1プロローグ
目を開けた瞬間、そこは白い霧に包まれた世界だった。
「……え?」
バスに乗っていたはずだ。進路相談の帰り道、居眠りしていたのを覚えている。そのはずだった。だけど、次の記憶は、鈍い衝撃と浮遊感。そして、今。
瑞希は立ち上がる。制服はそのままだが、風の匂いも空の色も、すべてが“異質”だった。
「ようこそ、転生者よ」
現れたのは、空中に浮かぶ銀髪の少女。年の頃は瑞希とそう変わらない。でも、その背後には羽でも翼でもない、“記憶の欠片”のような何かがひらひらと舞っていた。
「あなたの魂は選ばれた。新たな世界で、“魔女”として生きなさい」
* * *
数日後。瑞希は「魔力ゼロ」の判定を受け、盛大に“落ちこぼれ”の烙印を押された。
王国最難関と言われる、王立グランテア魔術院の入学式。壇上の水晶球が、瑞希の手に触れた瞬間、光は一切灯らなかった。
会場がざわつく。「ゼロ!?」「まさか転生者なのに?」「あれが“外れ個体”か」
瑞希の耳に、貴族たちの冷笑が突き刺さる。
「転生者だと思って期待したのに、魔力量ゼロ? お笑い種ね」
その瞬間、全身を包んだのは“冷たい排除”。まるで、世界に否定されたような感覚だった。
だが、瑞希は知らなかった。自分が送られることになる「追放先」こそが、世界の禁忌に繋がる扉であることを――。
* * *
「――ここが、“ヴァルフェリア魔女学園”?」
錆びた鉄門。ねじれた塔。空を舞うカラスと、黒い薔薇の香り。全寮制のこの学園は、いわく“問題児と魔女の落伍者”を集めた辺境の島に存在していた。
そして、校門に立つその瞬間。瑞希の中に、誰かの声が響いた。
《……よく来たな、“私”》
次の瞬間、胸の奥が灼けるように熱くなり、目の前に**紫黒の魔紋**が浮かび上がった。
空間がゆがむ。感情が暴走する。
「なに、これ……わたし、泣いてる? ……どうして……」
湧き上がるのは、言葉にならない孤独。拒絶され、否定され、それでも「生きていたい」と叫んだ気持ち。
《その涙は、“エッセンス”だ。私と契約を結べ。お前の中には、世界を滅ぼした魔女の“欠片”が眠っている》
瑞希の手が自然と動く。――制服のポケットにあった、小さな鏡を取り出す。
それは亡き母の形見だった。彼女がかつて言っていた。
「鏡はね、感情を閉じ込める道具なの。嬉しかったとき、寂しかったとき、ちゃんと映して覚えていてくれる」
それは瑞希にとって最も強い“象徴”だった。
次の瞬間、空が裂け、紫電の奔流が学園を貫いた。
新たな魔女が誕生した。感情を制御し、象徴を刻み、魔紋を起動させた――それは、エッセンス・コードの覚醒だった。
この日、ヴァルフェリア魔女学園の教師たちは、こう記録に残した。
>「魔力ゼロ? ふざけるな。
> ――あの子のエモーションは、規格外だ」
そして、瑞希のハーレム(?)と、成り上がりの物語が、静かに幕を開ける。