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45.


「——ねえジェニー。()()、なんとかしてくんない?」

「無茶をおっしゃらないでくださいまし。 勇者様というのは王家から自由を保障されている存在です。正当な理由も無しにその行動を咎めようものなら、こちらが反逆罪に問われてしまいますわ」


 現在、再び王都へ向けて進んでいるのだが、1台の馬車が勇者一行によって占領されてしまっているのだ。

「王都へ行くなら俺達も乗せていけ」なんて頼み方がなってないよねぇ。授爵式に呼ばれたらしいけど暇を持て余していたところに魔物の目撃情報が飛び込んできて討伐に来たとのこと。

 そしてその勇者のせいでペースがだいぶ落ちてしまっている。なにせすぐに尻が痛いだの喉が渇いただの騒ぎ出すのだ。そのために休憩を増やさなければならず、本当に厄介だ。


「ところでなんでガキが公爵と一緒の馬車に乗ってんだ?」

「あら?いいじゃありませんか。怖い思いをしたのにその後も騎士と一緒の馬車に押し込めるなんて可哀想ではありませんか」


 何度目か分からない休憩の時に勇者が突然問うてきた。ジェニーはこういう時機転が利くから助かるよ。

 しかし勇者たちがいたんじゃ騎士たちの特訓も出来ないなぁ。さて、どうしたものか......ポクポクポクポク、チーン!閃いたぞ!


「ねぇねぇ!勇者様って奥義とか必殺技みたいなのってある?」

「奥義だァ?んなもんあるにはあるが、そんな安易に使っていいもんじゃないんだ」

「えー、光の剣とか飛ぶ斬撃とか、見てみたいなぁ」

「あ?光?飛ぶ?何言ってんだ?」

「勇者様ならカッコいい技で魔物とかと戦うんでしょ?誰もが憧れる勇者様、お願い!」


 『奥義・子供のお強請り』である。ついでに勇者のことを上げておけばノラないわけにはいかないだろう。

 まぁこの反応じゃ期待したようなものは出来ないだろうけどね。


「ダメだダメだ。ガキの遊びになんか付き合ってられるか」

「なーんだ、勇者様って厳しい修行してすごい技放てるのかと思ったけど、女の人侍らせて遊んでるだけか。じゃぁ僕は騎士団の人達と遊んでこよーっと」


 わざわざ絡みに来た勇者を放置して団長たちのいる方へと向かった。あとはジェニーに任せよう、と思いきや勇者は何故か僕の後ろをついてくる。

 お仲間はいいの?あれって勇者のハーレムメンバーじゃないの?放っておいたら愛想尽かされるよ?

 ま、僕としてはついてきてくれたほうが都合がいいから助かるけどね。


「だんちょー!チャンバラごっこしよー!」


 荷物を積んでいる馬車から取り出すフリをして、アニフィから木刀を取り出してから団長の元へと駆け寄る。

 今回のは本当に何の変哲もないシンプルな木刀だ。例の木剣なんか使ってしまうと不自然さが出てしまうし怪しまれるのは避けたい。

 チャンバラと言えば木刀だし、剣より作りやすかっただけだ。この世界に刀があるのかは知らないけれど。


「チャンバラ?これで打ち合えばいいのかい?」


 団長はちゃんと普通の子供を相手するように答えてくれた。馬車の中でアニフィを通してお願いしておいたのだ。勇者と言えどさすがに馬車の中の様子までは知ることは出来まい。


「うん!じゃぁ僕から行くね!(くれぐれも力抜いてよ。じゃないとこんな軽い木刀すぐに折れちゃうから)」

「ああ、かかってこい!(気を付けるとしよう)」

 

 喋ると同時にアイコンタクトでも注意を促しておく。今必要なのは力じゃないからね。

 子供っぽく「やーっ!」という掛け声とともに団長に打ちかかる。僕の方もあくまで軽く振るだけだ。団長はあっさりと受け止めて打ち返してくるので僕のほうもそれを受け流す。

 受けて受け流して躱して打ち返す。そんな普段の特訓からすればおままごとのようなチャンバラごっこをしばらく続けてから、僕はおもむろに草むらに座り込んだ。


「はぁーっ、疲れた!勇者様、選手交代!」

「はぇ?俺?」

「僕もう動けないから、強い勇者様に(かたき)をとってほしいなぁ」

「それはいいですな。勇者殿、ぜひお手合わせ願おう」


 団長からの援護射撃もあるし、見物しようと他の騎士たちがすでに囲んでいる。これで逃げられまい。

 

「......仕方ない、少しだけなら」

「では......参ります」


 勇者が渋々了承した途端に団長が斬りかかった。慌てて構えた勇者に団長の猛攻が襲い掛かる。あくまでも軽く振っているからスピードはあっても威力はそんなにないはずだ。

 だというのに勇者は防戦一方どころか対応しきれていない。そりゃそうだよね。マメひとつもない綺麗な手だったもん。まともに剣を振れるのかすらも怪しい所だ。

 結局勇者は反撃どころか団長の攻撃を捌くことも出来ずに叩かれ放題だった。そしてついに膝をついたところで審判役の騎士が終了の合図を出した。


「ふぅ、ありがとうございました」

「ハァハァ......き、今日はこれくらいで勘弁してやるよ......」


 余裕たっぷりな団長に対してどこぞの悪役みたいなセリフを吐く勇者。本当にコレが勇者で大丈夫?態度も悪いけど、ウチの騎士団長にすらこのザマだと、魔族なんかと出会ってしまったら太刀打ちできないよ。何も考えずに挑発して瞬殺されるのが容易に想像できてしまう。

 やはり勇者に頼るよりも騎士団と僕の眷属を鍛えた方が良さそうだ。新生シュヴェーレン公爵家を色んな意味で最強にしてみせようじゃないか。ふふふ。


 

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