第7話 アラーム音は憂鬱
離れた所からスマホアラーム音が聞こえ、スマホに手を伸ばして探すが何処にも無い。探せずにいると、徐々にアラーム音が聞こえなくなる。
「……学校…だる……」
憂鬱になりながら、目を覚ますと知らない天井が見えた。
(……そうだ…私、異世界召喚されたんだ…)
アラーム音が鳴ったせいで、昨日の事を忘れかけていた。天井を見て異世界召喚された事を思い出した。ゆっくりと上半身を起き上がらせた。カーテンを閉め忘れたせいで、窓から差し込む朝日が眩しい。
「んーー…!」
身体を伸ばし、ベッドから足を下ろす。寝るまで履いていたミュールが無かった。何処にいったのか探すと、少し離れた所に落ちていた。足を揺らし靴を脱いだ時にでも、飛んでいったのだろう。
(あの時か……)
寝る前の事を思い出し、ため息が出る。素足で歩くと、冷たい床の感触が伝わってきた。冷たさから逃れたく、早足になる。
(……エレナの事、呼ばなきゃ)
ミュールを履きながら、昨夜、エレナが言っていた事を思い出していた。起きたらベルを鳴らせと言われたが、さすがに寝起きで呼ぶのは気が引けてしまい、最低限の身支度を済ませてから呼ぶ事にした。
エレナから部屋の説明を聞いていたので、躊躇無く後ろの扉を開いた。
「おー……すげぇ……」
思っていたより広く、壁には金の額縁に収められた風景画が飾られている。視線を移すと、白い大理石で造られた洗面台があった。歯ブラシ、コップ等…必要な物は一式揃えられている。
洗面台の前に立つと鏡に自分が映る。寝癖が思いっきりついて、ハネてしまっている。
「だる〜…」
手ぐしで梳かすが、寝癖は直らない。後で水で濡らして直すしかなさそうだ。エレナを呼んだ時にでも、ドライヤーを持ってきてもらおう。
とりあえず、顔を洗おうと蛇口を捻る。冷たい水を両手で掬い顔にかけると眠気が覚めていく。
「洗顔したいんだけど…異世界にあんのかな…?」
洗顔の事もエレナに聞くことにし、歯磨きをしていく。歯を磨きながら、スマホからアラーム音が鳴った事を思い出していた。
(……異世界でもアラームって鳴るもんなのかな…?平日は毎日、鳴る設定にしてるけど……)
電波が無くてもアラームが鳴る事は知っていた。だが、異世界でも鳴るとは思ってもいなかった。
(設定変えよ……)
異世界召喚されたのに、毎朝あのアラーム音に起こされては憂鬱で仕方ない。嫌でも学校の事を思い出してしまうからだ。進路についてもだ。考えただけで憂鬱になってくる。
ため息をこぼし、口をすすいで歯磨きを終えた。気持ちを切り替えようと、両手で頬を軽く叩き部屋に戻っていく。
(本当にコレ聞こえるのかな…)
ベルを手に取り鳴らす。澄んだ綺麗な音が部屋に響く。少し待っていると、ノック音が聞こえ返事をするとエレナが入ってきた。
「おはようございます、ヨミ様」
「おはよう。来て早速で悪いんだけど…」
「どうかいたしましたか?」
「洗顔とかってあったり…」
「勿論、ございます!」
「ドライヤーって持ってきてくれたり…」
ドライヤーの事を伝えると「……ドライヤーですか?」と、首を傾げて聞いてくる。
(ドライヤーって伝わんないの!?)
伝わらないとは思っていなかった。慌てて、ドライヤーの説明をした。
「んーっと…髪を乾かせるやつ!」
「……あっ!魔導温風機のことでしょうか!」
「多分それ!それだわ!」
「すぐにご用意致しますね!」
「待っていてください!」と言い残し、部屋から出て行った。ソファに座り、彼女の帰りを待っていると、数分もしないうちに戻ってきた。手には洗顔料と昨日、使ったドライヤー……魔導温風機が。
「お持ち致しました!」
「はやっ」
驚きの早さに思わずツッコんでしまうと
「ヨミ様のためですから!」
と、胸を張り得意げに笑った。
テーブルの上に持ってきた物を並べると一歩下がる。
「朝食の方は、如何なさいますか?」
「食べようかな」
「かしこまりました!ご用意させて頂きますね」
戻って来たのに、すぐにまた部屋から出て行ってしまった。用意されるまで、私は髪と洗顔を済ませる事にした。
結構、寝癖を直すのに手間取ったが何とか直せた。洗顔も終えると、丁度よくエレナが朝食を運んで来てくれた。
夕食の時と同じテーブルに朝食が置かれている。今回も美味しそうだ。
「いただきます」
⋯──────朝食を食べ終えると、エレナがいつの間にか持ってきていた、私の制服を差し出してきた。
お礼を言い、制服を受け取る。
「私の事は気にせず、着替えて下さいね」
食器を片付け、視線をそちらに向けてくれた。好意に甘え、着替えていく。制服に袖を通し、ミュールからスニーカーにも履き替えた。
「洗濯、ありがとう。制服が新品みたい…」
「お褒めにあずかり光栄です!」
胸の前で両手を握り締め、喜んでいた。私の一言で、喜んでくれるのが嬉しくなり微笑んでしまう。エレナが何か思い出したのか「あっ!」と、声を上げた。
「ヨミ様!今日は城下町に行きましょう!」
「え、何で?」
「旅に必要な物を買いに行くんですよ!女性には、必要な物がたくさんありますからね!」
「あー……旅ね、旅……」
エレナに言われるまで、すっかり旅の事を忘れていた。
「お洋服に……魔道具も買わなければいけませんし…後は───⋯」
指をおりながら、何を買うか呟いている。その様子をソファから眺めながら、スマホを取り出し、アラームの設定を変えていた。
「ねー、エレナ」
「何でしょう!」
「いつ買い物行くの?」
「そうですねぇ……正午前には参りましょうか?」
手を挙げ、賛成する。出かけるまでの間、何もする事が無く暇になってしまう。なので、エレナにとある提案をする事にした。
「出かけるまで、お城の中探索してもいい?」
「はい!大丈夫ですよ。私もお供致しましょうか?」
「仕事の方はいいの?」
「大丈夫です!食器をお下げしたら、戻ってきますので」
一礼だけし、彼女は静かに部屋から出て行った。出掛けれるように、スクバから要らない教科書とノートを取り出した。スマホは…入れておこう。
(後はエレナが、戻ってくるの待つだけっと……)
待っている間、する事も無く教科書を意味もなくペラペラと捲っている。こんな時、スマホが使えないと退屈で仕方がない。早く戻ってきてくらないかと、願うばかり。
願いが通じたのか、ノック音が聞こえた。すぐさま私は立ち上がった。
「ヨミ様!さぁ、参りましょう!」
「行こーーっ!参ろーーー!」
元気よく彼女に返事をし、スクバを手に取り、エレナと一緒に部屋から出ていった。




