その手は、もう離さない ~シンデレラ・リバース:硝子の靴はメンズサイズで~
BL版シンデレラです。文章や挿絵にChatGPTを使用しています。
【まだ解かれぬ耽美】
義姉たちの笑い声が、石造りの屋敷に響いていた。
夜になると、いつもよりひときわ甲高くなる。
それは、『シンデリオ』にとっては耳障り以上の意味を持っていた。
彼女たちが浮かれている時、決まってそのツケは彼の労働として回ってくる。
「シンデリオ、まだドレスにアイロンかけ終わってないの?」
「さっさとしてよね。王子様の舞踏会なんだから!」
「は、はい……すぐに」
従順に答えたものの、心の内では小さくため息をついていた。
舞踏会。
それはこの国の誰もが憧れる、一夜限りの夢。
けれどシンデリオにとっては、まるで別世界の出来事だった。
(僕には、関係ないことだ)
生まれてこの方、目立つことも、愛されることも知らずに生きてきた。
義姉たちの中でただ一人の男であることも、彼にとっては孤独の象徴だった。
家事をこなすことだけが、自分に許された役割。
それ以上を望むことなど、考えたこともなかった。
「行ってくるわよ!」
「王子様を射止めるのは、私たちのどっちかよね!」
ドレスアップした義姉たちは、馬車の音と共に夜の闇へ消えていった。
静まり返った屋敷に残されたのは、燃え尽きた暖炉と、すすけたエプロン姿のシンデリオだけだった。
彼はそっと窓の外を見上げた。
満天の星が、どこまでも自由に瞬いている。
その光すら、自分には届かないように思えた。
(……行けたら、どんな気持ちになるんだろう)
ふと、心の奥底にしまい込んでいた願いが顔を出す。
そんな自分に、彼は自嘲気味に笑った。
「馬鹿みたいだ……僕が、王子の前に立てるわけないのに」
その時だった。
どこからともなく、柔らかな光が部屋を満たした。
「……え?」
驚きの声を上げる間もなく、シンデリオの前にひとりの人物が現れた。
それは、豪奢なローブに身を包んだ妙齢の男性――いや、どこかオネエじみた優雅さを漂わせるガブリエルという名の魔法使いだった。
「諦め顔ね、坊やさん」
気さくに微笑んだ彼は、シンデリオの手を取ると、そっと囁いた。
「男だから? そんなの、何の言い訳にもならないわよ。愛も夢も、望んだ者が掴むもの。さあ、行きなさい。今夜は、誰よりも輝く君のためにあるのだから」
そう言うと、ガブリエルは魔法の杖をひと振りした。
瞬く間に、埃まみれのエプロンと古びた服は真っ白なタキシードへと変わる。
乱れた髪は柔らかく整えられ、足元には透明な硝子のローファーがきらめいた。
シンデリオは、あまりの変貌に息を呑んだ。
「こ、これが……僕……?」
鏡の中にいるのは、見慣れたはずの自分ではなかった。
けれど、その顔は確かに、どこか儚げで、そして美しかった。
「……でも、僕は男で――」
言いかけた彼に、ガブリエルは軽くウインクをした。
「関係ないわ。誰が君をどう思うかじゃない。君がどう在るかよ」
その言葉は、不思議と胸に染み込んだ。
「……行ってらっしゃい。魔法は、12時までよ」
シンデリオは、まだ迷いを残しながらも、静かに頷いた。
そして、ガブリエルに背を押されるように、彼は王宮へと歩き出した。
その胸に、まだ知らぬ運命との出会いが待っているとも知らずに――。
【舞踏会】
王宮の舞踏会は、まるで夢そのものだった。
煌びやかなシャンデリアが光を撒き散らし、貴族たちは優雅に笑い合う。
音楽は途切れることなく流れ続ける。
シンデリオは、その眩しさに一歩だけ足を止めた。
(……本当に、僕なんかが来ていい場所なのかな)
タキシードに身を包んだ自分は、場違いではない。
けれど、心まではすぐに馴染めなかった。
少し俯きがちに、誰にも見つからないように隅へと向かおうとした――その時だった。
「……君、誰だ?」
不意にかけられた低く静かな声に、シンデリオの肩が跳ねた。
顔を上げれば、そこにはレオン王子がいた。
金色の髪、鋭さと優しさを併せ持つ瞳、堂々たる立ち姿。
絵画から抜け出したようなその存在に、シンデリオは言葉を失った。
「……あの、僕は……」
戸惑いながら名を名乗ると、レオンは僅かに目を細めた。
「シンデリオ、か。……良い名前だ」
