動物園と友達(2)
《動物園行ってきたよー!》
彼女の口調そのもののようなメッセージの後に、写真が何枚も送られてきていた。時間は15分ほど前のようだ。
ゾウ、トラ、霊長類、水鳥、ライオン、レッサーパンダ、カピバラ、キリン、リス、そしてパンダ。動物だけの写真もあったし、ポーズを決めた南羽さんが一緒に映りこんでいる写真もあった。
「テンションたか~・・・・・・」
すべての檻の前でスマホを構える南羽さんの姿が思い浮かぶ。
《いろんな種類の動物がいるんですね。楽しそうで何よりです。》
というメッセージと、ネコがサムズアップしているスタンプを送る。すぐさま既読がついた。と思ったら、トーク画面が通話の呼び出し画面に切り替わった。手の中でブーブーと震えるスマホの画面には、パンダのアイコンと『南羽ひなた』の文字が大きく表示されている。
「もしもし」
「あ、真北くん! 私、南羽です!」
スピーカーからは、とてもはつらつとした、いつもの南羽さんの声が聞こえてきた。
いきなりゴメンね、と断りながらも、南羽さんは今日の出来事を興奮した口調で語りはじめた。
「ゴールデンウィークが明けるまで待ってたら、忘れちゃうから!」
たしかに、南羽さんの言うことも一理ある。
クマのえさタイムの迫力がすごかったとか、シマウマやゾウはお尻からの角度で見るのがいいのだとか、ウサギやモルモットがぬいぐるみみたいだったとか、南羽さんの話はくるくると移り変わっていった。後半のほとんどは、『パンダはやっぱりかわいい』と熱弁するのに費やされていた。
俺は時折相づちを打ちながら、静かに彼女の話に耳を傾けていた。あまりにも感情豊かに話すから、電話越しのはずなのに隣で聞いているような気になった。
ひととおり話し終えた後で満足したのか、南羽さんが話題を変える。
「真北くんは何してたの?」
「俺は・・・・・・」
RPGのクエストを思い返して、俺は答えた。
「世界を救ってました」
「世界?」
電話の向こうで、南羽さんが首をかしげている。
「はい。道で動けなくなっている人を助けたり、おつかいを頼まれたり、モンスターを駆除して、困っている人を助けたり」
『モンスター』という言葉を聞いて、南羽さんが「あぁ」と納得したような声を出す。
「ゲームの話?」
「です」
意外にも、南羽さんもゲームをするらしかった。彼女の場合はパズルや育成ゲームを好むそうだ。ゴールデンウィーク初日の俺の話を聞いて、感心したように、噛み締めるような口調で言う。
「いいね、それ。サイコーに贅沢な時間の使い方だ」
電話の向こうで、南羽さんが笑った。ような気がした。
明日は神戸市内を適当に観光して、神戸牛を食べて帰ってくる予定なのだと、南羽さんは言った。ご当地ウシですね、と言ったら彼女は「そうなの!」と一層大きな声を上げた。
「今日のこと、真北くんに聞いてほしかったから、話せてよかったよ」
「俺も、楽しかったです」
素直な感想だった。南羽さんは、えへへと笑うと「じゃ、おやすみー」と言って電話を切った。『通話終了』の文字の下には、32:06と表示されていた。
しばらく、南羽さんの『真北くんに聞いてほしかったから』という言葉の余韻に浸る。一緒にいる友達と話して満足するようなことを、わざわざ俺に電話をかけてきたということが、ただ嬉しかった。
ゴールデンウィークはあと3日ある。南羽さんにあてられたわけではないが、俺もどこかへ出掛けてもいいかもしれない。
寝る前に少しだけ、このあたりの観光情報を調べてみよう。
ソファに完全に横になって、俺はスマホの検索結果をスクロールしていった。




