雨の日にはラーメンを(4)
小雨がしとしと降る中を歩き、俺と南羽さんは赤信号を待っていた。目の前を、シャーッと音を立てて車が横切っていく。濡れた路面に車のライトや信号機の色が反射して、ぼんやりとした形が浮かび上がる。
ふと俺の方を見上げた南羽さんが口を開く。
「真北くんがさ、ピアス開けてるのってちょっと意外だよね」
「そうですか?」
「うん。だって、話してみたら普通に真面目だし、穏やかだし」
表情はかたいけど、といたずらっぽく笑って南羽さんが付け加える。
「なんで開けたの?」
特別な理由などなかったから、純粋なまなざしを向けられ返答に困ってしまう。強いて言うならば、開けたいと思ったというより、開けるものだと思っていたから、ということになるが。
「理由は、特にないんですけど。大学生とか都会の人ってピアスしてるイメージだったんで。あと、地元から進学した先輩が帰省してきた時、みんな開いてたんで、そういうものかと」
「・・・・・・サンプルが偏りすぎだねぇ」
俺はいたって真面目に答えたつもりだが、南羽さんはおかしそうに笑う。
「初めて会ったとき、こわい人なのかなーって思ったけど、全然そんなことなかったよ」
彼女のその言葉を聞いて、うすうす感じていたものが確信に変わった。
大学生活を送る中で気づいたことのひとつに、『ピアスをつけている人は少数』というのがある。そして、そういう人はたいてい髪色や風貌が派手で――有り体に言えばヤンチャな印象だった。もしかして俺も『そっち側』の人間だと思われているのではないか。もっと言えば、物静かな雰囲気をまとっている分、余計にヤバい奴だと思われているのではないか。1年生前期の半分以上が経ってなお、俺に親しげに話しかけてくる人が南羽さん以外にいないのは、俺の表情がかたいことだけではなく、両耳についた装飾のせいもあるのではないか。
なんとなくそう思っていたが、南羽さんの『こわい人かと思った』という発言で、確信した。
「そんな気はしていましたが、やっぱりそうですか」
「なにが?」
俺は軽く左耳に触れる。
「あまり人が寄ってこないのは、ピアスのせいもあるのかなと」
南羽さんは「あー・・・・・・」と何かを想像するかのようにしばし考え込んだあと、「たしかに」とつぶやいた。
「ピアスがなかったら、こわいとはあまり思わないかも」
試しにピアスなくしてみる? と聞く南羽さんに、今度は俺が考えを巡らせる番だった。ピアスをしたくて開けたわけではない手前、つけ続ける必要性はない。かと言って、やめる理由がないというのもまた事実だった。それに、都会での生活を話す先輩たちのまぶしい笑顔と、その耳元で輝く光の粒には、どこか心惹かれる魅力があった。
信号が青になる。動き出す人の波に乗るように、俺と南羽さんも歩き出す。
「いや、いいです。せっかく開けたのに、もったいないですから」
またも真面目に答える俺と、「モッタイナイ」とつぶやくように繰り返した後で、ぷはっと吹き出す南羽さん。
「やっぱり、真北くんは真面目だ」
南羽さんが笑うのにあわせて、クラゲを伝う水滴がゆらゆらとゆれていた。