その声音は妙に柔らかく、まるで初対面の相手とは思えないほど親しげだった。
「君と踊ろう」
「え……?」
「俺は今夜、退屈していたんだ。けど、君を見て……興味が湧いた」
興味。
その言葉の意味を考える暇もなく、王子の手が自然にシンデリオの手を取った。
(なぜ……? 僕は、ただの男なのに)
困惑と共に、彼の胸は不思議な鼓動を刻み始めていた。
それは否応なく、心地よくも怖かった。
音楽が変わり、二人はダンスの輪の中へと吸い込まれていく。
レオンの手は確かで、導く動きに迷いはなかった。
「意外と慣れてるな」
「え……いえ……家で少しだけ、義姉たちの練習相手をしていたので……」
答えたシンデリオに、レオンはくすりと笑う。
「それだけで、これだけ美しいステップを踏めるとはね。君は謙虚すぎる」
誉められ慣れていないシンデリオの耳は、ほんのりと赤く染まった。
それに気づいたのか、レオンの指が、軽く彼の背を撫でる。
「……君は男だけど、そんなこと関係ない」
「……!」
あまりにも真っ直ぐな言葉に、シンデリオは思わず目を見開いた。
レオンの瞳は嘘偽りなく、ただただ彼だけを映している。
「俺は、自分の心に正直だからな。君が男だろうが女だろうが……美しいものは美しい。それだけだ」
その言葉に、シンデリオの心はどうしようもなく揺れた。
(僕を……“美しい”って……)
今まで誰からも向けられたことのない評価だった。
自分では気づけなかった“何か”を、目の前の王子だけが見ているようだった。
戸惑いと、僅かな高揚。
それらが入り混じったまま、シンデリオは気がつけば王子の導きに身を任せていた。
彼の手はあたたかく、決して離そうとはしなかった。
(どうして、こんなにも……)
自分でも理解できない感情が、胸の奥にじわじわと広がっていく。
だが、その答えを見つけるより早く、夜は無情にも進んでいく。
時計の針は――もうすぐ12時を告げようとしていた。
【逃げる理由、引き止める理由】
ダンスホールの熱気が少しずつ和らぎ、音楽は緩やかに終わりを告げようとしていた。
だが、シンデリオの胸の中は、むしろ逆にざわめきを増していた。
(……おかしい。どうしてこんなに、胸が苦しいんだ)
レオン王子は優しかった。
誰よりも自然で、誰よりも真剣だった。
「君ともっと話したい」
「もっと君のことを知りたい」
そう言われるたび、シンデリオの中の何かは甘く震えた。
けれど――
ゴーン……。
突然、ホールの隅に設置された大時計が、低く、重く響いた。
(――12時だ)
その音は、魔法の終わりを告げる鐘。
シンデリオの心は、一瞬で冷水を浴びせられたように凍りついた。
(僕は……こんな場所にいてはいけない)
夢のような時間は、所詮魔法が生んだ偽りだ。
レオン王子と並んで踊る資格など、自分には最初からなかったはずなのに。
だというのに――
「シンデリオ?」
王子の手が、シンデリオの手を軽く握った。
逃げる理由も、名残惜しさも、すべて見透かしたような眼差し。
「まだ、帰らないだろ?」
レオンの声は低く、優しく、そして引き止める力を帯びていた。
だがそれは、シンデリオの背中をむしろ押してしまった。
「……すみません!」
短く謝罪すると、シンデリオは手を振りほどき、踵を返した。
「待て、シンデリオ!!」
呼び止める声が響く。
しかし、シンデリオは振り返らなかった。
魔法が解け、自分がただの"家事係"である現実に戻る前に、せめて王子の記憶の中だけは"美しい存在"のままでいたかった。
(お願いだから、今の僕を見送って)
必死に走り出したシンデリオの足元で、硝子のローファーが片方、すっと脱げ落ちた。
だが、彼は拾う暇すら惜しむようにそのまま走り続ける。
背後からは、追ってくる王子の足音が聞こえた。
けれど、ほんの少しだけ、その音が遠ざかっていくのを感じた。
(これで……いい。これで――)
彼は、涙をこらえるようにぎゅっと唇を噛みしめ、闇の中へと消えていった。
残されたのは、煌めく硝子のローファー。
それを拾い上げたレオン王子は、静かにその場に立ち尽くした。
彼の手の中の靴は冷たく、それでいて、確かな温もりの名残を伝えていた。
「……逃げられた、か」
ぽつりと呟く声に、僅かに滲む悔しさと寂しさ。
