ビワハクへ行こう!(1)
女の子とふたりででかけるなんて、いつぶりだろう。
東北の山深い地域で生まれ育ったから、中学までは同級生が8人ぽっちしかいなかった。小さい頃からみんな幼馴染み、みたいな感覚だったから、お互い男だとか女だとか、そういう意識は薄かったと思う。
家が隣――と言っても200メートルぐらい離れている――のリンちゃんとは、村で唯一の万屋に行く途中でばったり出会って一緒に買い物して帰ってくる、なんてことがよくあったが、それは『女の子とでかける』に含めてもいいのだろうか。
今朝はアラームが鳴るよりずっと前に目が覚めた。アラーム自体をいつもの1時間前にかけていたから、たいへんな早起きだ。
でもそのおかげで、今日着ていく服をじっくり選ぶことができた。別に気合いを入れるわけではないが、人と会うのだから身だしなみはきちんと整えなくては失礼になる。
洗い立ての白Tに、濃いブルーのシャツを羽織る。うん、背中にもシワはない。下はジャージっぽい素材のちょっとラフなパンツ。足元はグレーのスニーカーで派手過ぎないように。
予定どおり8時半に家を出る。
オートロックの共用玄関を抜け、駐輪場に停めてある自転車に手をかける。
連絡を入れておこうとスマホを取り出すと、新着メッセージが2件届いていた。多分、彼女からだ。
通知をタップする。思ったとおり、パンダのアイコンが新着の欄にいた。どこかの動物園で撮った写真、らしい。
トーク画面には、これまたパンダのキャラクターが「おはよー!」と叫んでいるスタンプのあとに、
《今から家を出ます。予定どおり!》
というメッセージ。
《おはようございます。俺も約束どおり9時には着きます。》
と返信すると、すぐに既読がついた。
スマホをしまい、自転車にまたがると、約束の京都駅まで俺は走り出した。
待ち合わせは京都駅の改札前。到着したのは時間どおりだったが、彼女の方が先に来ていた。俺に気がつくと、途端に表情が明るくなる。
「真北くん、おはよう!」
「おはようございます、南羽さん」
南羽さんは今日も元気だ。淡いピンクのブラウスに白っぽい細身のパンツを身につけた彼女は、ゆるい三つ編みを耳の下あたりで作って、今日はその上に無地のキャップをかぶっている。先週より少しだけボーイッシュな感じ。
「もうすぐ電車来るよ。いこ!」
そう言って、券売機へ向かってずんずん歩いていく。
「最寄りって、草津でしたっけ」
「そだよー。だから410円ね」
もうすでにリサーチ済みらしい。彼女に言われるまま、財布の中から1,010円を取り出して、切符を買った。
電車はまぁまぁ混雑していた。俺は普段電車を使わないから、これがどれぐらいの混み具合なのかはわからないが、地元の列車より混んでいるのは間違いなかった。隣に立つ南羽さんは慣れているのか、窓の外に視線を向けている。
南草津という駅で、さらに人が乗ってきた。そこそこ大きな駅のようで、窓の向こうには背の高いビルや、俺でも名前を聞いたことのあるような店が、隣り合うようにして立っている。
滋賀県の県庁所在地って、大津、じゃなかったっけ。なんというか、南草津の方が、栄えているように思える。
乗り込んで来た人の波に押されるようにして、俺は体の向きを変えた。それまでは南羽さんと隣り合うようにして立っていたのが、壁に手をついて、南羽さんと向かい合う形になる。南羽さんを圧迫しているようで申し訳ない気持ちになった。表情に出ていたのか、南羽さんが俺を見上げて「あとひと駅の我慢だよ」と笑った。




