ビワハクへ行こう!(2)
「満員電車って、苦手?」
草津駅前のバスロータリー。備え付けのベンチに座り肩で息をする俺に向かって、南羽さんが心配そうな顔をする。
「ちょっと、今まで経験したことがなかったので・・・・・・」
俺は心配をかけまいと、先ほど近くの自販機で買った水をぐいっと飲んだ。冷たい水が体に染み渡っていく。本当なら頭からかぶってしまいたいし、一緒にいるのが地元の連中ならそうしているところだが、今隣にいるのは、会ったばかりの女の子だ。できるわけがなかった。
南羽さんは俺の顔に生気が戻ってきたのをみて安心したのか、バス停に掲げられた時刻表を見るために立ち上がった。
しげしげと眺めた後で、「あと10分くらいで来るみたい~」と、こちらを振り返ってにっこり笑う。
顔を上げた俺の視界には春先の青空が広がっていた。綿菓子のような雲の切れ間からのぞく陽光に、俺は思わず目を細めた。
ほどなくして、バスが到着した。
バスの額部分、とでも言うのだろうか。そこには『琵琶湖博物館ゆき』とでかでかと表示されていた。
南羽さんの後に続くようにしてバスに乗り込む。電車とは違って人は少なく、安堵する。「窓際、行く?」と南羽さんが気を遣ってくれたが、これだけゆとりがあれば大丈夫だ。
田んぼばかりの道を、バスは軽快に走り抜けていく。なんだか安心するなと思いながら、その風景をぼけーっと見ていた。
「ね、真北くん」
ちょいちょい、と横から南羽さんが俺の服の裾を引っ張った。そちらに目をやると、南羽さんが嬉しそうな顔でスマホを見せ付けてくる。
画面に映っていたのは、茶色に黒の斑点模様のついた、トカゲのような・・・・・・いきもの?
「なんですか、これ」
俺の質問に、南羽さんは声を抑えながらも興奮した面持ちで言う。
「オオサンショウウオだよ、オオサンショウウオ! 世界最大級の両生類! ビワハクにいるんだって!」
ビワハク、というのは、今から行く『滋賀県立琵琶湖博物館』の愛称だそうだ。南羽さんは滋賀県出身でもないのに、その呼び名を自然に口にする。
両生類ってことは、やっぱりトカゲか何かの仲間なのかな。南羽さんがそこに食いつくというのは、少し意外だった。なんとなく、花とかを見て喜びそうなイメージだったから。この分だと、水槽の中を泳ぐ魚を見て「おいしそう」とか言うんじゃないだろうか。
20分ほどで、目的地に到着した。バスを降りた俺たちの目の前に、博物館の入り口が現れる。
思ったより、大きい建物だった。その感想は、中に入ってさらに強くなった。
エントランスを進んだ先、中央のホール部分は吹き抜けのようになっていて、2階にも展示室があるらしかった。奥のガラス張りの大きな窓からは明るく光が差し込み、その奥には琵琶湖が広がっている。パンフレットによると、滋賀県の文化や生き物たちの生態、琵琶湖の歴史なんかを広く展示しているらしかった。
館内の案内図とにらめっこしている南羽さんに俺は聞く。
「この先の通路をまっすぐ下りて行ったら、水の生き物のコーナーみたいですけど。そこから行きますか?」
南羽さんは一瞬目を輝かせたあとで、うーんと唸る。
「一応、順路って書いてあるし・・・・・・こっちから行こ」
そう言って、そばにあるエスカレーターを指差した。
南羽さんは、好きなものは最後に取っておく派なのかもしれない。




