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「それではこれより、シュヴェーレン新公爵の授爵記念剣術大会を始める!なお、優勝者には特典として勇者様と立ち会う権利が与えられる!」
これでもかと人を詰め込んだ会場に男の大声とそれに反応して参加者や観客の歓声が響いた。いやぁそれにしてもすごい人の数だ。
まぁどれだけ人がいようが僕には関係ないけど。各所に配置した眷属と共有すれば色んな角度で見放題だ。
ジェニーの授爵記念ってのもビックリだけど、きっと理由なんてなんでもいいんだろう。勇者だってどうせチヤホヤされたいだけだろうし。
あの勇者には関わりたくないし、あそこに見える赤毛の少女もなんだか厄介そうだ。何故わざわざ道端にいる子供に勇者やら剣術大会のことを聞くのか理解できない。
僕には剣術なんか分からないっての。見よう見まねで振り回してるだけだし。もはや力技と言ってもいいくらいだ。
では何故剣術大会を見物しているかというと、あの少女の監視もあるが、我が騎士団(公爵家のだけど)の団長が出場するからだ。
本来なら貴族関係の人はトラブル回避や負けた時に言い訳出来ないからこういったものには出ないらしい。今回はジェニー公爵の記念だし、騎士団の強さを宣伝するという意味もあるから代表して団長のみの参戦だ。
主人が女子供だからって舐められないようにね。団長自身も特訓の成果を披露したいらしくてノリノリだ。
まぁだからってやりすぎないでほしいけどね。優勝特典があの勇者との一騎打ちだし。勇者は出場者知ってるのかな?
「はぁ〜退屈だね」
試合はトーナメント形式で進んでいくけど見応えがない。強さでいえば団長とフラムが抜け出ているが、2人が当たるのは準決勝戦だ。それまでは暇だから他の場所を見物していようかな。
そういえば勇者一行はどこにいるんだろう?開会式にも姿は見えなかったけど。どうせあの勇者のことだから、空から騒がしそうなところを探せば......あ、いた。
あー、あれはもしかしなくてもナンパしてるね。あの時一緒にいた女性3人はハーレムメンバーじゃないの?それに女性側はすごく困っているじゃないか。勇者相手じゃ断るに断れないんだろうね。
それにしても剣術大会を見物すらせずにナンパとは......優勝者と戦うんだよね?分かってる?
仕方ない、見てしまった以上は助けるか......フクロウなら怪しまれることも無いだろうしね。
「それー、突げ——」
「ちょっとォ、あんたウチの店先で何やってンのよ」
「うわぁ!!!」
突然の乱入者に思わず大声をあげてしまった。幸いにも共有先での出来事だし、僕自身は宿から視ていたから周りには誰もおらず怪しまれずに済んだ。
再び共有すると、勇者の前には身の丈2mはあろうかという大男(?)が立ちはだかっていた。おそらくは男なのだろう。高身長に至る所から覗いている見事に鍛え上げられた肉体、野太い声、日焼けしているのか浅黒い肌、そしてチリチリの見事なアフロ。
しかし僕が疑問を持ったのはその人物の喋り方だった。独特な口調——そう、前世ではたしかオネェ言葉と呼ばれていたか。それを大男が使っているのである。
もうギャップというかインパクトというか、とにかく印象がつよつよすぎてヤバい。
共有越しだからまだマシなのかもしれないけど、いざ目の前にしたら動くことすら出来ないかもしれない。まさに今の勇者みたいに。もしかしたらちびる可能性すらある。
「なンとか言ったらどうなのよ。そっちのコ、嫌がってるじゃない」
「あ......いや、俺は......」
「ったく、ハッキリしない坊やネぇ。もっとシャキッとしなさいヨ!」
「げふぅ!」
うわ、背中叩くだけであんな音するの?痛そ〜。あの勇者ですら強気に出られないっていったい何者なんだろう。
たしかウチの店って言っていたけど......あれって服?あのガタイで服屋さんなの!?ジムとかフィットネスクラブ的なお店じゃなくて!?いや異世界にそんなんあるのか知らないけど。
待って、この世界って裁縫技術......というかミシンとかの機械ってあるの?まさか全て手縫いで作ってる?
やはり筋肉......筋肉が全てを解決するのか......。僕も鍛えないと。あそこまでムキムキなのは遠慮したいけど、やっぱり筋肉ってあったほうがカッコイイじゃん?
ほら勇者なんてもう言葉も出ないで震えてるだけだよ。あの威勢の良さはどこへいったのやら。
ま、これで王都ではナンパやらロクでもないことはもうしないだろう。
フクロウに襲われるのとあの人に絡まれるのとどちらが怖いんだろうか......知らない方がいい事もあるよね、うん。
とりあえず僕もおとなしく剣術大会を見物しておこう。また変なものを見つけてしまっても嫌だしね。
勇者も早いとこ向かったほうがいいよー。団長がいるって知ったらどんな顔するんだろうね。ぷぷぷ。




