動物園と友達(1)
5月初旬。
俺は自室のソファにもたれかかって、何をするでもなく過ごしていた。朝からつけっぱなしのテレビが、ゴールデンウィークでどこも人がいっぱいだと伝えている。
4月が過ぎ、大学生になってから1ヶ月が経とうとしていた。何かと慌しくありながら、思い返してみれば長かったように思う。前期の3分の1近くが終わり、学内の施設や、1コマ90分という講義の長さにもすっかり慣れつつあった。
ゴールデンウィークと言っても、土日に2日間の祝日がくっついただけのものだ。アルバイトもしておらず、どのサークルにも所属していないので特にこれといった予定もなく、人手の多いところを好まない俺は、ひとり静かに束の間の休息を過ごしていた。初日の今日は気持ちのいい快晴で、時折、開けた窓から爽やかな風が吹いてくる。
テレビのリポーターが、相変わらず元気に取材先の様子を語っている。東京の『上野公園』とやらにやってきている彼は、先ほどから子連れ客をつかまえては、コメントをもらおうとマイクを向けていた。
公園、というものはそもそも地元になかったように思うが、金網のフェンスで囲まれた小さな空間に、滑り台やらブランコやらが無造作に設置されている場所をイメージしていた。だから、この『上野公園』というのはどうやら俺の想像しているものとは違うらしいとわかった。少なくとも、休日に家族ででかけようと思う程度の何かがあるのだろう。そんなことを思ってぼんやりとテレビを眺めていたら、マイクを向けられた子供が「動物園が楽しみ」と答える映像が流れてきた。
動物園?
テーブルに置いていたスマホを手に取り、検索をかけてみる。どうも、広大な土地の中に、動物園をはじめとして、博物館や美術館、大きな池までもあるらしい。公園の中に電車が走っているようで、どれほど大きなところなのか想像もつかない。
動物園と言えば。ふと南羽さんの顔が浮かぶ。
いつも元気な南羽さんのアクティブさはゴールデンウィークも健在で、今日は学科の友達と出掛けているらしい。たしか、神戸にある動物園に行くのだと言っていたような気がする。動物たちの檻の前を縦横無尽に移動しながらはしゃぐ南羽さんの姿が容易に想像できる。
俺はテレビを切って、かわりにゲーム機の電源を入れた。ゲーム機とつながれているテレビが再び起動し、モニターにゲームの選択画面が表示される。適当にRPGを選んで、決定ボタンを押した。
オープンワールドの世界で、武器を手に入れながら敵を倒し、小さなクエストを攻略していく。
最近は講義に関する調べものやレポートに取り組むことが多く、あまりさわれていなかったので、久しぶりにプレイするゲームはいつになく楽しかった。
ふと目をやると、窓の外が少し黄色みがかっていた。
スマホの時計は17時前を指している。プレイ中のゲームを一旦停め、俺はキッチンへ行き冷蔵庫を開けた。昼は適当にあるもので済ませたが、夜は何か調達に行かないと何もできなさそうだ。自分で作るかどうかは別にして、そろそろ買い物に出掛ける必要があった。
家を出て自転車で走り出すと、少しだけ冷たい風が頬に当たった。家を出るときに少し迷ったが、パーカーを羽織ってきて正解だった。
結局、買ってきた惣菜で簡単に済ませ、俺は早々に風呂も終わらせた。寝るまでまだ少し時間がある。先ほどのゲームの続きをやるか、別のゲームにするか、そんなことを考えながらソファに腰を下ろす。そのとき、スマホの通知ランプが点滅しているのが見えた。緑色の光はたぶん、メッセージアプリの通知だ。
確認すると思ったとおり、メッセージアプリの通知であり、新着メッセージが20件近くたまっていた。このところ俺に届くメッセージと言えば、企業の広告か、実家の両親か、そうでなければ――
やはり、南羽さんだった。




