学校案内
望まぬ相手からの好意がまさかここまで恐ろしいものか。
なんて考えながら歩いていたが、少ししてアレは好意ではなくて別のモノだという事に気付いた。
じゃあ何かと問われると、僕の貧弱な語彙では下心としか言い表せない。
だがそうなると、男の下心と好意にははたしてどのような違いがあるのだろうか、なんて疑問が湧き出てくる。
こんな風に疑問の答えを見つけた途端、新たな疑問が湧き出てくるのは、僕にとっては日常茶飯事、女の子に話し掛けたら無視されるくらい当たり前の事。
おそらく何かしらの穴があったり、もしくは例外的なケースばかりに目がいって、本質的な事を見落としてしまっているのだろう。
こういうのを馬鹿の考え休むに似たりというのか。
だが、だからといって思考を止めるのは愚か者のする事。
誰しも最初から賢者という訳ではない。
思考を繰り返し、思考を深め、それが過ちと気付けばすぐに引き返して、別の道を探し出す、それを正しく行う者こそが賢者と呼ぶのだ。
……まあ、男は出すもの出したら簡単に賢者になるんだけど。
────そんな感じで、とりとめのない事を考えながら僕は学内を歩き回る。
時には思考がループしたり、時には自分でも意味不明なあさっての方向に飛んだりするけど、考え事の最中はその事に気付けない。
頭のいい人は気付けるんだろうか。
少なくとも頭の回転が大きなのっぽの古時計くらい遅い僕には無理だ。
いくら股間の回転が速くても無理だ。
ふと、ここで僕の中で閃くものがあった。
それは、頭の回転が速いから気付けたものではない。
頭の回転が鈍いから、今、気付いた事だ。
昨日、僕はブルババにボディガードを頼まれた。
ヤオ・ワン、クリネさん、コアカさん、それからイケメンさんにメカクレ少女。
計五人の少女のボディガードを、だ。
僕は美少女とお近づきになるやったー、と喜ぶあまり、昨日の時点で肝心な事に気付けなかった。
五人もの少女をどうやって護るのか、という事だ。
これが、どこか旅行にでも向かう最中の護衛とかなら解る。
けれど、僕が護るのは五人の旅行とかではなく、五人の日常だ。
五人が常に一緒に行動する訳ではないのは、朝、クリネさんと出会った事でなんとなく判る。
五人は一緒の寮に住んでるけど、特に一緒に過ごしている訳ではない。
じゃあ、どうやって?
当たり前だが、僕の身体は五つもない。
五つもないのにどうやって、五人の少女を護るというのか。
「……………………?」
僕はその場で足を止め、首を傾げて考え込む。
けれども、頭の回転が鈍い僕ではどうやら答えは出てきそうにない。
頭の代わりに股間を回転させるが、やはり答えは出てこない。
ミニスカートのノーパン姿なので股間はもろに出てくるが、それでも答えは出てこない。
強いて言うなら、屁が出てきそうだ。
…………出た。
我ながらものすごく馬鹿な事をしていると思う。
股間の回転がどうとかの話ではなく、放屁の音がややフルートっぽい事でもなく、五人の少女の護衛についてだ。
これ以上考えても仕方ないと思った僕は、絶対不可能な仕事を与えてきたあのブルドッグ顔のババアに話を聞きに行く事にした。
◆
「昨日の時点で気付かなったからね。いやぁ、随分とお間抜けだなって思ったさね」
理事長室にて、ブルドッグ顔のババアこと、ブルババは僕の質問に、からからと笑いながらそう答えた。
余程おかしかったのか、ブルババは昨日も見た高そうな椅子をきぃきぃ揺らしている。
「ぐぬぬ。否定できないのが腹立たしい……」
呻く。
今回の件については、完全にブルババの言う通りだった。
何一つ反論が思いつかず、ただ呻く事しかできない自分が歯がゆかった。
「まぁでも、あんたに頭の良さは期待してないから別にいいんだよ。むしろ頭が悪い方がこちらとしては扱いやすいから助かるさね」
