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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

"Advance"

「君に頼みが有る」


ベッドに横たわった助手の顔は、外で降る雪よりも白い



家の暖炉は彼を暖めてあげるには余りにも冷た過ぎ、握った彼の手は少しずつ冷たくなり始めて居た

私は死に往く助手を視る事がつらくなり、涙を浮かべて彼から視線を逸らした


視線の先には色とりどりの肉や骨、生物の構造器官などが足の踏み場も無く散乱して居る


僕たち二人の、研究の題材だった




「私が死んだら、私を使って欲しい」


『助手』とは言ったが、我の強い僕が先を歩いただけの事で、彼は分野によっては僕を凌ぐものすら持つ同格の研究者だ

彼は歳こそ近いが本当は僕の助手であり、親であり、師であり………


僕の恋人だった



「君の夢と共に、私は生きていたいんだ」


「私を生き続けさせてくれ」



握った手が冷たくなっていく


『行かないでくれ』と僕は心の中で泣き叫んだが、倒れたコップから流れていく水のように、彼の生命が戻る事は無かった



─────



「ここには何が保管されているのですか」


抑揚の無い声で小さな躰が僕に尋ねる

一号実験躰は結合の完全でない幼い四肢で、金属製の箱をふらふらと指差した


大人の背丈程も有る、堅牢そうな保管庫だ

事実として、一国が攻め入ったとしてもこの箱だけは破壊出来ない様に僕が設計した


当然、相応に必要なものが保管されている



「我々の最終目的だ」


僕がダイヤルを回して保管庫の二重鍵を開く


中には大きな透明の筒が一つ

筒の内側では、淡い碧色の溶液に浸かった少年の躰が浮かんで居る


それを視て僕が涙ぐんだのに気付くと、実験躰は表情の無い顔で不思議そうに首を傾げた



「最終的に君の施術によって、僕はこの躰に自分の脳を埋め込みたいと思っている」


「無理です」


短い一言の為か、実験躰の言葉は珍しく発音が良く断固として聞こえた



「無理じゃない………!」


実験躰の前髪を掴んで持ち上げる

爪先立ちになってよろけながらも、彼は落ち着いた様子で「無理です」と繰り返す

僕は彼を床に放り捨てると、その意志の無い瞳を上から覗きんだ


実験躰は仰向けで起きようともせず、僕を視詰めて居た



「お前が無理でもその次に作った実験躰か、更にその次に作った実験躰にやって貰う……」


「試算したところ現段階の技術力からするに、完成より先に貴方の寿命が終了します」



僕は拳を握ると、実験躰に馬乗りになり──



──そこで、思った



「だとすれば……」


研究室の黒板に思考を整理しながら、僕は床の色々なものを踏むのも構わず歩き続けて考える

65,534歩の段階で、気付きが得られた



「今から僕を実験躰に改造する」


「そうすれば、寿命を考慮する必要が無くなるよな?」



実験躰は相変わらず床に倒れたまま「その変更が行われた場合、数万年後には目的を達成する事が可能になる計算です」と告げた


僕は早速、自分の躰に部分麻酔の注射を突き刺した

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