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第4話 スマホ


 部屋に案内し終えると二人は、何処かへ行ってしまい一人部屋に取り残された。突っ立ている訳にもいかず、いかにも高そうなソファへと腰を下ろし、ただボーッと一点を見つめていた。

 

 (女神に選ばれて召喚って…)


 ネット小説じゃねーーかよ!!あー…信じらんない。いや、夢じゃないってわかってるよ!!自分の事、自分でぶったんだから、嫌でもわかってるけれども!!!信じらんないんだけど!浄化しなきゃ帰れないって…いつ終わんの!?いつ帰れんの!?てか、浄化って何すんの!旅に出ろとか言われてるしさ!イケメン二人と旅するって聞いて、めちゃくちゃテンションは上がりましたよ!舞い上がりましたとも!だけど、わかんない事だらけで頭パンクしそう…!


 声には出さずに内心騒ぎ立てていると、ノック音が聞こえてくる。すぐには誰も来ないと思い、油断していた。慌てて返事をしたのはいいが、声が裏返てしまった。恥ずかしさで死にそうだ。扉の方に視線を向けると、ノアと呼ばれていた穏やかイケメンが戻ってきたのだ。


 「一人にさせちゃって、ごめんね。コレ、君に渡そうと思って持ってきたんだ」


 彼が持っていた物は私のスクバだった。無いとは思っていたが、召喚された時にでも道に置き去りにしてきたと思っていた。受けるとるのに、立ち上がろうとした時…


 「座ったままで大丈夫だよ。隣、失礼してもいいかな?」

 「…え?と、隣ですか?」

 「嫌かな?」


 首をかしげ、聞いてくるのだ。


 (首をかしげて" 嫌かな? "って…?良いに…決まってんだろうがよ…!いきなり過ぎて、驚いちまったんだ…!!クッッッソ!!イケメンに弱い私を殺す気なの!?)


 急いで返事をしなければ、彼は立ったままだ。平常心を装い、冷静に返事をする。


 「いっ、嫌じゃないです」

 「なら、よかった。隣、失礼するね」


 言い終えると彼は、私の隣に座ってきたのだ。何度も失礼…言わせてくれ。


 (イケメンさいっっっっこう!召喚してくれた女神ありがとう!わかんない事だらけだけど、今はどうでもいいわ!)


 心の中で思わずガッツポーズをする。


 「中の物が壊れてないといいんだけど…」


 イケボが近距離から聞こえ、我に返る。彼からスクバを手渡され、一応中身を確認すると何も壊れてはいなかった。

 そもそも壊れる物が、スマホとモバイルバッテリーくらいしか入っていない。この二つが壊れていても、異世界で使えるのかもわからないし、なんて事はない。試しにスマホを起動してみると…電源がついた。


 (……え?電源ついたんだけど…)


 ついたのは良いが、右上には圏外の文字が。あってもなくても意味が無いのには変わりはない。少し期待して損した。


 (いや…待てよ。圏外でも写真は撮れる…?イケメン達の写真を…??得しかねーな!)


 試しにカメラを起動してみると、画面にはレンズ越しの景色がバッチリ写っていた。問題なく、カメラは使える。


 (レンズも問題なし……最高!)


 心の中で二度目のガッツポーズをし、スマホを握りしめていると


 「大丈夫だった?」


 何も言わずにいたせいで、壊れてショックを受けていると思ったのか、隣で少し心配そうに、こちらを見ていた。

 

 「だっ、大丈夫でした!わざわざ持ってきてくれて、ありがとうございます!」

 「お礼なんて言わなくて大丈夫だよ。君の物を持ってきただけ何だからね」

 「ぐっっっ…ありがとうございますっ」

 「お礼、何かいいのに」


 目元を細め、優しく微笑む彼に私はもう釘付けだ。


 「あ、そうだ。まだ自己紹介してなかったよね。僕はノア。ここ、ネルヴァーノ王国の騎士団に所属しているんだ。」


 これは…黒髪のレオって人も騎士団だ。絶対、そうだ。誰でも分かる!分かってしまう!


 「レオって人も…?」

 「そうだよ。レオも騎士団。」


 もう…何か…ありがとうございます。感謝しか無いです。


 「君はヨミちゃんで合ってるかな?」

 「あっ、合ってます!」

 「よろしくね、ヨミちゃん」

「こちらこそ…!」


 それと無く自己紹介らしい自己紹介を終えると、沈黙が流れる。


 (沈黙が……気まずい!)


 沈黙が気まずくなり視線を下ろすとスマホは、まだ電源がついたままだった。ついていても意味は無いし、電源を落とした時。一瞬だけ、画面上に通知が表示された気がした。


 (……え?)


