ビワハクへ行こう!(9)
実家の周りは自然が豊かでのんびりしたところだった。
春先や秋口などの気候のいい季節に、自宅の前庭に面した縁側に出て、降りそそぐ木漏れ日を感じながら目を閉じる。聞こえてくるのは自然の音ばかりで、ゆるやかに流れる風を感じているうちに俺の心は落ち着いて、いつしかまどろみに引っ張られてゆく、そんなことはよくあった。
俺が南羽さんの隣で眠ってしまったのは、寝不足だったことだけでなく、そういう理由もあったのだろうと思う。
わかりやすくいうと、リラックスしていたのである。
遠くの方で鳥が鳴く声が聞こえたような気がして、俺は自分が眠っていたことに気がついた。
地面を明るく照らす陽の光がまぶしい。徐々に目を慣らせつつ、ぼんやりした頭で隣に目をやる。
そこに南羽さんの姿はなかった。
壁にもたれかかっていた体を起こして伸びをすると、肩や背中からポキポキと控えめな音がした。
瞬きを何度か繰り返すと、少しずつ視界が鮮明になってきた。目の前には、眠りに落ちる前に見えていた花壇が広がっている。
その中央に、南羽さんが立っていた。
クマか何かの形に刈り込まれた植木を見上げている。彼女のブラウスがふわりと揺れ、淡いピンク色も相まって、彼女自身が桜の花のように見えた。
南羽さんがくるりとこちらを振り向いた。俺が目を覚ましたのに気づいたのか、右手を頭の上にあげ、ぶんぶんと大きく振る。表情までは見えなかったが、きっと満面の笑顔に違いない。
俺はベンチから立ち上がり、彼女のそばへ歩み寄った。
「すみません。気持ちよくて、寝てしまいました」
「いいよぉ、全然。あったかくてお昼寝日和だね」
南羽さんは目を細め、屈託のない笑顔で言った。
春、芽吹く生命をあたたかく照らす太陽のような、そんなほほえみだった。
帰り際、出口のそばのお土産コーナーに立ち寄った。
南羽さんはお目当ての物でもあるのか、熱心に店内を見てまわっている。
俺はその辺の棚に置かれた商品を適当に見ていた。オオサンショウウオとビワコオオナマズを推しているのか、それらを中心に、マグネットや箸置き、ハンカチ、トートバッグ、Tシャツに至るまで、様々なグッズが並べられていた。
会計を済ませたらしい南羽さんが、店の外にいる俺の元へ小走りで駆け寄ってくる。
「真北くん、お待たせ。あと、これ!」
そう言って、彼女は今買ったばかりと思われる商品を手のひらに乗せて差し出した。そこにあったのは、オオサンショウウオ型のマグネット。
「2個入りだったから、ひとつあげる」
彼女はそう言って微笑んでいたが、俺がさきほど見たときは、1個ずつでしか売られていなかったはずだ。そう思ったが、
「友達の証・・・・・・的な?」
そう言ってはにかむ南羽さんを見て、別に言わなくてもいいか、と思い直す。
「ありがとうございます」
かわりに、自分なりに全力の笑顔を浮かべて、彼女の手からマグネットを受け取った。
「これからもよろしくね、真北くん」
にっこり笑う南羽さんが嬉しそうだったから、このことはずっと秘密にしておこう、そう思った。
「いやー、かわいいねぇコレ」
南羽さんが、ウキウキとした口調でマグネットを見つめて言う。もらったオオサンショウウオのマグネットは、実物よりも愛らしくデフォルメされていて、たしかにかわいく見えた。どこにくっつけようか、やはり定番の冷蔵庫かな。俺はそんなことを考えながら、満足げな南羽さんの横を歩いていた。
また一緒にでかけたいな。
自然と、そんな感想が湧いてくる。
博物館前のバス停に向かって歩く俺たちを、午後の日差しが明るく照らしていた。
to be continued...




