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決められない男

紅蓮軍は勝った。

――はずだった。

「勝利だ、撤退命令は出ていない!」

誰かが叫んでいた気がする。

けれどその声は、途中で途切れた。

聖魔断絶。

精霊力も魔力も、まとめて“無効化”する空白が、

紅蓮軍と魔道士連盟の間に突然、現れた。

前に進めない。

勝っているのに、終われない。

その最前線で、バッツは赤子を抱いて立ち尽くしていた。

「あーあ……」

昔は紅かった髪は、もう八割が白い。

老けたわけじゃない。

ただ、代償を払いすぎただけだ。

腕の中の赤子は静かだった。

泣きもせず、世界を見ている。

「……これが、俺たちの“勝ち”かよ」

精霊も神も、答えなかった。


それより少し前――

いや、全部の始まりの夜。

街が、消えた。

爆発とかじゃない。

音も光も、途中までは確かにあったのに、

最後は「なかったこと」になった。

七つの精霊光と、一つの魔力。

重なった瞬間、世界は耐えきれなかった。

俺――ホムは、立っていた。

いや、立たされていた。

腕の中には、赤子。

名前は……カオル。

ルフィーナは死んだ。

精霊と悪魔、両方を研究していた女だ。

禁忌だと分かっていて、踏み込んで、

そして答えに触れる前に、いなくなった。

「……最悪だ」

その瞬間、髪が変わった。

前髪のワインレッドだけ残して、

他は一気に白くなる。

精霊の声が、聞こえない。

悪魔の囁きも、神の気配もない。

完全な沈黙。

それと同時に、寒気が来た。

風でも魔力でもない。

“存在そのもの”が冷える感覚。

俺は赤子を見下ろす。

泣かない。

小さいのに、やけに落ち着いている。

「……危険すぎだろ、これ」

正直な判断だった。

七精霊と魔力を喰って、

世界のルールを一回ぶっ壊した存在。

ここに落とす。

精霊も神も触れない、クレーターの底に。

それが、正解だ。

……だったはずなのに。

赤子の目が開いた。

泣かない。

ただ、じっと俺を見る。

未来も、世界も、全部分かってるみたいな目で。

「……くそ」

喉が痛い。

「自分じゃ決められない……っく!

 俺はいつも肝心なとこで、

 決められない答えを出せない!!」

情けない。

分かってる。

でも――

「生きてる俺も……この子も、生きてるんだ!!」

沈黙の空間が、きしっと音を立てた気がした。

俺は一歩、下がる。

「世界よ」

誰に言ってるかなんて、分からない。

「この先、何が起きても――」

赤子を、強く抱きしめる。

「全部、俺を恨め!」

それは祈りじゃない。

ただの開き直りだ。

その瞬間、世界が一歩、引いた。


引いたツケは、すぐに来た。

紅蓮軍前線。

精霊部隊が――弾け飛んだ。

音なし。

悲鳴なし。

八割、消失。

「あ……?」

残った連中は分かっていた。

敵じゃない。

世界に拒否された。

「後退! 第二線!!」

エンカの声が響く。

彼の部隊は早かった。

違和感を感じた瞬間、もう逃げていた。

精霊、使うな。

魔導、切れ。

結果、エンカ隊は生き残る。

「精霊反応……ゼロです」

「違う。反応しないんだ」

シグレは歯を噛む。

「……戦争じゃないな、これ」


紅蓮軍本営。

観測室で、シグレは笑っていた。

「やっぱりさ、精霊と悪魔の研究なんて

 野蛮で禁忌だったんだよ。ルフィーナ」

彼は知っている。

器じゃない。

穴だ。

《第八位相・空白胎児》

「ホム、選んだね」

窓の向こう、空白の戦場を見る。

「もう戻れないよ。

 誰も」


こうして、世界は決まった。

勝ったのに終わらない戦争。

白髪になった男

沈黙した精霊と神。

そして――

何も知らない顔で、世界を見つめる赤子。

世界はこれから、

この存在のせいで、何度も壊れる。

でも最初に壊したのは――

間違いなく、人間だった。


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