 気のせいかもしれないが…本当に通知がきたのかもしれない。期待に胸が高鳴る。もう一度、起動させようと手を伸ばした、その時…


 ぐぅぅぅぅ…!


 盛大に私のお腹が鳴った。


 (……おいおい!嘘だろ!?タイミング考えてくれない…!?)


 一瞬で顔が熱くなっていくのがわかる。恥ずかしさで固まっていると、隣からクスッと笑った声が聞こえた。


 (笑われちまったよ!!あーーー…もう穴があったら入りたいんだけど…!!)


 「…ごめんね。笑うつもりは無かったんだけど」


 笑った理由を教えてくれないせいで、余計に恥ずかしくなってしまう。ますます、私は顔を上げられずに固まっていると。


 「お腹、空いちゃったよね。この部屋に運んでくれるように頼んでくるよ」


 優しく落ち着いた声で言われ、私は恥ずかしがりながらも小さく頷いた。


 「じゃあ、後でまた顔を出すから」


 落ち着いた声だけを残して、彼は静かに立ち上がり、部屋から出て行った。扉が閉まる音と同時にソファに沈み込み、両手で顔を覆う。


 (……今年一の失態ですわ!もーーーう!私の腹!空気読めよ!あー…恥ずかしさで疲れるなんて人生初めての経験だよ……)


 だらしない体勢のまま、しばらく動けなかった。その間、頭の中では先程のシーンが駆け巡り悶絶していた。程なくして、軽いノック音が部屋に響いた。急いで姿勢を正し、ノアが入ってきた時と同じ失態をしないよう、咳払いをしてから返事をする。


 「どうぞっ!!」

 「失礼致します」


 控えめな声とともに扉が開き、数人の使用人らしき人達が食事を運んで入ってきた。ワゴンの上には高級レストランでしか見た事のない銀の蓋がのっかっていた。


 (……ここは高級レストランですか……?)


 呆気に取られている私を気にする様子も無く、窓際のテーブルへと向かい、流れる動作でテーブルクロスを整え、次々と料理を並べていく。銀の蓋が外される度、食欲をそそる香りが部屋に広がっていく。一通り並び終えると、使用人達は一礼をした。


 「ごゆっくり、お召し上がりください」


 その言葉だけを残し、静かに部屋から出て行ったのだ。


 「やばい…食べなくてもわかる。絶対、美味い!!」


 思わず声に出てしまった。誰も居ないのに、慌てて口を手で押さえてしまう。


 「いやいや…一人なのに何やってんの…」


 一人なのに口を押さえる意味なんて無いのに。自分自身にツッコミをいれ、ソファから立ち上がり、食事が並ばれたテーブルに近付くと、益々食欲をそそる匂いが強くなっていく。


 (確信しました。絶対、美味い。)


 豪華な椅子を恐る恐る引き、腰を下ろす。今までに無い豪華な食事を目に前にし、背筋が伸びる。


 「いただきます…」


 ナイフとフォークを手に取り、目の前にある、いかにもメインって感じのステーキを切り分け、口に運んだ。


 「っっっ!!……うっっっっまっ!!」


 私が食べてきたステーキは何だったのかと思う、レベルに美味しい。食レポで「口の中に入れた瞬間、溶けていく。歯なんかいらない」と言っている人達の意味が分かった。前の私なら「何、言ってんの?肉が溶けるわけねーよ!」と言っていただろう。今は違う。分かる、分かってしまった。


 (肉は!溶ける!!)


 夢中になってナイフとフォークを動かしていく。もう止まらない。止められない。


 「幸せすぎて、私が溶ける…」


 あっという間にステーキを平らげてしまった。次はスープ、その次はパン、その次は……気が付けば次々と口に運んでいた。全部が美味しくて、気が付けばペロリと平らげてしまっていた。


 「あ〜…お腹いっぱい…。しあわせ〜…」


 背もたれに体を預け、幸せでため息がこぼれた。胃も心も満たされた。


 (ご飯も美味しくて、イケメンも見れて幸せかよ〜…)


 口元も頬も緩みきってしまう。異世界召喚されたばかりで、分かっていない事だらけなのに、満たされている自分が怖いくらい不思議だ。


 (普通ならパニクって不安で仕方ないと思うのに……私、大丈夫ですかね…?いや、ご飯とイケメンの破壊力がエグすぎるだけなんだわ…)


 満腹でお腹をさすっていると、ふとスマホの事を思い出した。電源を落とした時に一瞬だけ見えた" 通知 "の事を。私のお腹のせいで、肝心な確認を出来ていなかった。


 (……確認するか)


 思い出すと気になって仕方なくなり、椅子から立ち上がる。ソファに置いたままのスマホへと足を進める。電源がついていない黒い画面には自分の顔が映り込んでいる。


 もう一度、電源ボタンに指をかけた───···


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