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今日のフェーヴは誰のもの?  作者: 宝月 蓮
完璧な彼女の意外な弱点
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1

 ラ・レーヌ学園の食堂にて。

 侯爵令息ルシアン・ヴァンサン・ド・ファヴラは悩んでいた。

 ルシアンは手元にある二枚のオペラチケットを見てため息をつく。

 俯いた瞬間、ルシアンの赤毛が彼のエメラルドのような緑の目にハラリとかかる。

 今は目の前の昼食を食べる気になれないようだ。


 先程、ルシアンは婚約者である公爵令嬢アンリエット・クリスティーヌ・ド・ヌムールをオペラに誘ったのだ。

 このオペラは普通のオペラとは違い、劇の後オペラ女優や俳優から体験レッスンが出来るのだ。それらは貴族達の息抜きとして人気である。

 しかし、ルシアンはアンリエットにオペラの誘いを断られてしまった。

 ルシアンがふと顔を上げると、少し離れた席に彼の婚約者アンリエットの姿が見えた。

 アンリエットは仲の良い令嬢達と談笑している最中だった。


 美しく艶やかなアッシュブロンドのふわふわとした髪にヘーゼルの目。大人びた美しい顔立ち。おまけに成績優秀でしっかり者なので皆から慕われている。彼女は何をやっても完璧な令嬢だと言われている。


(アンリエット嬢、成績も優秀で領地経営の勉強もいつも頑張っているから息抜きにどうかと思ったけれど……)

 ルシアンはファヴラ侯爵家次男で家を継ぐ立場ではない。

 一方アンリエットはヌムール公爵家長女で次期当主だ。

 ルシアンはヌムール公爵家に婿入りし女公爵になるアンリエットを支えようと頑張っているが、成績などはアンリエットに一歩及ばない。そして今回オペラの誘いを断られた件もあり、ルシアンは少し自信をなくしていたのである。


「ルシアン、何暗い顔しているんだ? 早く食べないと食事が冷めるぞ」

「ジョルジュ……」

 ルシアンは正面の席に座ったジョルジュに対して苦笑する。


 ジョルジュ・マルセル・ド・ヌムールはルシアンの婚約者であるアンリエットの双子の弟だ。ジョルジュは公爵令息でルシアンよりも身分は上である。しかし彼はルシアンの親友でもあるので、砕けた態度を許してくれている。

 柔らかな癖のあるブロンドの髪にヘーゼルの目で、甘めの顔立ち。おまけに明るい性格なので人気がある。その証拠に、食堂にはジョルジュに憧れの眼差しを向ける令嬢達がそこそこいた。しかしジョルジュには婚約者がいるので彼を誘おうとする勇敢な令嬢はいないようだ。

 ちなみに、ルシアン、ジョルジュ、アンリエットの三人は十八歳。ラ・レーヌ学園最終学年である第六学年に在籍中だ。


「もしかして、アンリエットのことで悩んでいるのか?」

「ああ」

 ルシアンは頷く。

「オペラに誘ったけれど、断られてしまった。最近話題の体験レッスンが受けられるオペラだ」

「ああ、あれか。僕も婚約者を誘ってみたけれど、残念ながら予定が合わないと断られてしまった。僕、歌には自信あるから皆に聞かせたかったのだけど」

 ハハハッと明るく笑うジョルジュ。そしてナイフとフォークを器用に使い、本日のランチプレートのメインである鴨肉のコンフィを一口サイズに切って口に運ぶ。

 ルシアンと違い、婚約者に誘いを断られてもあっけらかんとしていられるジョルジュ。ルシアンはそんな彼が少し羨ましいと思った。

「でも、何でアンリエットは君からの誘いを断ったんだろうな? 日程的に他の予定はないはずだけど。アンリエットだって歌は上手なんだし」

「俺に嫌気がさしたとか? 確かに俺はアンリエット嬢よりも成績は下だし……」

 ルシアンは自嘲する。エメラルドの目が揺らいだ。

「いや、それはない。というか、ルシアンにはアンリエットから嫌われる要素なんてないだろう。僕の自慢の親友なんだし。ルシアンだって成績は上位じゃないか」

 明るく笑うジョルジュ。彼のヘーゼルの目は、力強かった。

「それに、僕は放課後ヌムール公爵家の王都の屋敷(タウンハウス)に帰った後もアンリエットと顔を合わせるけれど、アンリエットからルシアンに対する不満なんて聞いたことがない。ルシアン、自信を持って良い」

「……ありがとう、ジョルジュ。そこまで言ってくれると少し照れるけれど」

 ルシアンは少しだけ表情を和らげた。

 アンリエットと共に育った家族であるジョルジュの言葉は、非常に信憑性がある。ルシアンの心は少し軽くなるのであった。

 ジョルジュのお陰でルシアンは少し明るさを取り戻し、食も進む。

 そしてようやくデザートのガレット・デ・ロワを食べようとした時、ナイフに何か硬いものが当たった。

(ん? 何だろう?)

 ルシアンは硬い部分を避けてガレット・デ・ロワを切る。すると、コロンとフェーヴが皿の上に転がった。

「おお、ルシアン、それフェーヴじゃないか。僕は引き当てたことないけれど、六年間の中で見るのは三回目だ」

 ジョルジュはヘーゼルの目を丸くしていた。

「俺は初めて見たよ」

 ルシアンはフッと笑い、まじまじとフェーヴを見る。

「そのフェーヴ、確か恋の幸運を呼び寄せるとか言われている。アンリエットのことで何か良いことがあるかもしれないぞ」

 ニヤリと悪戯っぽく口角をあげるジョルジュ。

「恋の幸運……でもアンリエット嬢と俺は婚約者で、恋と言えるのか?」

 ルシアンは苦笑する。

「でもルシアン、君はアンリエットのことが好きだろう?」

「……ああ」

 ルシアンは目を逸らし、少し頬を赤く染めて頷いた。


 ルシアンのヌムール公爵家への婿入りは政略的なものではあるが、彼はきちんと婚約者であるアンリエットと関係を育んでいたのだ。

読んでくださりありがとうございます!

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アンリエットとジョルジュはシリーズ過去作『クリスティーヌの本当の幸せ』のヒロインであるクリスティーヌとヒーローであるユーグの子供です。また、『地味令嬢と地味令息の変身』に登場したオレリアンの姉と兄でもあります。

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