「フォローのようでケンカ売ってるな。こんにゃろう」
ブルババは机を爪で叩き、指を立てる。中指ではなく人差し指を。
「とりあえず、ボディガードは別にやらなくていいさね」
「なんだって?」
我が耳を疑う。
いきなり何を言ってんだこのババアは、と言いそうになるがなんとか堪えて、どういうつもりで言ったのか、と発言の意図を伺う。
「だって五人を護るのは不可能なんだろう? 不可能な事を無理やりやれとは言わないさ。それぐらいの優しさは持ってるんだよ、アタシは」
「だったら初めから雇おうとするなよ。てか、え? マジで? それじゃ僕はクビ?」
「いいや。そもそも学園内は安全だから護る必要なんてないのさ」
「なら何で雇おうとしたんだよ」
「ただの恩返しさ。アタシは、命の恩人に何の恩返しもしないような恥知らずじゃないんだよ」
「無理やり雇おうとしなかったか?」
「じゃないと受け取ってくれなかったじゃないか」
「……………………」
けむに巻かれてると直感した。
が、しかしここでドストレートに訊いたところで、ブルババが素直に答えてくれないのは目に見えている。
どうすればいいのか。
いや、どうせ答えてくれないのなら、ここはあえて深く追及しないのも一つの手ではないだろうか。
ブルババ相手だと変に僕の事(この世界の住人じゃない事)とか気付かれる恐れもある。
それならいっそ危険を犯さず、追及を止めておく事にする。
そもそもブルババの意図をそこまでして知りたい訳でもない。
僕はため息を吐き、
「……………………はぁ。まあいいや、もう」と言って話を切り上げた。
その瞬間、ブルババの口端が微かに歪んだ。
…………笑った?
一瞬だけ黄ばんだ歯が渇いた唇の隙間から見えた気がした。
どうしようか、笑った理由を尋ねようかと思ったらブルババから、
「そういえばあんたの為に学校案内役を用意したんだが、どうだい? 案内ほしいかい?」
「ん?」
唐突な話題の変化に思考がついていかず、聞き返す。
ブルババが再度言う。
「学校案内さ。学園は広い。どこにどんな建物があるか、一通り説明してやろうかって言ってんだよ」
そう言って、ブルババの視線がちらりと左側に動く。そこには一人の少女がソファーに座っている。
コアカさんだ。
彼女は僕が理事長室を訪ねた時からそこにいた。
こちらの会話には一切参加せずに、ノートパソコンくらいの大きさの本を開き、黙って読んでいる。
なんかよく分からないが、これはコアカさんが学校を案内してくれるという事だろうか。
僕は自分の置かれた状況に戸惑うが、すぐに気を取り直して答えた。
「そうだね。案内してくれるならお願いしたいかな」
「だ、そうだ。そういう訳で案内頼んだよ、コアカ・ファルゴ」
フルネームで指名されたコアカさんは別段嫌な顔をしたりせず、というか僕が理事長室に入った時からほとんど表情を動かさずに、「承知しました」と言って、静かに立ち上がった。
そしてそれまで読んでいた大きい本を閉じ、背中側に配置された本棚の中にスッと仕舞う。
「お、おお願いします」
と、僕は頭を下げた。
ブルババを相手するのとは違う緊張感が走り、変に力が入ってしまう。
「緊張してるのかい?」とブルババがヤジを入れてくる。
「昨日の方がまだ慣れていたようさね」
「うるさいな」
と僕は返し、理事長室を出ようとブルババに背を向ける。
ブルババに言われるまでもない。
昨日の僕の方がまだ喋れていたのは自覚している。
コミュニケーションというのは初めよりも二回目以降の方が緊張してしまうタイプだっているのだ。
僕の退室に合わせて、コアカさんも退室する。
彼女が部屋を出る直前、ブルババから
「あ、そうだ。コアカ。これ」
と何かを渡されたようだが、具体的に何を渡されたのかは、彼女の背中に阻まれ見えなかった。
◆
理事長室を出て、僕達はまず校門の方に向かう事にした。
