人、増えてきましたね」

「そうだね」


 息を整えながら、人の波を眺める。その動きは、こちらが止まっているせいか、余計に激しく見える。

 その勢いは一向におさまりそうにないが、かと言ってこのまま帰るわけにもいかない。

 俺たちが食べたのは、まだ小籠包だけなのだ。

 南羽さんのスマホのカメラロールにあるのは、荘厳な門と、小籠包の写真だけ。その占める割合から言って、このままだと南羽さんがただの門フェチということになってしまう。

 南羽さんのリサーチと鋭い嗅覚によって選びぬかれた店にもほとんど行けていないし、この日のための努力——試験勉強——と照らし合わせると、どう考えても釣り合わない。


「南羽さん」

「はい」

「南羽さんが気にしなければ、ですが」


 そう前置きして、俺は自分の右手を、彼女の前に差し出した。


「はぐれないように、手を繋いではどうでしょう」


 俺の提案に、無言で瞬きを繰り返していた南羽さんが、くしゃっとした笑顔になる。


「あはっ。いいね、それ」


 そう言って、俺の右手に自分の左手を、そっと重ねた。拒否されるとは思っていなかったが、少しホッとした。

 置かれた手はやはり、細くてやわらかだった。

 

 手を繋いで歩き、気になったものがあれば足を止め、俺たちは中華街を堪能した。各店舗をまわってミニラーメンの食べ比べをし、本場四川(しせん)料理の辛さに驚いて、スイーツで甘さを、タピオカティーで水分を補った。南羽さんは通りの各所に置かれたパンダ像と一緒に写真を撮っていた。


「次、行きましょうか」

「うん」


 どちらからともなく、自然と手を繋ぐ。南羽さんの口から笑いがこぼれる。


「なんていうか、ベタだね」

「ベタ?」

「恋愛もののドラマとかでさ、よくあるじゃん。人ごみではぐれないように手を、ってやつ。」

「あぁ……ありますね。そこから関係性が発展していくのがお約束の」

「そうそう。こうやって手繋いでるとさ、そういう感じになってもおかしくないけどね、普通は」

「まぁ、なくはないですね。あくまで可能性としては」


 同意する俺を、「これ言っていいのかわかんないけど」と南羽さんが見上げる。


「真北くんだと、ドキドキはしないかな」


 もちろんいい意味でね、と付け加えて微笑む南羽さんに、


「イヤじゃないなら、よかったです」


 俺は、心からの感想を返した。そのあとで、余計なお世話かとも思ったが、一応付け加えておく。


「でも、南羽さんに好意を持っている異性には、言わない方がいいかもですね、それ。俺は何とも思わないので、いいですけど」

「えー、それってつまり、真北くんは私に好意持ってないってこと?」


 ショックだなー、と南羽さんがいたずらっぽい口調でおどけて言うが、その顔には、そんなこと微塵も思っていませんよと書かれている。


「いやいや……南羽さんのことは好きですよ、普通に」

「あははっ! うれしー! 私も好きだよ、真北くんのこと。普通に」


 俺の言葉が本心であると信じて疑わない、というような顔をして、南羽さんは満足そうに笑っていた。


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