第1話 始まりは、いつだって突然
机の上には一枚の白紙プリント。四方八方から聞こえてくるのは、なんの迷いも躊躇いもなく、プリントに書き込んでいく音。仲のいい子達は話し合いながら、書き込んでいる。このクラスで私一人だけが、手付かずにプリントと、睨み合っていた。
(…夢も無くて、将来何したいのかもわからないのに、進路先何てわからんわからん。…と言って、就職したいのかも分かんないし…)
この授業中に提出しなければ、ならないのにも関わらず、名前だけが記入されたプリントと睨み合っている。私、一人だけが取り残された気分になってしまう。
どうしたものかと、腕を組んで考え込んでいると、「集めるぞ〜」と半ばやる気の無い声で担任が言い出したのだ。大きな溜息をつき、進路希望と印刷されただけの白紙プリントを提出したのだ。
案の定、そんなプリントを提出したせいで、担任からお呼び出しがかかってしまい、「まだ決まってないのか」と、呆れられながら言われてしまう。
「将来何なりたいとか、好きな物はないのか?」
(んーーー…夢は無いから…好きな物…私の、好きな物…)
腕を組み、考え込むが何一つ思いつかない。ここで「無いです」なんて言ってしまったら、後が恐ろしい。何とか頭をフル回転させると、一つだけ思い出した。私が大好きな物を。
「あっ!!好きな物あります!」
「おっ。何だ?」
「2次元のイケメン!!!」
声を大にし、ピースサインをしながら言うと担任は、大きな溜息をつきながら、呆れながら
「…馬鹿なのか、お前は」
と、一言。
(なっ、何だ。コイツは!私は真剣に考え、至って真剣に言ったつもりなんですがね!?)
ふざけたと思われてしまい、「もういい。今週中までに考えておけよ。ご両親とも相談しながらな」と、提出した進路希望のプリントを返されてしまったのだ。
帰りの道中 ⎯⎯⎯⋯ 一人腕を組みながら、進路について頭を悩ませていた。いくら考えても、何も思いつかないのだ。両親と相談しながら、と言われたが「夜海の行きたい所に進学するなり、就職しなさい」と、言われている。ありがたい言葉だが、何も思いつかない私にとっては、ありがたい言葉では無い。
「好きな事…やっぱり、イケメンなんだよな〜…」
独り言を呟いた瞬間───
変な光が視界に入り込んできた。最初は車のライトかと思ったが、走ってくる車など見つからないし、何の音も聞こえない。聞こえてくるのは、鳥の鳴き声だけだ。街灯のせいかと思ったが、それも違った。まだ16時過ぎの夕方で、明るい方だ。辺りを見渡してみるが、光を出す類のモノは見当たらない。
(まさか私が光ってるとか?んなわけ…)
そんな馬鹿な事があるかと、半笑いしながら自分の手を見ると、そのまさかだった。私の身体が光っていた。
「え…?え!?何コレ何コレ!!何かの病気ですか!?」
身体がいきなり光り始める病気なんて、ある筈ないのはわかっている。だが、頭が混乱し、馬鹿な事を口走ってしまう。どうしよどうしよ!!と、歩道の真ん中で1人慌てていると、最初は光っていただけなのに、今は光が私を包み込むように広がっていく。
最終的に私は、謎の光に包まれてしまったのだ。包み込まれると、あまりの眩しさに固く目を閉じた。
すると、知らない声が頭に響いてくる。
「…ほ…て」
途切れ途切れの言葉だけが頭の中に響き、私は意識を失ってしまった。
◇ ◇ ◇
「…ぃ。おい。起きろ」
「…んあ?」
知らない男性の声が聞こえてきた。目を覚ますのと、同時に間抜けな声が出てしまった。半開きの目を無理やりに開けると、黒髪イケメンが私の事を見下ろし、立っていた。
彼の容姿に驚きと衝撃で、いつの間にか倒れ込んでしまっていたのか、わからない体を無理やり起き上がらせた。
「〜〜〜っっ!?」
あまりにも彼の顔が整いすぎて、言葉にならない声が出てしまう。今まで出会った事がない、整いすぎている顔、黒髪イケメン。切れ長の目、鼻筋が通って、唇は薄く、小顔で輪郭がスッキリしている。まさに、二次元から飛び出してきたイケメンだ。
(それに…足、なっっっが!!どうなってんの?!)
言葉にならない声を出した挙句、彼を凝視していると、切れ長の目が細められる。
「あまりジロジロ見ないでくれないか」
(声も低音ボイス!!テンプレなクール系黒髪イケメンじゃねーーーかよ!!)
漫画やアニメでしか見た事がないテンプレイケメンが目の前にいるのだ。この事が、衝撃的すぎて私の頭はショート寸前だ。夢なのか現実なのかも、わからないのにだ。
…この際、イケメンが私の目の前に居る事が夢でも現実でも、どちらでもいい!!!イケメンが!!私の!!目の前に!!いるのだから!!!
「…百面相しているが大丈夫か?」
「だっ、大丈夫です!」
「大丈夫ならいいが。…怪我はないか」
「怪我…?大丈夫だと思いますが…」
怪我の有無を聞かれ、自分の体を見てみるが何ともない。傷なんて1つも無い。「大丈夫そうです」と彼に伝えようとしたが、その言葉は喉につっかえて出てこなかった。彼の顔しか見ていなかったせいで、周りをよく見ていなかったからだ。
その1.アスファルトの上を歩いていたはずなのに、今、立っているのは白い大理石の上。
その2.外にいた筈なのに何故か知らない建物内にいる。
(いや、あの…ここ何処ですかね!?!?!?!!)
イケメンに浮かれていたせいで、初めて私が置かれている状況を確認出来た。
(ここマジで何処ですか?!学校帰りに光に包まれて…変な声?が頭に響いて…次に起きろって声が聞こえて目覚ましたらイケメンが私の事を見下ろしてて…!!いやいや!!わからん!!夢!?夢なんですかね!?夢でも現実でも、どっちでもいいと思ったけれども!!それはイケメン限定なんですよーー!!)
考えても考えても混乱してしまい、訳が分からない。確かめる為に私は古典的な方法を試す事にした。思いっきり、自分の頬を平手打ちした。すると、どうだろうか。
(めっちゃくちゃ…ほっぺが痛い!!!!)
いきなり自分を自分で平手打ちをした私に、驚いた彼(クール黒髪イケメン)が声をかけてきた。
「……本当に大丈夫なのか?」
「いや…これは夢なのか確かめる為にですね…」
「夢じゃない。現実だ。」
力加減をしなかったせいで、ジンジンと痛む頬。真剣な眼差しで現実だと言われ、信じたくなくても、ここは正真正銘の現実なんだと思い知らされてしまった。
私、一ノ瀬 夜海(18歳)の、これから始まる物語の最初の出来事だった。