「どうして校門の方に?」
「校門の近くに学内の案内図がありますから。そこでまずは全体図を確認しましょう」
納得しつつ、僕はコアカさんの後ろをついていく。
移動中はあまり会話がなかった。
僕にコミュ力があれば、会話はそれなりに弾んだかもしれないが、コミュ障の僕にそういう展開を期待するのは無理、無駄、無謀というもので、結局何もないまま校門に到着した。
表札の付いた壁。車輪の付いた鉄の柵。朝顔の横に突き刺してもよさそうなレール。
外観は校舎と同様、元の世界の中学高校の校門となんら変わらなかった。
写真を撮って見比べてみても違いが判る者はいるまい。
その校門のすぐ傍に大きめの掲示板が立っており、そこに学内の地図が掲載されている。
「地図です。分かりますか? ここが現在地で────、」
コアカさんが地図の前に立ち、指さしながら、大まかな案内をしてくれる。
背が低いので、つま先立ちだ。
無表情で平然としてるのに、ピンとつま先立ちしている姿は実に可愛らしかった。
正直、めちゃくちゃ萌えた。
「聞いてます?」
「あ、すいません。もう一度最初からお願いします」
頭を下げ、再度説明を要求する。
コアカさんは小さくため息を吐き、やれやれとやや憮然としつつも説明を再度行ってくれた。
「分かりますか? ここが現在地で────、」
真面目に聞くと、コアカさんの説明は実に分かりやすかった。
僕がこれからメインで使うであろう施設、寮やら校舎など、優先度の高いモノから順に説明してくれた。
その手際の良さは、予め練習してたんじゃないかと勘繰ってしまうものだった。
「次に、ここが図書館です。そしてそこから広場と白い中等部校舎を挟んだところに魔闘場があります」
「魔闘場?」
「生徒同士魔法で戦う場所の事です。阿呆みたいに大きい建物ですから、一目で判ると思います」
「へぇ」
「ちなみに地上四階、地下八階まであります。まぁ、地上は観客席含めて四階なので、実質一階になりますが」
ドームみたいなものだろうか。確かにコアカさんの言う通り、地図上でみても魔闘場なる建物は大きい。規模の違いが一目で判る。
「なんでこんなにデカいんですか?」
「魔法を扱うならこれぐらいの規模でないと存分に戦えないでしょう。それに年に数回、一般客も観覧自由な魔闘祭等が開かれるので、観客席も必要になります」
「なるほど」
「本当はもう少し広い方がいいかもしれませんが、結界の仕様上、これ以上拡げるのは難しいらしいですね」
「結界か」
なんとなく予想できる。
ヤバい魔法を使っても観客席に被害を出さない為のやつだろう。
漫画とかで見た事あるから、特に疑問はない。
「ちなみにグラウンドの方にも結界を発動させる魔道具が設置されてます。こちらは旧型で燃費が悪いからあまり使う機会がありませんが」
「ふぅん」
続けてコアカさんは、図書館やグラウンドなど、メインで使う訳ではないが、それなりに使用するであろうところ。
その後で、他の世代のコが使う建物など順序良く、丁寧でこそないが、機械的に教えてくれる。
「────以上が大まかな位置関係になります。何か質問はありますか?」
「いえ、ないです」
厳密にはないではなく、思いつかないだけなんだけど。
こういう時にきちんとした質問が思いつかず、しばらく後になってから思いつくのはいつもの事。
単純に頭の回転が遅いのだろう。
悲しいな。
「それじゃ実際に行ってみましょうか。地図で見るのと実際に行ってみるのでは大きく違いますし」
「いいんですか?」
「さすがに全部は回りませんが、これからメインで使うところぐらいは案内しますよ」
そう言ってコアカさんが再び歩き始める。
僕は彼女の先導する方へついていき、学校の地理を頭の中に叩きこむ。
やはり彼女の言う通り、地図で見るのと実際にこの目で見てみるのは大分違う。
