ごほうび中華と青い夏(3)
「真北くん、おっはよー!」
京都駅の改札前で、一点の曇りもない笑顔の南羽さんが手を振っていた。今日は髪の毛を後ろでひとつにまとめている。
俺が改めて労いの言葉をかけると、「真北くんもね」と言って、南羽さんは照れくさそうにはにかんだ。
「いやー、昨日は家帰って即寝落ちだったよ」
ホームへ下りるエスカレーターに乗りながら、南羽さんが言う。一段下に立つ俺と、ちょうど同じぐらいの高さに彼女の顔がある。
「でもおかげでいっぱい寝られたし、このために頑張ったんだから、今日は全力で楽しみますよ!」
むん、と南羽さんが握りこぶしを作る。
10分もしない内にホームに電車が滑り込んできて、うきうきとはしゃぐ彼女を迎えるように扉が開いた。
「結構人多かったねぇ」
南羽さんが苦笑いを浮かべて俺を見る。
満員電車を避けよう、と時間帯をズラしたおかげで通勤ラッシュには巻き込まれずにすんだが、俺達と同じ年頃と思われる乗客や、旅行で来ていると思われる人々で、車内は思ったよりも混雑していた。
人に流されるようにして、なんとか駅の外に出る。
「少し休みますか?」
「それ、真北くんが言うー?」
軽快に笑う南羽さん。俺よりずっと元気そうだ。
最寄りのJR元町駅で電車を下り、燦々と降り注ぐ太陽と、都会的な空気を感じながら、目的地へと向かって歩く。京都とは違って、スタイリッシュで斬新なデザインや色味の、ぱっと目を引く建物が多くある印象だ。
目的の神戸中華街は、そんなモダンな街並みの中に溶け込むように存在していた。
どこかの歴史ある寺院にありそうな立派な門が、俺と南羽さんを迎えてくれる。南羽さんが心ゆくまで写真を撮ったあとで、俺たちは門をくぐった。とりあえずひととおり見て廻りましょうか、ということで、人の波に乗って前へと進む。
少し行くと、ひらけた場所に出た。どうやら中華街の中心に位置する広場らしく、行き交う人々はあちこちへと流れを変えていく。
「真北くん、あの店有名らしいよ」
事前のリサーチはぬかりない、と南羽さんが電車の中で豪語していたが、その言葉に嘘はないようだった。いつのまに手に入れたのか、パンフレットを握りしめ、すでにめぼしい店を見繕っている様子だった。
彼女の視線の先には、たしかに長蛇の列のできた店があった。看板に掲げられた文字を見る。
「小籠包……ですかね。並びますか?」
俺の問いかけに、南羽さんは力強くうなずいた。
最小の販売個数が6個だったので、ふたりで買って食べることにした。広場の隅の方で、立ったまま、買ったばかりのケースの蓋を開ける。ゴマのような香ばしいかおりと湯気がふわりとたちのぼる。
「小籠包の醍醐味は中の肉汁なんだけどね、これが熱いんだよ。油断してひとくちでいくと地獄を見るから気をつけてね」
南羽さんの助言に従い、彼女の真似をして、肉汁がこぼれない程度に小籠包の生地を箸で割る。
しばらく南羽さんの小籠包談義を聞いたあとで、そろそろと口へ運ぶ。
風味豊かなスープが、口の中に広がった。
熱い。そして、暑い。夏場の太陽の下で食べるのは間違っているのかもしれなかったが、不思議と不快ではなかった。隣では南羽さんもパタパタと口元をあおいでいる。熱そうだが、俺と目が合うとにこりと満足そうに笑った。




