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無知蒙昧のリスターター、なろう系仲間と異世界を攻略する  作者: パスタ


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5/5

伝説のマッチョ、日陰で再び爆誕する

 まだ日も高いはずの世界で、俺の視界は思いもよらない暗闇が隅々まで行き交っていた。


 あらゆるファンタジーを散りばめた光景は、言うなれば俺をゲームにブチ込んだみたいな感覚に浸らしてくれるモンだったが…

 今の状況はどっちかといえば、理屈やデータを一切跳ね返して暴れ回るほうのファンタジーが脳みそを荒らしてる。


 光がない訳じゃないんだ。

 瞼を閉じたってことでもなく。

 ただただ、この先を一切見通せない。


「………」


 そんな使い物にならねぇ視界を放置して、この沈黙を破れる度胸だって持ち合わせていない。

 いやあの、マジで何が………


「意外だね」


 ───静かだったが、疑う余地もなく沈黙を突き破る声が路地裏に通る。

 プライムの、どこか不安定で浮いた声だった。


「死に損なった年月が君を大人にした?

それとも、腕の振り方すら思い出せない?」


 瞬間的に悟ったことは、疎外感。

 ただそれは本能だけが辿り着けた刹那の仮説でしかない。理性の上ではクエスチョンマークで組み立てたトランプタワーが大気圏まで積み上がるかどうかというところまで来ている。


 えなんでこいついきなり煽っちゃってんの勝てる相手ってこと?さっき追っ払った人間力虫ケラズみたいにあの強靭無敵最強筋肉だって退治できるんだぞってことでって信じていいんすかプライムさん!?


「あんなんでもあたしは生きてたんだ、

この通りぶつける準備もできてるよ」


 人間が3人横並びになってもちょっと狭いかな程度の広い路地で、しかし脈打つプレッシャーの化身たる女は、たったひとりなのに窮屈そうに、右腕を回してみせた。


 ………と、いうか…

 なんでプライムは、あの不審者女と面識があるように話しているんだ…?


「ただ───今のお前は、違う」

「…どこが?」


 一方的に知っているでもなく、互いが言葉以上の何かを交わした間柄みたいに見える。

 プライム、お前もしかして突然光の中から現れる不審者とツテができるような人生を送ってきた系マジシャンなのか?


「日夜殺り合ってたあの頃のお前なら、

あたし相手に片腕を空ける余裕なんざ…

まして、誰かを守るために使ったりしない」


 やり合ってた?あの頃?


「1人だったからね。

たまたま今、1人じゃないだけだ」

「………そうなれた今のお前を、

殴り殺す理由はあたしにゃないのさ」


 飛び出した言葉の形は鋭利な刃物そのもの。

 しかし、そんな刃を振り回すでもなく…得物に映る相手を見定めた言い方に聞こえた。


「嬉しいよ」


 …俺の中にある緊張を、プツリと切れそうな糸だなんて言い表すにはまだまだ太すぎる。


 静観に徹した身体は活路を見出だせず、しかし優しく崩れたあの声色と表情を拾い上げた脳みそがつられて、肩の力を抜くよう脊椎に指示を飛ばしていた。


 この空気には本物の敵意、まして殺意など少したりとも含まれちゃいない。

 理屈を抜きに考えてしまうのは危ういと分かっていても───信じたいと、思う。


「ご、ごほん!」

「「?」」

「俺が入る余地、あったりするか?」


 同窓会やってる部屋に間違って入っちまった的な場違い感は避けられないと覚悟の上で、お二方のキャッチボールに参加表明。

 自己紹介すら済ましてない間柄、足のつま先までアウェーびっしりたっぷりな俺が主張を強めるには声を上げていくしかないんだ。


「あぁ、命の恩人だってのに

放ったらかしてべらべらと悪かったね!」

「ん???」


 ん?


「…なぁプライム、いまあの人なんて?

命の恩人とか言ってたか?」

「言ったね」


 はて?

 間違ってませんか?


「何も間違っちゃいないよ。

あんたはあたしの、命の恩人さ」

「いや間違ってます、俺が関わった人の中に

究極の肉体美を兼ね備えた美女はいません」


 風が吹いたら桶屋が儲かるかもしれないとして、俺は呼吸をしてるだけでマッチョを瀕死の危機から救えるほど影響力がバカデカい存在のはずがないんだが?????


「あっはっは!!いや嬉しいねぇ!