と、色々回ってる途中でグラウンドの方に来た。
ここも元の世界のグラウンドと大差ないが、ひとつだけ気になる物がある。
公園の遊具にも見えそうな黒い柱だ。
末広がりで根っこの方が太く、上にいくにつれ細くなっている。
高さはおよそ五メートル。立ってるというよりは地面から生えてるような印象がある。
「丁度いい機会ですので、結界を発動させてみませんか?」
そう言ってコアカさんは、僕が注目してる黒い柱の前に立つ。
彼女の目の前にはなにやら複雑な模様が刻まれており、ぱっと見、操作盤のように見える。
いや、実際そういう機能なんだろう。
彼女が立つと、柱の模様がもぞもぞ動き始め、ボタンみたいなものが沢山浮き出てきた。
それらをコアカさんは手慣れたように押していく。
ふと、穴が開いた。
野球ボールサイズの穴だ。
その中にピッタリサイズの宝石が入っている。
いや、入ってるというより、それも柱の一部なのだろう。
ピッタリサイズじゃなくても取り出せないように思える。
「見ますか?」
僕は頷き、穴の中の宝石を覗き込む。
材質は柱と同じようで少し違うように思える。
黒で判り辛いが、光沢があり、僕の顔が映り込んでいる。
「これに魔力を込めたら自動的に起動し、結界が発動されます。あ、触らないでくださいね。直接触ったら、魔力が吸い取られて気絶しますよ? 生活用魔法家電のとは規模が違いますから」
「え?」
遅かった。
既に触ってしまった後だった。
宝石に触れた瞬間、指先からスーッと何かが抜けていく感触があった。
あったが、それだけだった。
ハッカ油を付けた感覚に近い。
それほど強い感覚ではなかった。
「あ……あぁ」と言って、離す。
それまでにおよそ五秒くらい掛かった。
ゴキブリがいますよ、と言われたらまだ速く反応しただろう。
指先を確認する。
特に異変はない。
股間で触れたらそれなりに素敵な感覚を得たかもしれないが、たかが指先程度じゃ何も変化はない。
「だ、大丈夫ですか……?」
心配そうにコ赤さんが尋ねてくる。
僕は手を振り、「大丈夫です」と無事を示す。
と、ここで異変が起きた。
僕の内側ではなく、僕の外側に。
大きな異変。
神でも降臨したかのようなすさまじい異変だ。
突如、世界が闇に充ちた。
周囲の光は全て消失し、視界のすべてが暗黒と化した。
首を振り、辺りを見渡す。
何が何だか分からない。
唐突に空が真っ暗になったのだ。
時刻はまだ昼前で、天気も快晴と言って差し支えない、突き抜けるような青空だった。
それが何故か、前触れもなく真っ暗になったのだ。
夜のようで、しかしそれとは異なる暗さ。
否、黒さ。
「な……なんだこれ…………っ」
戦慄する。
突然の空の変化に僕は恐怖を隠せない。
肌が泡立ち、心臓が硬くなる。
あわあわとコアカさんの方を見ると、彼女は驚愕の面持ちで空を見上げ、それから僕の方を見つめ、信じられないといったリアクションを見せた。
「ご、ごめんなさい…………」
とりあえず謝った。
何が起きたのかは全く分からないが、この現象を引き起こしたのは自分だというのは何となく判る。
「こ、これどうなってるの…………?」
コアカさんは愕然としながらも、答えてくれる。
「…………あ、あぁ、大丈夫です。問題ありません。それより貴方の方が大丈夫ですか? 何か身体に異変はありませんか?」
「え? いや、別に? 指先がちょっとスースーしたかなって感じ?」
「…………っ」
絶句するコアカさん。
その態度でなんとなく察したというか、閃いたというか。とりあえずピンときた。
これはいわゆるアレだ。
所謂、俺なんかやっちゃいましたか、案件だ。
いや、でも、そういうのって無自覚系チートがやるものであって、僕は一応それなりには自覚している。自覚しながらやらかしてるのは、ある意味僕自身の無能を曝け出してるようなものかもだけど、でも決して嫌味ったらしくやってるつもりなんて毛頭ない。
