57.
「——貴様が侵入者か。勇者ではなく子供が来るとはな」
「そうだよ。君たちが使っているのと同じ子供さ」
「ふん、どうせいなくなっても誰も困らんだろう?せっかく我らが役立ててやっているのだから感謝してほしいものだ」
「困るよ。未来をつくるのは子供だよ。だから絶対に許さない」
「貴様の許しなどいらんさ。どのみち人間は全て滅びるのだからな」
「そんなこともさせないよ、絶対にね」
しかしこれはまいったね。油断せず待ち構えているだろうとは思ったけど、まさかすでに魔薬を使っているとは......。これはちょっと想定外だったなぁ。
「フッ、そんな見え透いた小細工が通用すると思っているのか?ずいぶんと舐められたものだな」
「ちぇ、油断していてくれればいいものを」
こっそりブランを接近させて一気に勝負を決めようと思ったけど、そうもいかないらしい。これは厄介だね。
地下で激しい戦闘をすれば、真上の教会だけでなく隣の孤児院や周囲の建物まで崩落させてしまう可能性がある。住民を巻き込むのは避けなければならない。
「しかし貴様、ただの子供ではないな。ここへたどり着ける時点でおかしいが、その奇妙な魔力はいったいなんだ?ヘタすれば我ら魔族にも匹敵する......だが何故か複数の反応を感じ取れる。どうなっている」
「気になる?教えてもいいけど、こちらの情報だけ明かすのはフェアじゃないよねぇ」
「なるほど、少しは頭も回るようだ。......まさかとは思うが、コレールをヤったのは貴様か?」
「コレー......?誰か知らないけど、何かあったなら勇者がやったんじゃないの?」
「ふん、ヤツにそんな力があるわけがない。だからこそ生かしておいてやったのだ。死ねばまた新たな勇者が生まれてしまうしな」
なるほど、利用というのはそういうことか。新たな勇者というのが今より強ければ魔族にとっては都合が悪いから、それなら現状維持のほうがいいと。
しかもパーティに教会と繋がりのある人物を潜入させれば、監視も籠絡も出来ると。
もしかしたら、あれも暗殺じゃなくて魔人化させようとしたのかもしれない。そのほうが人間側の被害も絶望も大きくなるしね。
勇者に大した力が無いと分かったから活発に動き出したのかな?
「疑問なんだけど、魔王が復活する前に人間を滅ぼすの?てっきり生贄が〜とかで使うのかと思ったよ」
「必要なのは魔力だ。汚らわしい人間の体などいらぬ。復活なされた時にゴミが溢れていたら魔王様が嘆くだろう」
自分たちの都合しか考えないってわけか。しかも人間を魔人化させて使って、自分たちは高みの見物なのだから余計にタチが悪い。
「で、魔族ってどれくらいいるの?」
「さぁな。知ったところでどうする?貴様が全て倒すとでも言うのか?無理な話だな。貴様はここで死ぬのだから」
「うわっ......と」
会話の途中でいきなり襲いかかってくるなんて酷いじゃないか。もう少し粘りたかったけど仕方ない。
「コレールを倒したくらいでいい気になるなよ。奴は四天王の中でも最弱......我ら六魔将には到底及ばん」
「いやお前は違うんかーい!」
あ、やべ。つい突っ込んじゃったよ。だって「奴は四天王の中でも最弱」って他の四天王が言うセリフじゃないの?他の3人どこ行ったの?
しかもなんで王が将の下なの?そもそも魔王がいるのに四天王ってどうなのよ。設定ガバガバすぎるでしょ。
とりあえず、この魔族はかなり上位ってことでいいのかな?まさか、さらに上に五老星とかいます、なんてことはないよね?
まぁ強いのは確かだ。そのコレールとやらよりも速いしパワーもありそうだ。踏み台にされた机がベッコリ凹んでるよ......勿体ない。
「我が力、その身で味わうがいい」
強化を使っているから避けられないこともないけれど、一撃が鋭いというか重いから当たっただけで詰んでしまう。
これでは駄目だ。仕方ない、やられるくらいなら試そう......30%解放。
ヤバい、体が張り裂けそうだ。最初に試した時よりはマシにはなったけど、そう長くはもたないだろう。
しかもこれでも避けるので精いっぱいでこちらの攻撃は通用しない。クッ、まだか......このままではジリ貧だ。
「どうした?避けてばかりでは......貴様、何か狙っているな?だがあの2人を待ったとて、たいした戦力には——」
「(プルプル)」
「なんだこのスライムは......」
「ライ!お待たせしましたわ!」
「了解。アニフィ!」
突如、足元に出現したアニフィからジェニーの声が聞こえた。どうやらようやく終わったようだ。
部屋に入る前に、囚われている聖女をアニフィに連れ出してもらい、ジェニーには孤児院の制圧と子供や住人の避難を頼んでおいたのだ。
アニフィから巨大なブレスや狐火が吐き出され、魔族を巻き込みつつ天井まで到達した。まぁ効くとは思っていないけどね。
「キューッ!」
本命は、そのアニフィの触手にくるまったブランだ。さすがに単騎特攻だと返り討ちに遭ってしまうから、目くらましが必要だったんだ。崩れそうな音がすれば、意識は上へといくしね。
たしかに言うだけあって今までで1番手強かったけれど、ブランの光を浴びてしまえば魔族は終わりだろう。
でも僕も力を使いすぎた。しばらく休まないと動くことも——
「ゴフッ......」
突如として腹部に痛み......というより熱を感じて視線を下ろしてみると、僕のお腹から剣のように長い爪が生えていた。
「クク......油断したな。貴様さえ、いなければ......我らの野望、は......」
「キュゥーッ!」
まさかブランのアレをくらってまだ生きていたなんて......やっぱり上位種だけあってしぶといな。それに、僕も勝ちを確信して油断していた。
「じぇ、ジェニー......ごめん、しくじっ、た......」
「ライ!?どうしましたの!ライ!」
ジェニーの叫び声に返事をすることもなく、僕は意識を手放した。