けれど、レオンの瞳はすぐに強く光を取り戻す。
「……なら、必ず探し出す」
それは、単なる所有欲ではなかった。
この夜、たった一人自分の心を揺らした存在。
男であろうと関係なく、ただの“シンデリオ”という人物を求める純粋な意志だった。
王子の手の中で、硝子のローファーは静かに輝きを増していた。
――まだ、この物語は終わらない。
【硝子の靴が繋ぐもの】
夜が明け、王宮は少しざわめいていた。
昨夜の舞踏会で忽然と消えた美しき青年。
王子レオンの目を奪い、心を奪い、そして何も告げずに去った存在――シンデリオ。
レオンはその硝子のローファーをじっと見つめながら、静かに言った。
「この靴に合う者を、国中探せ。性別も立場も関係ない。男でも女でも構わない。……俺は、あの夜の“あいつ”を探し出す」
その宣言は、瞬く間に国中へと広まった。
誰もが噂し、そして興味本位で王子の捜索に協力した。
だが、誰の足にも硝子のローファーは合わなかった。
シンデリオの家にも、ついに王子の一団が訪れた。
義姉たちは我先にと名乗りを上げたが、試すまでもなく靴は合わなかった。
最後に、誰も気にも留めなかったシンデリオの番が回ってきた。
「君も履いてみてくれ」
レオン王子本人が、穏やかに、しかし決して拒否を許さない声でそう言った。
シンデリオは戸惑いながらも、差し出された靴に足を通す。
それは、まるで最初から彼のために作られたかのように、ぴたりと収まった。
その瞬間、王子の顔に浮かんだのは――
勝ち誇った笑みでもなく、驚きでもなく、ただ心からの安堵と喜びだった。
「やっぱり、君だったんだ」
シンデリオは言葉を失った。
(どうして……こんな僕を)
彼は無意識に後ずさろうとしたが、レオンはそっと手を伸ばし、彼の手を優しく包み込んだ。
「逃げないでくれ。……今度は、ちゃんと君の意思を聞かせてほしい」
「……僕は……男、ですよ」
絞り出すように、シンデリオは言った。
それは彼の最後の抵抗だった。
けれど、レオンはその言葉に微笑すら浮かべた。
「知ってる。だからどうした?」
あまりにも自然なその返答に、シンデリオは息を呑んだ。
レオンはゆっくりと言葉を続ける。
「男だとか女だとか、そういうのは関係ない。俺は、あの夜の君――誰よりも真っ直ぐで、儚げで、けれど美しかった君を、愛おしいと思ったんだ」
淡々と、しかし一つひとつが重く真剣だった。
嘘や冗談ではないと、シンデリオにはすぐにわかった。
(この人は、本気で……)
心の奥にしまっていた感情が、静かに解けていく。
誰にも必要とされないと思っていた自分。
ただ家事だけをこなす存在だった自分。
そんな自分を、王子はまっすぐ見つめて「欲しい」と言ってくれている。
それはシンデリオにとって、想像もしなかった救いだった。
彼は、そっと目を伏せた。
「……こんな僕でも、いいんですか」
「君じゃなきゃ、ダメだ」
レオンはためらいなくそう言い切った。
その言葉に、シンデリオの瞳から、気づけば涙がひと粒こぼれ落ちていた。
「……はい」
静かに、けれど確かに告げたその一言は、
王子にとって何よりの返事だった。
レオンは嬉しそうに微笑むと、シンデリオを優しく抱き寄せた。
【エピローグ】
こうして、硝子の靴が導いた出会いは、確かな結びつきとなった。
シンデリオは王子の隣で、もう誰からも役割を押し付けられることのない、ただの"愛される存在"となった。
「逃げられたと思ったが……今度は絶対に離さない」
「……僕も、もう逃げません」
そう囁き合う二人の背後では、義姉たちが複雑な表情を浮かべていたが、もはや彼らの世界に口を挟む者は誰もいなかった。
二人の絆は、今も王国で静かに、そして確かに輝き続けている――。
めでたし、めでたし。
ChatGPTのコンテンツポリシーの限界を調べるため、ディズニーの著作権の制限が厳しいシンデレラの絵を生成していた時に作成した作品です。ChatGPTでは、シンデレラやガラスの靴などのキーワードでは絵を作成できませんが、「BL版シンデレラ」によってコンテンツポリシーの制限を突破することができました。
文章や絵は、その絵に関するアイデアをベースに「ChatGPT 4o」がほぼ書いてくれました。