そもそも僕は触っただけだ。
女の子の柔らかいお尻を、じゃなくて、ただの宝石を。
穴の中にあった真っ黒な石を触っただけだ。
別に、若くて、瑞々しくて、張りと弾力があって、内に燃え滾るような情熱が秘められてもない青い果実を触った訳ではないし、熟れて熟れて、ぐちゅぐちゅに熔けて煮込まれた赤い欲望が詰められた甘い甘い蜜壺の付いた肉塊でもない。
僕が触れたのは、ただの宝石だ。
てか石だ。
穴に入れ、狭い隙間に指をねじ込み、少し硬くなったところを優しくも激しく弄ったりもしたけど、逆に言えばそれだけだ。
…………なんか悪い事した気になってきた。
「あぁ、えぇっと、その……真っ暗になってるのは、なんでか分かります?」
奇妙な罪悪感が芽生えたので、とりあえずありきたりな質問で誤魔化してみる。
僕の問いに、コアカさんは顔を真っ青にしながらも説明してくれた。
「えっと、結界はですね、魔力を注ぎ込めば注ぎ込む程、強力なモノとして発動されるんですが、その際、色が濃くなるんです。
基本的にはほぼ無色透明で、偶に魔力を多めにした時に薄っすら白か水色が付いたりするんですが、ここまで色濃く発動されたのは初めて見ますね……。ホント、貴方何者ですか……?」
「んー?」
苦笑しながら首を傾げてみせる。
ここで異世界チートです、なんて答えても理解を得られる筈もない。
そもそも異世界チートってなんなんだよって話だ。
もしもこれが創作上の話なら何の説明もいらないのだけど、ここは現実だ。
少なくとも僕にとっては現実だ。
あからさまな異世界ものだからついついメタ的な思考、発想を行ってきてしまったが、第四の壁を認識できない僕にとって、こういう考え方はある種の逃避、妄想でしかない。
カメラもスタッフもいないのに脳内でアレコレ言って現実実況プレイしているユーチューバーみたいなものだ。
たまに我に返って、悲しくなってしまう。
ともあれ、そんな訳なので、コアカさんの『何者ですか?』という問いには、
「さあ?」としか答えられない。
異世界チートは正解かどうかも分からない、ただの僕の妄想なのだ。
マジでなんなんだろう。
訝し気にコアカさんが睨んでくるが、僕自身答えようもない事だと思ってるので、諦めるのを待つしかない。
暫くしてコアカさんはため息を吐き、睨むのをやめてくれた。
助かった。もう少しで癖になるところだった。
「この結界はこのままですか? 解除できたりしません?」
僕が尋ねると、コアカさんはあっさり「できますよ」と答えた。
「少しお待ちください」と言って、黒い柱の前に立ち、色々操作する。
操作開始からものの数秒で、真っ黒な空は気持ちのいい青空に戻った。
厳密には戻ったのではなく、グラウンドを覆ってた結界が消えただけなんだけど。
中から見てる分には空の色が変化した、もしくは世界そのものが変貌したように見える。
圧巻である。
「これ、外から見たらどんな感じだったんですかね?」
「そうですね……」
とコアカさんは顎に手を置き、考え、
「おそらく真っ黒なドーム状のモノがグラウンドを覆ってたように見えたでしょうね」
「うわぁ……目立っちゃったかなぁ」
「目立ちはしたでしょうが、おそらく大丈夫ですよ。あそこまで真っ黒な結界が発動されただなんて、普通の人は考えません。何かしらの魔法開発実験の失敗でああなったのだろうと解釈するでしょう」
「……それは大丈夫なやつの?」
「少なくとも結界と思われるよりは数十倍現実的ですし。広範囲の幻覚魔法って事にしておけば、そこまで驚かれませんよ」
「すいませんでした」
僕は再度謝罪する。
「謝る事じゃありませんよ」
そう言ってコアカさんが微笑む。基本ジト目無表情の彼女が見せるのはとても珍しかった。