59.
「それで、僕はどれくらい眠っていたの?」
「3日です。皆、心配したんですのよ」
そんなに寝ていたのか。まぁ少しズレていれば即死の可能性もあったし、3日で済んで良かったとも言える。
「ごめんって。状況はどんな感じ?」
「魔族はライが倒してくださいましたし、教会や孤児院に関わる者たちは指示通りに猿轡をして拘束しておりますわ。孤児院の子供たちは保護して検査中、教会の地下から連れ出された子供たちは眠らせておりますがいつまでもつか......。ゴンさん?とフラムさんが手がかりを探してくれています」
「なるほど......国——王家はどう対応するのかな?」
「よりによって王都内部に魔族が出たので大混乱で正直宛になりません。授爵式も簡易的に済ませて貴族は解散。ライのことは陛下には報告せざるを得ませんでしたが、他には漏らさないようにお願いしておいたので今回も勇者の手柄となっていますわ」
「さすがジェニーだね、ありがとう。さて、まずは魔人化の実験に使われた子供たちか......」
早いところ何か手を打たないと、いつ暴れ出すか分からない。とはいっても手があるというわけでもないしなぁ。
向こうに自我があるか怪しいから僕のテイムは効かないだろうし、そもそも体力増強くらいはできるけど、病や薬の効果を打ち消すことは出来ない。
そういうのはむしろ聖女のほうが——そこまで考えて初めて違和感に気が付いた。あれほどの激痛だったのに、この短時間で全く感じなくなっている。
服を捲ってみると、最初から何も無かったかのように綺麗な肌があった。これはまさか......。
「聖女——名前は?」
「私に名前はありません。ただ聖女とだけ呼ばれていましたから」
「名前が無い?どこかから連れてこられたとかじゃないの?」
「いえ、私は孤児院出身ですが、ずっと聖女と呼ばれておりました」
どういうことだ?そんな赤ん坊の頃からスキルが発現していたの?
まさか、スキルが発現したから聖女になったのではなく、聖女になったからスキルが発現した?
少なくとも、この子が聖女になるということは教会連中の中では確定していたようだ。
それに、やはり転生者ではなく洗脳されていたという線が濃厚だろう。外の世界を知らず、そうすることが当たり前だと思い込んでしまえば自分の行動に疑問を持つこともない。
「そっか......君は自分の力をどこまで把握しているのかな?」
「力......ですか?怪我や病を治癒する力ですが......」
「それは少し違うかな。今まで、人以外の物に使ったことは?」
「いえ、ありません。教会を訪れた方にのみ使っていましたから......」
まぁそうだよね。教会がこの力を正しく知っていたら、使い潰されて正気を失っていた可能性もある。
「......ルナ。ククーとスールを連れて皆へのお土産買ってきてくれない?好きなだけ買っていいから」
「何!好きなだけ!?」
「うん、頼むよ。アニフィも護衛としてついて行ってくれるかな?......僕は大丈夫だから」
僕を守れなかったことに負い目を感じているのかしがみついていたけど、優しく撫でると渋々離れてくれた。
まぁ僕はどこか行くわけじゃないしね。もう危険なことは無い。
「急に人払いをしてどうしたんですの?」
「まぁまぁ。とりあえず揃ってから話すよ」
ルナたちが出ていってから少しすると、ドタバタと騒がしい音と共に2人の人物が入ってきた。
「ライ!目が覚めたって——」
「ライちゃ〜ん!生きててよかったわァ!」
「おい、飛び掛ろうとするな!怪我人なんだぞ!」
両手を広げて僕に向かってダイブしようとするゴンちゃんをフラムが必死に止めていた。ずいぶんと仲が良さそうだね。
「2人にも心配かけたね。それにゴンちゃんが僕を担いで脱出したんだって?本当にありがとう」
「いいのよォ!アタシとライちゃんの仲じゃなァい!」
正直、あまり会話もしていないし何の仲でもないんだけど黙っておこう。
「さて......早速だけど、子供たちの治し方が見つかったかもしれないんだ」
「ホント!?アタシも知り合いに聞いて回ったけど、聞いたこともないって言われるばかりでねェ......」
「無理もないよ。魔族自体が隠れているし、魔薬もどこでどうやって作られているのかさっぱり分からないからね」
どうやら魔族は地下が好きらしいということは分かるんだけど、何かしら手がかりが無いと見つけるのは無理だろう。
「魔薬ねェ......それで?その得体の知れないモノに対してどうするのォ?」
「その鍵となるのがこちらの聖女だよ。僕の怪我もあっという間に完治しちゃったしね。まぁ見てもらった方が早いかな。じゃ、これ直してみてよ」
「これを......?わ、分かりました。やってみます」
僕がアニフィから取り出したのは折れてしまった剣だ。予想通りならいけるはずだ。
聖女の両手の光が徐々に剣に伝っていき、剣全体が光ったと思ったらまるで映像を巻き戻すかのように剣が修復されていった。
「これは......っ」
「す、すごいですわ......」
「やっぱり思った通りだ。これは回復じゃない——回帰だよ」
「カイキ?」
「どういうことですの?」
「つまり、簡単に言うと時間を巻き戻しているんだ。だから剣は折れる前に状態に戻り、僕の怪我も無かったことになった」
これは僕のテイムよりも恐ろしいかもしれない。なにせ、世界の理に反するんだから。
そしてだからこそ、正しく把握して慎重にことを進めねばならない。情報が広まってしまえば、聖女を巡って戦争に......なんてこともありうるのだから。




