第2話、揺らぐ信念
避難所の一室では、自治会長の山田が補佐役の村上、石田とともに住民の避難状況や怪物の目撃情報を整理していた。
窓の外からは住民たちの不安そうな声が漏れ聞こえ、室内の空気もまた重く沈んでいた。
山田は地図に目を落としながら重い口調で話し始めた。
「北の山で怪物が目撃されたという報告がある。一応対応を考えるが、情報が確かかどうかは分からない。」
村上は眉をひそめつつ地図を広げ、北の山を指差した。
「他の住民からも同じような報告が入っています。ただ、それが同一の怪物かどうかは断定できません。」
その時、入口から静かに入ってきたのは大河だった。
避難所の住人としては珍しく、整った姿勢と冷静な眼差しが印象的だ。
丁寧に一礼すると、大河は落ち着いた声で切り出した。
「お忙しいところ申し訳ありません。先ほどの怪物の目撃情報について、少しお話ししたいことがあります。」
「話してみろ。」
山田は訝しげに彼に言う。
大河は村上の広げた地図に目を落とし、慎重に指を動かして北の山を指差した。
「ここで怪物が目撃されたという情報がありましたね。」
「そうだ。それがどうした?」
元々知り得た情報をぶり返す大河の事を山田のやや苛立った口調で返す。
しかし大河はものともせず次の言葉を続けた。
「実は、この場所から少し離れた東の林道でも怪物の影を見たという情報を聞きました。そして、こちらからの林道からも北の山に向かう怪物を目撃した住民もいます。」
一同の視線が大河の指先に集中する。
石田が小声で呟いた。
「確かに、東の林道付近でも目撃情報がありましたね……」
村上もまた地図を凝視しながら言葉を付け加える。
「つまり、怪物は北の山に集まっているもしくは怪物同士で移動すると考えられるのかもしれません。」
自治会長の山田は額に手を当て、地図上の北の山と東の林道を見比べた。
「……なるほど。では元々1体の怪物が北の山にいて、林道に1体東の林道に1体で合計3体ということか。」
「そう考えています。ただ、これはあくまで目撃情報を基にした推測に過ぎません。」
大河の声には謙虚さが漂っていたが、その瞳には確信の光が宿っていた。
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その後、山田たちは住民たちに向けて、北の山周辺への避難を控えるよう指示を出した。
また、避難所内でも怪物の移動ルートについて情報が共有され、住民たちの間に安堵と不安が入り混じった空気が流れた。
一方で、大河は自室に戻ると、再び地図を広げた。指先で北の山をなぞりながら、小声で呟く。
「さて、次の実験だ……」
彼は目を閉じ、「マップ」の赤いシミの魔獣を意識する。
北の山付近から避難しようする住民を北の山に追い込むように赤いシミを誘導する。
すると、ゆっくりと東の林道から北の山へと移動していくのが見えた。
「これなら住民が情報を信じていても……」
大河は自信に満ちた笑みを浮かべながら地図を畳んだ。
その手の中で、彼が何らかの能力を行使していることは明白だった。
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翌日、避難所内では再び会議が開かれていた。
村上が報告をまとめ、山田と石田に共有している最中、石田が焦った様子で部屋に駆け込んできた。
「北の山に向かった住民が怪物に襲われたという報告が入りました!」
「なんだと?」
山田の表情が一瞬で険しくなった。
村上も驚きを隠せない様子で言葉を探した。
「昨日の指示は共有したはずだ。それでも北の山に向かう者がいたのか?」
石田は息を整えながら答える。
「東の林道付近が危険だと考えた一部の住民が、逆に北の山が安全だと判断したようです。」
山田は机を叩きつけるように手を置いた。
「そんな……どうして……」
山田は険しい表情のまま、静かに呟いた。
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別室では、大河が一人静かに地図を広げていた。その表情には薄暗い笑みが浮かんでいる。
「やはり、嘘も本当も混ぜれば信じられる……これで十分だ。」
彼の指先が地図をなぞり、新たな赤いシミがまた別の場所に現れる。
「さて、次はどこを動かすべきか……」
その言葉には、住民たちの混乱をさらに煽る意図が込められているようだった。
ポイント
1. 嘘の完成:目撃情報を利用し、住民の行動を操る形で嘘を完成させる。
2. 住民の混乱:怪物の目撃情報と行動が住民に信じ込まれる様子を描写。
3. 大河の実験:自身の力を活用し、モンスターの位置を操作する。