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キミと食べるクッキー(3)


 火曜日以外の3限目はすべて講義で埋まっていた。自分で時間割を組むから、ある程度自由にはできるのだろうが、必修科目を中心に選択していったら自然とそうなってしまった。

 相変わらずの人の波に押されながら、空いている席を見つけて昼食をとり、真面目に講義に出席する――本格的に授業が始まって2週間も経つと、さすがに慣れつつあった。初めての大学生活にしては、悪くない滑り出しだ。


 学食ではたびたび南羽さんを見かけた。俺と同じで南羽さんも毎日学食派らしく、友達らしき女の子数人と連れ立っているのをよく目にした。俺に気づくと笑顔で手を振り、時間のあるときはわざわざ俺の方までやってきて、二言三言他愛もないことを話すこともあった。学科が異なるので講義で彼女を見かけることはほとんどなかったが、学内ですれ違うことはたまにあって、そのたびに俺たちは手を上げて微笑みあう――俺はちゃんと笑えていたかわからないが――だけの挨拶を交わした。


 金曜日の4限終わり。帰り支度を整えて学部棟のそばを歩いていたとき、渡り廊下の端を歩く南羽さんを見かけた。珍しく彼女はひとりだった。

 俺を見つけた彼女はまるで小型犬のように駆け寄ってきて、息を弾ませた様子で「ね、今から時間ある?」と聞いてきた。俺がうなずくと「やった」と笑顔になり、そのまま中央広場に向けて歩き出した。

 広場のベンチに座った南羽さんが、手提げのビニール袋から、ティッシュケース大ほどのサイズの箱を大事そうに取り出した。開けられた包みの中には、うすい茶色のクッキーが均等に並べられていた。

 いわく、京都にあるちょっと有名な洋菓子店のクッキーだそうで、学内にある購買で数量限定で販売されているらしい。補充されるとすぐに売り切れてしまうそうで、今日やっと買えたのだと、南羽さんは嬉しそうに語った。


「金曜日だからね。ごほうびごほうび」


 そう言って、俺の目の前に箱を差し出す。お礼を言って1枚を口に運ぶと、ふわりとやさしい甘味が口の中に広がった。なるほど、すぐ売り切れるのもわかる味だった。


「いつも一緒にいる友達は今日はいないんですね」

「そう、みんな教職課程取ってるから」

「教職課程・・・・・・それは、忙しいですね」


 そういえば、俺のいる『人間社会学部』も、その気になれば社会科の教員免許を取ることができる、と学部のオリエンテーションで聞いた気がする。一般科目にプラスする形で講義を履修する必要があり、その講義は1日の中でいちばん遅い5限目に設定されていることが多いらしい。俺は自分が教員に向いているとは思わないので、オリエンテーションでの説明をあまり詳しく聞いていなかったが、南羽さんいわく受講者は少なくないそうだ。

 友達の講義が終わるのを待って、今日はこのあと食事に行くのだと、南羽さんは言った。出会って1ヶ月も経っていないがすっかり打ち解けて、ほとんどいつも一緒に行動しているらしい。

 それは楽しみですね、と当たり障りのない返事をする俺の顔を、南羽さんがじっと見る。そうして、「違ったらごめんね」と前置きをして、

「真北くんは、誰かと一緒にいること少ないよね」

 ただ知っている事実を述べるような、淡々とした口調で言った。


 たしかにそうかもしれなかった。学内で彼女に会ったとき、たいてい俺はひとりで行動していた。

 特定の友人はいないが、別に他人と仲良くなろうとしていないわけではない。履修している講義で顔を合わせれば適当に話すし、嫌われたり避けられたりしている感覚もない。人混みが好きではないので、そういった場に顔を出すことは少ないが、可もなく不可もなく、といった感じで人付き合いはやっている。

 そのうち何かのきっかけで仲良くなるかもしれないし、なれなかったとしても別に構わない。そんなわけで、無理に誰かとの仲を深めようとしていない自覚はあった。

 思えば、高校に進学した時からのクセのようなものかもしれなかった。


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