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9.



 領都シュヴェールへ来てから5日が経った。

 その間、冒険者として依頼をこなしつつ耳を澄まして情報を集めた。

 基本的には聴覚共有(リンク)をしてBGMのように聞き流しながら生活をしていた。 おかげでいろいろと知ることが出来た。






「おっじゃましまーす」

「な、なんだいきなり!」

「ガキだと?見張りはどうした!」

()にいた人たちなら眠ってるよ?さ、みんなやっちゃって〜」


 大量のフクロウがなだれ込んできて中にいる人間を次々と押し倒していく。部屋の中は阿鼻叫喚の嵐だ。フクロウたちも相手が嫌がることを熟知して攻撃している。いったい誰に似たのやら。

 そこをアニフィが触手を器用に使ってロープで縛りあげていく。こっちももう手慣れたものだ。


「いったいなんだってんだ!」

「変なお面付けやがって......!ただじゃおかねえぞ!」

「まだまだ元気そうだね。これは楽しみだ」



 それからほどなくして、フクロウ隊がおびき寄せた衛兵がその場所を発見し、部屋に転がされていた者たちは残らず連行されていった。 その中には門で働いていたはずの兵もおり、「私もグルです」という紙が貼られていた。

 捕まった者たちは皆一様に「フクロウが......狐が......」と呟いていたという。




  *   *   *




「結局あやつらはなんじゃったのじゃ?」

「ん?僕たちが狩った賊の残党......というか指示役かな。まさか公爵領の領都に本拠地があるなんて誰も思わないだろうし、灯台下暗しってやつだよ。ま、公爵たちは森の封印が解けたことの対応で忙しいんだろうけど、不用心だよね」

「ふむ、大胆な奴らじゃな。わざわざ門から連れてきたあの兵は?」

「あれもグルだよ。賊が街の中にいるってことは少なからず出入りしているってことだ。街の入り口では身分をチェックしていたろ?僕たちの時は冒険者カードを何かで読み込んでいたし、冒険者以外の人たちも何かしらの身分証を提示していた」

「......たしかにそうじゃったな。じゃが、あの男だけでよいのか?」

「まぁ大丈夫じゃない?奴らの会話を盗み聞きして、特定の日付だけ出入りしているようだったし兵士全員が繋がっているということはないと思うよ」

「ふーむ。人間というのは小賢しいことをするのう」

「そうだね。入り口でチェックしているからまさか街中に賊がいるとは誰も思わないだろうし、地下のある建物なんてそうそうないみたいだしね。本当はもう少し泳がせて確証を得たかったんだけど......僕らが賊を狩りすぎたからか逃げ出そうとしていたし、仕方ない」

「さすが主じゃのう。話を聞いてもそこまで思いつかんじゃろうて」


 そりゃ前世ではセキュリティなんてあって当たり前だったし、その穴をつく犯罪もあとを立たなかった。むしろこの世界がザルすぎるんだよ。


「しかし、このお面は必要なのかの?」

「いいでしょ、これ。さすがに素顔を見られると困るしさ、ここは元々眠っていたルナを監視するための場所だから狐のお面なら恐怖も増すかなって」

「悪趣味じゃのう」


 手作りで色も塗っていないのだが、それがまた不気味さを演出している。





  *   *   *



「——なんですって!?」

「ですから、街の中に賊が潜んでおり全て捕らえたと」

「そんなことより、それを知らせたのがフクロウって事実なんですの!?」

「ええ、事実でございます。どこからともなく飛んできたフクロウの群れが衛兵を誘導し、その先にアジトがあったと。にわかには信じがたい話ですが......」


 公爵の膝元に賊がいたのをそんなことで片付けないで欲しいが......と苦い顔で報告する男。しかし主たる目の前の女性はそんな男の表情などおかまいなしに自分の世界に入って早口でブツブツと呟き始めた。


「フクロウが人を誘導するなんて信じられないわ。それだけの知能がある?いえ、むしろ使役していると考えるべきね。それならあの時の状況にも説明がつくわ。たしかフクロウ以外にも妙な魔物が助けてくれた......ということは複数の生き物を使役している?......まさか!」


 顎に手を当て考え込んでいた女性が急に顔を上げて窓に近づき、換気のためにわずかに開いていた窓を完全に開け放った。


「ふふ、|今日もそこにいらっしゃるのね《・・・・・・・・・・・・・・》。(わたくし)の声は聞こえていますわよね?私はシュヴェーレン公爵家の長女、ジェニーと申します。是非直接お礼が言いたいのですけれど、お会いしていただけないかしら?」


 ジェニーの様子を見守っていた執事の男が、外に誰かいるのかと慌てて駆け寄るが人の姿など見当たらない。しかしジェニーの視線はある一点に固定されていた。

 そこあるのはエスメラルダの木。青みがかった緑色の、独特のにおいを放つ木だ。その枝に1羽の小鳥がとまっている。


「毎日同じ場所にいるなんて偶然とは考えにくいですわ。まるで私たちの話を盗み聞きしているかのよう。欲しい情報があれば協力いたしますわよ」




  *   *   *



 バレた!?そんなバカな!フクロウ(シエル)のテイムだけじゃなく小鳥の盗聴まで気が付くなんて何者だ?あまりにも突然だったから小鳥に逃げる指示を出すのが遅れてしまった。今ここで指示を出せば肯定するのと同じだ。どうする......。


『そんなに警戒しないでくださいまし。私は助けていただいたお礼がしたいのですわ』

「............我らは“スウィーパー”。世界の穢れを掃う者なり。その穢れには貴族も含まれている。覚えておくがいい。......戻れ」


 悩んだ末に明かしてしまうことにした。無論、声を変えて出来るだけ機械っぽく喋った——つもりだが。

 あの時の馬車に乗っていたのが公爵令嬢だったというのは想定外だ。貴族っぽい紋章はあった気はするが、そんなのひとつも知らなかったからな。そもそも目的は賊の財産であって馬車の中身とかどうでもよかったし。

 まぁ使役がバレたからといってやることが変わるわけでは無い。あの令嬢にどういう真意があるのかは知らないが......いいだろう、試してやるよ。



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