何年経とうがあたしゃまだ『力の戦乙女』に

相応しくいられるのか…!」


 力の戦乙女。『力の戦乙女』。

 ………………なんか、それ、さっき、聞かなかったか?本当にさっき、ついさっき。


 『歴史に刻まれた伝説の』

 『遥か太古の英雄』




 『遺骸の一部──────』




「ちか…ち、え??」


 開いた口が上手く動かせない。

 脳裏に浮かび上がる奇怪なパズルの完成形は、いっそイチからやり直したほうがいいんじゃないかと後悔すらさせるもの…


 迷宮入り級の謎が色濃く滲む底無し沼で、いよいよ溺れ死にそうな俺の知能。

 血迷いに血迷って血圧が危険な状態まで行き着いた末に導き出されてしまった結論はきっとさすがにいくらなんでもギャグにもならない大不正解だと思っているが、いるが─


「俺の薬で生き返った〜…とか、

いやそんなわけ「「その通り」」


 二重の、答え合わせだった。


「????????????????」

「『治癒術師の秘薬』、ただのひとつしか

この世に存在しない再生の超薬。

君が持っていた薬は、彼女に使われたんだ」

「?????????????????????????????????????????????」

「魂と頭だけのあたしを元通りにできるのは、

とっくに使われてても不思議じゃなかった

あの薬だけ。まさか実在したとはねぇ」


 すみません、よく分かりません。


 …投げ出してしまったら検索エンジンと違って次のチャンスがあるんだか分かったもんじゃないので、考えるのをやめることはしない。


 事実を並べれば───裏路地にたまたま転がっていた頭と遭遇した俺たちは、たまたま持ち込んでいた蘇生薬をたまたま与えてしまった結果が今ということ───


 すみません、よく分かりません。


「あなた達には悪いんだが、

俺の思考は現状を解析できるスペッ…

じゃなくてなんだ、あー要は脳みそが足りない」

「あたしだってこんなの分かりゃしないよ、

お互い馬鹿らしい偶然に見舞われたもんさ」


 笑い抜きでそうはならんやろ…と言いたくなるパターンは初めてすぎる。まさか俺に想定できる想定外の範囲など赤子の語彙くらい矮小だったと反省するしかないのか?


「セーブ」


 ふと、こっちに声をかけるプライム。

 ………さっきまでは気付かなかったが、もうプライムの声には平常心か何か、大人しく凪いだ草原かのような落ち着きが戻っていた。


 あの沈黙を破る時は…


「僕はこの状況、君に預けるよ」「へっ」


 この状況を俺に預ける!!?

 返すのウン十年後になるぞっじゃなくて─


「あたしも合わせるとするかね」「!?」

「悪事を働く野郎だったら命の恩人だろうと

ぶっ飛ばすけど、あんたは打算もへったくれも

無さそうなやつだから信じることにした」


 声こそ出ないが表情筋は制御不能。一番なにもかもを持たざる者な俺にこんな仕打ち、まるで大乱闘しながらトレーナーの仕事をしろとでも振られてるみてぇだ…

 俺はもうやばいと思う。


「えぇ、じ、じゃ、何…」


 なっさけないキョドり、さらに数秒の硬直という追い打ちを挟んでなお『どーすんの』的な視線が2人分、しかも生温い目で包むように俺を見てくる。


「………………あっ自己紹介してないなぁ!

俺あなた様の名前とか知らないっすねうん!

俺はセーブって名乗ってる人間です、

記憶喪失のところをこいつに助けられました」


 キッ………(『セーブされました』)

 うるせぇ!!

 冷たい自分を殴り、熱い自分を吐き出した後はプライムへキラーパス。


「ほらお前も、流れでいけ…!!」


 小狡く抑えた声で無理やり土俵に上げ、『俺もやったんだからさ』パワーを込めた腕で、真っ白い背中をバンバン叩く。


「必要なのかな…僕はプライム。

彼の道中に付き添うしがない人間、

そんなところか。そうしたら、次は」

「あたしの番だね?」


 まったく経ってもいないはずの時間は、冬明けの雪解けを待つみたく永遠に思えたがようやく。ようやく、少しでも素性を教えてもらえるターンが巡ってきた。


「あたしゃレイズってんだ!

遠慮なく名前で呼んでくれ、様付けなんか

こそばゆくてしょうがないからねぇ」


 レイズ。

 この世界にやってきて3人目の、知らなかった人間の名前。


「腕っぷしだけで食ってきたから、

力じゃ誰にも負けないつもりだが…

術の出来はからっきし!そこは勘弁さね」


 『力の戦乙女』なんて仰々しい名前に負けず劣らず、気持ちいいぐらいパワーキャラそのもの。

 歴戦の戦士ってやつなんだろう、きっと背中に引っ込めば岩盤より硬い…シェルターすら鼻で笑える最強の壁になりそうだ。


「これでいいのかい?」

「…あ、あぁ、ありがとう、レイズ?」


 自分で言っててとんでもない違和感に包まれ、疑問形の形になってしまう。あの肉体を呼び捨てとか筋肉不敬罪でデッドリフト120キロ懲役30回の罰が課せられるだろ…


「………」

「「………」」


 ………すっっっっっげぇ沈黙。

 こんな手持ち無沙汰マンに展開の手綱を握らせてんじゃねー!!と目配りしたところでマジシャンもマッチョも決して待ちの姿勢を崩す素振りは見せてくれない。

 なんでだよ………


「とりあえずだ、とりあえず…

こんなことになったのも偶然で、

俺とプライムは急ぎの用事があるから」


 本命はマッチョ探しではなく落とし物探し。

 知らぬ存ぜぬのうちに黄泉返りか何かを果たした一方、ジョンさんの危機を取り除く一手は何も打てていないのだ。


「用事?なんだいそりゃ」

「大事なものが入った小箱を───」


 記憶のタンスから引き出した言葉を、全てなぞることは叶わなかった。


 不意に鳴る轟音に引き裂かれて。

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